「おや、おまえは地球人だな。
地球人が許可もなくこんなところをうろついているとは、けしからんじゃないか。
おい、面を脱げ!」
ガン人は、三根夫のかぶりものの上から、ぼこぼこと頭を叩いた。実に鋭い聴覚を持つガン人だった。
「まあ、待ってください!」
ハイロが三根夫を背に隠して前へ出た。するとガン人は、ハイロを殴りつけようとした。ハイロは間一髪でそれを避けた。
「まあ、待ってください。
この者は地球人ではなく、同じガン人なんです。
ただ、口が利けなくて耳も聞こえませんから――」
「馬鹿を言うな!
騙されるか。
地球人に違いない。
その証拠に、そいつは地球人の言葉で二度も叫んだじゃないか。
さあ、正体を現せ!」
そう言うと、ハイロよりも背の高いそのガン人は、ハイロの頭越しに両手を伸ばした。そして三根夫がかぶっているお面の両耳をつかむと、手前へ強く引っ張った。
お面はすっぽりと脱げ、下から三根夫の真っ赤な顔が露わになった。
「やっ、貴様はテッドの部下の三根夫という子供だな。
ますますけしからん。
何をしにこんなところへ来た!」
そのガン人は、三根夫のことを知っていた。
間に挟まっていたハイロは、これは面倒なことになったと考えた。
このガン人によって三根夫が突き出されれば、ハイロ自身も相応の重い刑罰を受けることになるだろう。
そう判断したハイロは、とにかくここで相手を打ち倒し、気絶している隙に三根夫の手を引いて逃げれば、あるいは自分の身分を隠し通せるかもしれないと考え、全身の力を込めて大男の顎を突き上げた。不意を突かれた相手は「うッ」とうめき声を上げ、後ろへよろめいて、仰向けにどたんと倒れました。
すると、驚くべきことが起きました。
その男の頭部が外れて、ころころと向こうへ転がっていったのです。
つまり、彼もまたお面をかぶっていたというわけでした。
「この野郎!」
くるっと一回転すると、彼はすっくと立ち上がりました。
お面の代わりに現れたのは、怒りと不安にゆがんだ地球人の真っ赤な顔でした。
その顔を見て、三根夫ははっとしました。
「やあ。ガスコだ。スコール艇長と名乗っていたガスコだ」
読者の皆さんも覚えているでしょう。
この物語の冒頭に現れた、覆面の怪人ガスコです。
また、ギンネコ号の艇長スコールだと名乗り、テッド博士が乗っているロケット第一号の中に変装して潜り込んできたあの怪しい男です。
あのとき三根夫は、熱線を彼の変装した姿に浴びせ、付けひげなどを溶かして落とし、化けの皮を剥ぎ取ったことがありました。
その怪人ガスコが、こんなところにいたのです。
「ふふん。俺のことを知っていたか。よし、そうなればなおさら、お前たちを許しておけないぞ。ここで二人とも、息の根を止めてやるんだ。こら、動くな。手を上げろ!」
ガスコの両手には、いつの間にか二挺のピストルが握られており、その銃口は三根夫とハイロの胸元に向かっていました。
もう、万事休すです。
三根夫は両手を上げました。そのとき、撮影録音機が入った包みが、ごとんと音を立てて下に落ちました。
ハイロもまた、三根夫と同じように手を上げました。
ガスコはすっかり威張り散らして言いました。
「ははは。ざまを見ろ。ここで貴様たち二人を片付けてしまえば、俺の立場はますます安全になる。俺は運がいいよ」
と、妙なことを言いました。
三根夫は、ちらりとハイロのほうを横目で見ました。するとハイロは、首も手足もなく、服だけが両手を上げているような状態で、表情をうかがい知ることはできませんでした。
これには困った、と三根夫は思いました。
ガスコはハイロのほうへ寄っていきました。そして一挺のピストルをポケットにしまい、空いた手でハイロの頭を手探りして、その大きな耳を掴みました。
「やい。貴様も早くお面を脱ぐんだ」
「あいたたたたッ!」
ガスコは、ハイロが正真正銘のガン人であることに、もっと前に気づいていなければなりませんでした。
ハイロの頭や手足が見えなくなった時点で、ハイロこそガン人の一人だと悟るべきだったのです。
ところがガスコは、最初からハイロを三根夫と同じ地球人だと思い込んでいたために、この重大な間違いをしでかしたのです。
ハイロは、痛いほど耳をねじられたので、すっかり腹を立てました。
「乱暴なことをする奴だ。おまえさんは何者だ。見れば地球人じゃないか。地球人のくせに、ガン人であるわしを殺すというのかい?」
そうハイロに詰め寄られて、ガスコは返事に窮しました。
ガン人を殺すことは許されていないのです。万が一そんなことをすれば、後で極刑になることは分かりきっていました。
「いや……貴様はガン人なものか。地球人に違いない。早くそのお面を脱ぐんだ。脱がないと、このピストルが火を吹くぞ!」
ガスコは苦しまぎれに、ハイロを地球人だと言い張って、この場の不利をごまかそうとしました。
ハイロはますます怒りました。
「馬鹿なことを言うな。おまえさんじゃあるまいし、顔の皮を剥いで、下からもう一つ顔を出すなんて、そんな器用なことができるものか。わしはガン人だ。見くびってもらうまい!」
「いや、ガン人なものか、地球人だ! 引っ立てて、警備軍へ突き出してやるぞ!」
さすがのガスコも、相手がガン人だと分かってはピストルの引き金を引くわけにいかなくなり、今度は警備軍へ引き渡すと言い出しました。
このとき、三根夫がハイロのところへ寄りました。そしてハイロの耳元で、何かをささやきました。
ハイロは大きくうなずくと、目を皿のようにしてガスコのほうへ一歩踏み出しました。
「わしはガン人として、おまえさんに聞き質すことがある。おまえさんは、何の理由があって立入禁止のこの天蓋をうろついているのかね?」
「うむ。それは……」
ガスコは痛いところを突かれて、醜い顔をいっそうゆがめて、言葉に詰まりました。
「まだおまえさんに聞くことがある。おまえさんが、あそこへ置いてきた長い筒は、いったい何に使うものかね。あれは強力な信号灯のように見えるが、おまえさんはあんなものを持って、ここで何をしていたのかね?」
「ちがう、ちがう! そんな大それたものではない。それに、あれは俺の持ち物ではなくて、ここで拾ったものだ!」
ガスコはしどろもどろの返答をしながら、目を横に走らせて三根夫をにらみつけました。あの三根夫め、ハイロに知恵をつけたな……。そう思うと、ガスコはうらめしくてたまりませんでした。
「拾ったものだって? よろしい。ガスコ君とやら。それでは、しかるべき場所へ行って、自分で説明するがいいだろう。わしが、君を警備軍へ引き渡してやる」
「いや、俺が貴様らを警備軍へ引き渡すんだ。貴様たちこそ、こんなところへ入り込んで怪しい行動をとっていたことは明白だ!」
両方が互いに言い争っていたその時、階段の下のほうから、たくさんの足音が入り乱れてこちらへ近づいてくるのが分かりました。
「来た!」
「来たな。さあ、大変だ」
「ちぇっ、しまった。貴様たちがぐずぐずしているから、こんなへまなことになるんだ」
三根夫とハイロ、それにガスコも、三人が三人とも顔色を変えました。
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