初級翻訳・人造人間の秘密 第6話

人造人間の秘密

いつの間にか、例の怪自動車が、私たちの前に停っていた。
そして、車上からこっちを向いている髯もじゃの顔!
「おお、モール博士じゃありませんか。
これはおどろいた」

ふしぎな再会

モール博士と、行きあったのだ。
ふしぎなところで、一緒になったものだ。
「おどろいたのは、わしの方のことだ。
君はいつの間に、あの黒い筒の中に入れておいた設計図を使って、こんな人造人間を作りあげたのかね」
博士は、車上から、こわい顔をして、私たちを睨みつけた。
そういわれると、私は一言もない。
私は、もう仕方がないと思ったので、こうなったわけを手短かに、博士に報告した。
博士は、私の一語一語に、顔を赤くして、ドイツ軍を呪っていた。
しかし、私に対しては、思いの外、不快に思っていないらしい。
「博士。
でも、へんですな」
「なにが、へんだ」
「でも、私は、この人造人間が、私たちを国境附近へつくまでは、全速力で走るように、ちゃんと器械を合わして来たのに、ここで停ってしまったのは、どういうわけでしょうか」
「なんだ、そんなことか。
それは造作ないことさ。
ふふふふ」
博士は、奇妙なこえをあげて、笑った。
「造作ないとは?」
「つまり、わしが停めたのさ。
発明者であるわしには、あの設計によるA型人造人間を停めることなんか、わけはないのだ。
幸いに、その器械をつんだ自動車が、あそこにああして、こわれずに、ちゃんとしているんだ」
と、博士は得意そうにいった。
なるほど、これは道理である。
この人造人間がA型という名のついているものであることは始めてしったが、そのA型人造人間の発明者であるモール博士が、それを停めたり、また走らせたりする器械をもっているのは、ふしぎなことではない。
「そんなことは、なんでもないが、ベン隧道の下の、ドイツ軍の秘密の地下工場で、早速このようなりっぱな実物をつくりあげてしまったことは、腹も立つが、なんとおどろくべき、製造力だろう」
と、さすがの博士も、舌をまいた。
「博士はこれから、どうされるのですか」
「わしかね。
わしは、やはり国境を越えて、フランスに入るつもりだ。
君にあって、たいへんうれしいが、あと、ハンスのことが気がかりだが、仕方があるまい。
では、君たち、わしの自動車に、一緒にのったがいい」
博士は、車上から手招きをした。
ニーナは、さっきから、道傍に身体をなげだして、死んだようになって、疲れを休めていたが、これを聞くと、むくむくと起きあがって、博士の自動車の方へ、よろめき歩いて行った。
私も、ニーナにならうより外はない。
しかし、この人造人間を、このままにしておくのは、たいへん勿体ないことだと思ったので、
「博士、この人造人間は、どうしますか」
と、たずねた。
博士は、車上にかがんで、受話器を耳にあてて、何かの音を聞いていたが、このとき髯もじゃの顔をあげ、
「この人造人間は、ここで片づけていく」
「片づけていくとは……」
「なあに、壊していくのさ」
「そんなことが出来るのですか」
「出来るとも。
わしが設計したんだもの。
しかもこのA型人造人間も、ハンスの持っているB型人造人間も、じつはどっちも、不完全なんだから、こわすのは、わけなしだ」
博士は、妙なことをいいだした。「不完全ですって? いったい何が不完全なんですか」
「そのわけはね、ひとことでは言いにくい。だが要するに、ちょっと使っただけで、すぐに壊れてしまうようなものは、不完全の証拠なのさ。わしは……」
言いかけた博士は、そこで急に言葉をピタリと止め、真剣な顔をして受話器から流れてくる音に耳をすませました。
「おお、そうか! いよいよやって来たか!」
「やって来たって、何がやって来たんですか?」
「人造人間部隊の襲来さ! おそらく、お前たちが出発したすぐそのあとを追って、ドイツ軍が送り出したものにちがいない。おお、見える見える、もうあそこまで来ているぞ! ちくしょう、わしの大切な発明品を盗んでおいて、それでわしを攻撃するとは、なんてけしからんドイツ軍だ! だが、今に見ているがいい!」
博士は、数々の呪いの言葉を、遠くの地平線めがけて投げつけました。

はるか後ろの、すっかり明るくなった地平線のほうを見ると、いつの間に追いついてきたのか、三、四百人もの人造人間部隊が、肩を並べ、顔を揃えて、大河の流れのように、すごい勢いでこちらへ押し寄せてくるところでした。
「あっ、撃ってきたぞ!」
「えっ!」
「人造人間の腕にとりつけられた機関銃が、一斉にこっちを向いて、撃ち始めたぞ!」
ダダダン、ダダダン、ダダダン!
ものすごい銃声です。
銃弾は、ヒューン、ヒューンと恐ろしいうなり声をあげながら、私たちのまわりを飛び交いました。
私は博士に促されて、急いで自動車の荷台へと飛び乗りました。
「見ていろ、千吉。今にあの人造人間部隊を、一網打尽にぶっつぶして見せるからな!」
博士がしらが声で叫ぶと、車載の機械のスイッチを入れ、ボタンをポンポンと連続して押しました。

「あれを見ろ!」
ものすごい轟音が、人造人間部隊の真ん中から巻き起こりました。
私は生まれてこのかた、こんなにもスカッとする光景を見たことがありません。
一瞬のうちに、人造人間部隊は木端微塵(こっぱみじん)に砕け散り、空中にパーッと飛び散っていったのです。
その様子は、まるで飛行機が空中でバラバラになる事故のようでしたが、何百体ものA型人造人間が一斉に分解して吹き飛んだのですから、その大迫力と壮観さといったら、もう言葉では言い表せないほどでした。
ドイツ軍が人造人間を使って私たちを追いかけてきたのも、博士の技の前にはまったく無駄骨に終わったというわけです。

「さあ、この隙に国境まで急行するぞ!」
博士が力強くハンドルを切りました。
私たちの乗った自動車は、空中に舞い上がったA型人造人間の破片がまだ地上に落ちてこないうちに、国境めがけて猛スピードで走り出したのです。
「向こうに見えるあの丘を越えれば、国境はもう目の下だ! あと七、八十キロってところだな!」
博士が元気な声で言いました。
私たちの自動車が、ちょうどその丘のふもとに差し掛かったとき、博士は何かハッと思ったのか、
「あっ!」
と叫んで、大急ぎで急ブレーキを踏みました。
「どうしたのですか、モール博士!」
私は博士の背中越しに声をかけました。
「まただ! また人造人間部隊が現われたぞ。おい、あれを見ろ! 行く手の丘の上から、こっちに向かって下りてくる!」

なるほど、博士の目はさすがに鋭い。
教会の垣根のようにきれいに整列して、人造人間と思われる部隊が、例のすり足の行進で、ザクザクとこちらに向かって歩いてくるではありませんか。
博士は車をピタリと停めると、双眼鏡を取り出して、新手の敵の人造人間部隊をじっとにらみつけました。
「おお、なんと、後ろにハンスがいるではないか! あいつ、最初からドイツ軍のまわし者だったんだな。

コメント

タイトルとURLをコピーしました