ちっ、ちくしょうめ!」
ハンスだって? 私は双眼鏡を持っていなかったので、博士のようにハンスの顔をはっきり確認することはできませんでしたが、丘を駆け下りてくる人造人間部隊の一番後ろに一台の快速戦車があり、そのハッチから一人の将校が首から上を出して人造人間たちを指揮しているのが見えました。あれがきっとハンスに違いありません。
「おお、ハンスめ、ナチスの旗を立てやがって! なに、モール博士、降伏しろだと? こっちに向かって信号を送っているぞ。な、なん生意気な奴だ!」
博士はカンカンに怒り狂いました。
そして、さらに早口になりながら、ハンスに向かって悪態をつき始めました。
「おいハンス! お前、わしが持っていたB型人造人間の設計図を使って、その人造人間部隊を作り上げたんだろう? 双眼鏡で見ると、なんだかすごく得意そうな顔をしているがな、B型人造人間なんて、さっきのA型人造人間と同じで、中身は不完全なんだぞ! 見ていろ。わしがこのボタンを押せば、その瞬間に、せっかく作り上げた人造人間部隊も、バラバラになって空中に吹き飛んでしまうんだ。さあ、今からその豪華な大爆発を見せてやろうじゃないか!」
遠くにいるハンスに向かって、モール博士は散々に憎まれ口を叩くと、例のスイッチを入れ、指先にぐっと力を込めて、B型人造人間を一網打尽に爆発させるためのボタンを、ポッと力強く押したのです。
「おやっ……?」
思わず声を上げたのは、モール博士でした。
期待していたはずの爆発が、いつまで経っても起きないのです。人造人間部隊は、あいかわらずきれいに行列をそろえて、丘を下りながらこちらへやってきます。
モール博士は、あせっている色をまったく隠そうともしませんでした。
彼は、二度、三度……いや七度、八度と、爆破のためのボタンを何度も押しました。
ですが、爆発は、いつまでたっても起きないのでした。
「どうです、モール博士。
悪いことはできないと、初めてわかりましたか」
と、車のうえにつけてあったラジオのスピーカーから、とつぜんハンスの声が大きく聞こえてきました。
「私のあやつる人造人間部隊を、いくら博士の機械で爆破しようと思っても、それは無理です。
これは、博士が思っていらっしゃるようなB型の人造人間ではないのです」
「うむ……」と、博士はハンスの声に対してうめき声をあげました。
「あの設計図の秘密は、もうすっかりわかってしまったんですよ。
千吉のもっていったA型の設計図だけでは、すぐに不完全な人造人間ができてしまう。
ぼくのもっていったB型の設計図だけでも、おなじように不完全な人造人間ができてしまう。
――そうでしょう。
だから、完全な人造人間をつくるには、A型とB型の両方の設計図をどちらも半分に折って、それぞれの半分ずつつなぎあわせたうえで、そのつぎはぎの設計図によって作ればいいのです。
ねえ、博士、そのとおりでしょう」
「博士。
いまこの丘をくだりつつある人造人間は、その完全な人造人間部隊なんですよ。
そしてもうすぐ、博士を逮捕することになるでしょう。
もう覚悟を決めてください」
ハンスが命令をくだすと、人造人間部隊は、まるで弾丸のように丘をかけ下りてきて、博士を取り囲んでしまいました。
博士は、大勢の人造人間にまるで胴上げをされるみたいに持ち上げられたまま、ハンスの目の前につれてこられました。
私は、あまりにも予想外だったこの出来事に、すっかり気が抜けてしまっていましたが、このときようやく正気に戻り、車をおりるとニーナといっしょにハンスの方へ近づきました。
「いったいこれはどういうことなんだい、ハンス」
私は、どうしても聞きたかったことを、思いきって尋ねました。
「うん、君はびっくりしただろうね。
だけど、理由はとってもシンプルなんだ。
このモール博士というのは、もともとぼくたちの母国ドイツにいた科学者なんだ。
博士は、ナチスのために祖国を追われて、このベルギーへ逃げてきたんだけど、そのとき、モール博士と同僚だったぼくの父親、つまりヘルマン博士の秘密の研究をうばって、そのまま逃げ出してしまったんだ。
しかもぼくの父親は、モール博士のために毒を盛られて、とつぜん心臓マヒで倒れてしまったものだから、博士がやった悪いことが、長い間わからなかったのさ。
だけど、ドイツの警察や軍のいっしょうけんめいな捜査によってモール博士の居場所がわかり、ぼくは身分をかくして博士のお弟子さんになり、盗まれた秘密の研究をとりかえそうと、苦労してがんばっていたんだ。
もし君かぼくのどちらかが途中でどうにかなっていたら、設計図が中途半端になってせっかくの苦労も水の泡になるところだった。
だけど、A型の人造人間をエックス線で調べて、かみ合わない二つの歯車があることを見つけたからこそ、君のもっていたあの設計図だけでは完全な人造人間ができないことに気づいたフリッツ大尉は、ぼく以上に大あっぱれな功労者さ。
君をわざと逃がして、その行く先にモール博士が待っているだろうと当ててみせたのはもちろんぼくだけど、こんなにうまくいくとは思わなかったよ。
とにかく、父がのこした大事な研究をとり戻せて、これほどうれしいことはないよ」
そう言って、ハンス少尉は、ぼくとニーナの手を代わるがわる、力強く握りしめたのでした。
ハンスの父親であるヘルマン博士の研究によって生まれた「完全な人造人間」の部隊は、きっとそのうちヨーロッパ戦線のどこかに姿をあらわし、ドイツ軍に立ち向かう敵の軍隊を、徹底的に打ち負かすにちがいないのです。
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