それは、この恐るべき怪星ガンからテッド隊が脱出する秘密計画と、密接なつながりがあったからなのです。まず、帆村はテッド隊長に、三根夫が例の変調眼鏡を手に入れたことを報告しました。
そしてその眼鏡を使ってみると、確かにガン人の奇妙な姿がありありと見えることや、試しに各部屋を回ってこの変調眼鏡で見てみると、ほとんどの場所にのぞき穴が用意されており、ガン人がしばしばそこから首を突き出して、室内の様子をうかがっているのが見えたことを告げました。
「おお、なるほど、なるほど」
隊長であるテッド博士も、さすがにこれには驚いて、さっと顔色を変えました。
「それで、今この部屋には、顔を出していないのかね」
それは大丈夫でした。
帆村は、三根夫から借りてきた変調眼鏡を頭からかぶり、天井の換気穴に注意を払いながら、ガン人がのぞいていないことを確かめてから話していたのです。
「それで、隊長。私はこの際、三根夫を使ってどんどん南京ねずみを売り出し、あの不思議な働きをする変調眼鏡をどんどん買い込みたいと思うのです。どう思われますか」
「それはいいことだ。そういうものがあるなら、われわれはそれを利用して、ガン人に対抗していきたいと思うね」
「では、さっそくその用意をしましょう。南京ねずみも、大いに繁殖させるよう飼育班を編成いたしましょう」
「そうだ。そのほうのことは君にまかせる。そして今、わしは重大なことを思いついたのだ。もっとこっちへ寄りたまえ」
テッド隊長は引き寄せるように帆村をそばへ招くと、こう言いました。
「われわれはこの国で今たいへんよく待遇されているし、またいろいろ観察したところ、ガン人はわれわれよりもずっと優れた科学力その他を持っているように思う。しかし、われわれはこんなところにいつまでもとまっていることはできない。われわれはできるだけ早い機会にこの国を脱出しなくてはならない。わしは、ずっと前から脱出の決心をして、いろいろとその方法を考えていたところだ。君も、わしの気持ちはわかってくれるだろう」
「は、もちろんですとも」
「そこで、脱出に必要なさまざまなものをわれわれは手に入れたいのだ。その変調眼鏡もその中の一つだが、そのほかにも必要なものがいろいろある。実は、何がこの国から脱出するのに必要なのか、その研究もまだ十分にはできていない。これからみんなで手分けして研究しながら、必要な脱出道具を手に入れていきたい。これは表向きに言ったのでは手に入らないことがわかっている。ついては、これから先、三根夫君の手によってそれをやってもらいたいと思うんだ。どうだね、君の意見は」
「隊長にあらためて敬意を表します。その固いご決心と、念入りなご準備のことをうけたまわって、私も嬉しいです」
「じゃあ、その方針で進むことにしよう。これは非常に困難な事業だが、われわれは全力をあげて成功させなくてはならないんだ」
テッド隊長と帆村荘六の手は、しっかりと握られました。
**計画公表**
「怪星ガンから脱出するんだ」隊長の固い決心は、ひそかに隊員全員に伝えられました。
「しかし、そのことは、あくまでガン人には悟られないように注意をする必要がある」
もっともなことでした。
怪星ガンの住人が隊員の待遇をたいへんよくしているのも、結局は隊員たちを長くここにとどめておきたいからなのでしょう。
だからもし、隊員がここから脱出する決意を知ったら、ガン人はきっと怒り出すでしょうし、待遇は悪くなり、自由は奪われるに違いありません。隊長が隊員たちに極力秘密を守るようにと言ったのは、もっともなことでした。
「みんなは、それぞれ脱出に必要な知識を得ることに気をつけていること」
捕虜生活に気を腐らせていた隊員たちは、隊長の決心がわかったことで、困難ではありますが大きな希望をつかむことができました。
だから隊員たちは、目に見えて元気になりました。
ガン人の監視がないと思われる真夜中に、念のために変調眼鏡であたりをよく調べたうえで、隊員たちはベッドから顔を出して、それぞれの脱出計画の意見を交換することが流行しました。
「俺の考えでは、なんとかして天窓を開けることだと思う」
「なんだ、天窓だって。屋根に天窓を開けるのかい?」
「そうじゃないよ。怪星ガンの天井に天窓を開けることを言っているのさ」
「ふん、怪星ガンの天井に天窓が開けられるのかい。第一、天井とはどこを指して言うのかね」
「わかっているじゃないか。本艇がこの前、怪星ガンの捕虜となったときに、ほら、空が四方八方から包まれていったじゃないか。あの包んだ白っぽいものが、怪星ガンの天井なんだ。その天井になんとかして、天窓を開ける方法はないものかな」
「さあ。どうすればいいかな。とにかくその怪星ガンの天井まで登らなくちゃならないね」「その天井は、相当高いところにあるんだろう。どこから登っていけばいいか、その研究が先だね」
「相当遠いと思うね。飛行機に乗っていかないと、あそこまで行き着けないのではないか」
「えっ、飛行機だって? そんなに高いところにあるのかい。何千メートルというほどの上にあるのかい」
「いや、はっきりしたことはわからないが、あのときの感じでは、そう思った」
「ぼくも、天井が何千メートルも高いところにあるという考えには賛成だが……」と、別の隊員が言った。「しかし、どうもわからないことがある」
「それは何だね」
「本艇から、あの繋留塔(けいりゅうとう)を降りて街へ行くが、本艇と街と、いったいどっちが、怪星ガンの中心に近いのだろうか」
「なんだって?」
「つまり、ぼくははじめ、本艇のほうが怪星ガンの表面に近くて、街はそれより深い所にあると思っていたんだ。ところがこの頃になると、そうではなくて、その反対のように考えられるんだ」
「それは違うよ。反対だね。君の言うように、街のほうが本艇よりも怪星ガンの外側に近いところにあると仮定すると、重力の関係があべこべになるじゃないか。なにしろ足の方向に、重力の中心があるはずだからねえ。だから本艇よりも、街のほうが怪星ガンの中心に近いのだよ」
「いや、それでは怪星ガンの構造がおかしくなるよ。街の上に、本艇がいまふわりと浮いている空間があって、その外にまた何か怪星ガンの外側の壁があるというのは、おかしいと思うね」
「さあ、どっちかな」
脱出方法を見つけることは後回しで、怪星ガンの構造のほうがやっかいな問題を引き起こしてしまい、討論は果てそうにもない。このことについて、三根夫少年は隊長のテッド博士から秘密の指令を受けて、非常にむずかしい行動に移ることとなった。
もちろんそれには、帆村荘六がついていて、できるだけ手落ちのない計画を立て、準備をしたのであったが。三根夫の冒険である。その冒険に、隊員たちの全部の運命がかかっていた。
その三根夫は、ある日、何食わぬ顔でサミユル博士邸を訪れて、例のハイロに会いにきた。三根夫は、紙で包んで赤いリボンをかけた四角な箱を抱えていた。その箱の中には何が入っているのであろうか。三根夫はいまや冒険の第一歩を踏み出したのである。
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