**三根夫の変装**
この日ハイロは、三根夫少年を連れて、この怪星の中の名所を案内する約束になっていた。ハイロは、三根夫のおかげでずいぶん富を増やした。そして三根夫とも仲よしになって、三根夫が頼むことについては、できるだけ便宜を与えていたのだった。
「ぼく、この国の名所を見物したいなあ。まだ少しも見ていないんだもの、ハイロ君、ぼくを見物に連れていってくれない?」
三根夫がそう言い出したとき、ハイロは困った顔をして言った。
「それはできないことですよ。この国の人間でないと、この国の中を自由に歩くことはできません。見つかれば、三根夫さんはすぐ捕らえられて、牢の中へ放り込まれ、死刑になってしまうでしょう。だから、そのことばかりはダメです。あきらめてもらいましょう」
しかし三根夫は、あきらめなかった。なお、いろいろとハイロにねだったり、質問しては彼の考えを言ったりした。
「それじゃあ、ぼくがきみたちと同じような顔や身なりをしていれば、それでいいんでしょう。そんなことはわけないや、ねえハイロ君。ぼくのために、きみと同じ顔つきのお面をこしらえてくれたまえ。頭からすっぽりかぶれるような構造になっているのがいいね。それからきみの服を貸してくれたまえ。なるべく裾(すそ)が長くて、足が隠れるようなのがいい。そして、他にきみたちの仲間がいるときは、ぼくは決して口をきかなければいいんでしょう。ねえハイロ君、そうしようよ」
そう言われて、ハイロはしぶしぶ承知してしまった。
「じゃあ、そうしますか。しかし、へたをすると大変なことになるがなあ」
「大丈夫だよ、ハイロ君。ぼくは、へまなことはやりゃしないよ」
「それでは、お面と服と靴は、わしが用意をしましょう」
そこで三根夫は、怪星ガンの名所見物をすることができるようになったのだ。もっとも、この妙案は三根夫が考えついたものではなく、あらかじめテッド隊長の前で幹部が集まって知恵を絞ったもので、主として帆村荘六の考え出したものだった。
さて三根夫は、サミユル博士の家へハイロを訪ねていった。ハイロは、その日は機嫌がよくなかった。
「三根夫さん。あぶないから、見物はもっと先に延ばしましょう」
「いやいや、早いほうがいいよ。ぼくは、もうちゃんとお土産なんかも用意してきたんだもの」「約束通り、すぐに出かけようよ」三根夫は、ハイロがまだ見たこともない品物を贈り物として手渡しました。
それは、オルゴール人形でした。
箱の上には、美しい少女の人形が立っています。
箱の横にあるネジを巻き、人形の背中についているボタンにそっと触れると、美しいオルゴールのメロディが流れ始め、同時に人形がくるくると踊り出しました。
このオルゴール人形は、三根夫が地球を出発する際に買い求めた三つの品物の一つで、一番高価なものでした。
この贈り物は、ハイロに大変気に入られました。
ハイロはオルゴールの音色に合わせて、人形と同じような格好で踊り出したほどです。
さっきまで悪かった彼の機嫌も、どこかへすっかり吹き飛んでしまったようです。
「そのほかにも、この箱の中には十匹の南京ねずみを入れてきたんだ。
万が一、途中でやかましく言うやつがいたら、これを一匹ずつあげて機嫌を直してもらおうと思っているんだ。
ハイロ君、うまく頼むよ」
「ああ、それはいい考えだ」
「もし、見物がおわるまでに南京ねずみが余ったら、全部きみにあげるよ」
「おお、それはたいへん結構です。
それでは、あなたの支度を始めましょう」
ハイロは、三根夫のために、ちゃんとガン人のお面と服、そして靴を用意していたのです。
まずは靴を履きました。
こうしておけば、ガン人と同じ足跡がつきます。
それから、お面をすっぽりと頭からかぶりました。
お面は胸のあたりまで届く長さです。
その上に服を着ました。
すると三根夫は、すっかり頭でっかちのガン人の姿になりました。
「目の位置は、よく合っていますか」
「ああ、ぴったりですよ。
これはありがたい、変調眼鏡もつけておいてくれたんだね」
「そうですよ。
それがないと、我々の仲間がどこにいるのか分からなくて、きっと失敗してしまいますからね」
「これは便利だ。
さあ、出かけよう」
「出かけましょう。
留守番のカルカン君に、あとをよく頼んできます。
そうだ、この南京ねずみの入っている箱は、私が持ってあげましょう」
「あ、それはいいんだ。
ぼくが持っていくよ」
三根夫は、テーブルの上に置いた箱の方へ急いで両手を伸ばし、それを大事そうに抱えました。
実はこの箱には、南京ねずみが十匹入っているだけでなく、秘密の写真機と録音機が仕込まれていたのです。
その使い道は言うまでもありません。怪星ガンの重要施設を写真に収めたり、脱出方法を見つける手がかりとなる音や、ガン人の会話を録音してくるためでした。
なるほど、こんな大切な箱なら、ハイロに持たせるわけにはいきません。
秘密の地階へ
ハイロは三根夫を連れて外へ出ました。
一見すると、二人のガン人が歩いているようにしか見えません。
後ろを振り返ったり、横を見たりと忙しそうに体を動かしている背の高い方がハイロです。
三根夫はハイロよりも少し背が低く、見とがめられないようにと、体を硬くして歩いていました。
ハイロは、三根夫が今まで見たことのない場所へ案内してほしいというので、まずは地下道へと入っていきました。
これまでテッド博士をはじめとする地球の人間は、この地下道への立ち入りを一切許されていなかったのです。
そこには工場がずらりと並んでいました。
なぜこれほど多くの工場が並んでいるのか、なぜそんな必要があるのか、三根夫にはわけがわかりません。
そこで、そっとハイロに尋ねてみました。
「そんなことはわかっているでしょう。
我々の生活に必要なものを十分に作るには、これだけの工場が必要なんです」
そこは生活必需品の工場ばかりでした。
家具を作ったり、道具を作ったり、紙や衣料品を作っているのです。
食べ物を加工する工場もたくさんありました。
三根夫は一つ、疑問を思いつきました。
「ハイロ君。
この国にはどこに畑があるのかな。
果物や野菜を作るには、やっぱり畑が必要でしょう」
「ふふふ。
それはもう一階下ですよ」
そう言ってハイロは、三根夫をさらにもう一階下へと案内しました。
地階へ降りるには「動く道路」というものがあって、それに乗っていると、少しずつ爪先下がりにぐるぐると回りながら、いつの間にか地階へ到着するのでした。
エレベーターよりもずっと進歩した仕掛けだと思われました。
「ほほう。
これは温室村に来たようだね。
うわあ、すばらしく広い温室だ」
「しっ。
声が高い」
三根夫は、ハイロから注意を受けました。
まったく素晴らしい温室式の農場でした。
いや、工場のような農場だと言ったほうがいいかもしれません。
何段にも野菜の植わった棚が遠くまでずらりと並び、まるで美しい縞模様のようでした。
太陽はありません。天井からは特殊な光線が野菜棚を照らしており、太陽の光を浴びるよりもずっと立派に育つ仕組みでした。
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