初級翻訳・大宇宙遠征隊 第17話

大宇宙遠征隊

乗組員の約半数は、噴行艇のまわりに立って警戒の位置についた。
残りの乗組員は噴行艇の機関部やその他の場所に配置され、万が一の場合には、故障したままでもとにかく月世界から離陸できるように用意をととのえて待つこととなった。
辻中佐は、アシビキ号の幕僚たちと共に噴行艇の中の司令所に立てこもり、どんな命令でも出すことができ、すぐに通信もできるような位置についた。
今なお大宇宙を予定の進路どおりに飛んでいる司令艇からは、アシビキ号に向けて絶えず無電で問い合わせがあった。
アシビキ号のことをたいへん心配して、無線を送ってくるのであった。
辻中佐は、斥候隊から良い報告が入るのを今か今かと待ちわびていた。
しかし、彼らが出発してからもう一時間にもなるのに、何の良い報告も入ってこなかった。

「第一斥候隊報告。
ただいま、ミドリ大溝をカンガルーのように飛び越えたところです」
だとか、
「第二斥候隊報告。
ただいまサギ山の頂上にあり、付近を念入りに調べたけれども何の手がかりもありません」
だとか、どの報告も似たりよったりであった。
五つの斥候隊のうち、どうしたわけか、第四斥候隊だけが、出発以来何の報告もしてこないのであった。
「どうしたんだろうな、第四斥候隊は」
と、艇長の辻中佐は幕僚をふりかえった。
「さあ、どうしたわけでしょうか。
こっちからもさっきからたびたび第四斥候隊あてに無線で信号を呼び出しているのですが、まったく応答がありません」
「無線機がこわれたのかな」
「さあ、そんなことはまずないはずだと思います。
ここを出発するときに、そういう機械類は十分に点検していくことになっていますから、故障のはずはありません。
しかし、ひょっとすると……」
と、この幕僚は、そこで次の言葉をのみこんだ。
「なんだね、ひょっとするとどうしたというのかね」
「いや、あまり不吉な言葉を口にしては申し訳ないと思い、ためらっているのですが……ひょっとすると、第四斥候隊は火星人の猛撃をうけて、どうかなってしまったのではありますまいか」
「おお、そうか。
火星人の猛撃をくらってどうにかなってしまったのではないかというのか。
ふうむ」
辻中佐は腕組みをして、頭を左右に振った。
「わしはそうも思わないが、なにしろ何も言ってこないし、こちらから呼び出しても返事をしないのだから、こいつは困ったものだ。
もう少し待ってみよう」
辻中佐は、机の上に広げた月世界の地図へと再び目を落とした。しばらくたって、中佐の背後で、壁に取り付けられた無電配電盤の前において、受話器を頭につけてしきりに連絡をとっていた無電員の一人が、突然大きな声をあげた。
その声があまりに大きかったので、艇長も幕僚も思わずそちらを振り返った。
するとその無電員は、一枚の受信紙をつかみ、幕僚の方へ振りながら、
「大変です!
第五斥候隊からの救難信号です。
そして、その信号の途中で、無電がプツリと切れてしまいました。
この電文をご覧ください!」
と、無電員ははあはあ息を切らしている。
よほど驚いた様子らしい。
その受信紙は、すぐに艇長の前に広げられた。
電文にははじめに決まり通りの救難信号があり、そのあとに本文が続いていたが、
「……人間ほどの大きさがある、あやし気な甲虫の形をした怪物およそ十匹にとりかこまれた。
わが携帯用無電機めがけて、拳を振り上げてやって来る。
無電機をこわすつもりか……」
そこで電文は途切れている。
ああ、第五斥候隊の遭難!
さきほどは第四斥候隊が行方不明になって心配していたところへ、今度は第五斥候隊が突然怪物たちにとりかこまれたというのだ。
この怪物たちとは、火星の一隊であることにちがいない。
月世界の上で、またもや血なまさい事件がもちあがったのである。
辻中佐をはじめ、アシビキ号の乗組員たちは、底知れぬ恐怖のどん底につき落とされたような心地だった。

「おい、無電員。
今の第五斥候隊の位置はわかっているか?」
「はい、大体の見当はついております」
「今の最後の無電を送ってきたとき、方向探知器で、その電波の発射位置をたしかめておいたか?」
「はっ、それはとうとう間に合いませんでした。
しかし、その十五分前に届いた電波で方向をしらべてありますので、まずそれで間違いないと思います」
「その地点はどこだ?」
「ヨーヨーの峡谷です。
大砲岩から北の方へ十キロほど行ったところです」
「ふむ、ヨーヨー峡谷か」
辻中佐は地図の上からヨーヨー峡谷の場所をさがし出すと、そこに赤い三角旗のついたピンをグサリと突き刺した。
「救援隊に出発を命令せよ! 二隊を送るんだ。
急がなければならんぞ!」
辻中佐が命令を下すと、幕僚はすぐにマイクを手にとり、艇の外で待機していた予備隊の二隊を救援隊として出発させた。
いよいよこれは大きな戦闘になるだろう。
住み慣れることすらない月世界の上で、地球の人間よりもずっと優れた頭脳の持ち主だといわれる火星人と戦うのだから、これは並大抵ではない大きな覚悟が必要だった。
乗組員たちの顔がくもる。
仲間の同胞が今まさに危難に苦しんでいるのだと思うと、胸がしめつけられるようだった。
いったいどうなるのだろうか、この戦いは。
月世界での大乱闘の果てに、もしアシビキ号の乗組員が一人のこらず火星人のために倒されてしまい、そのうえ噴行艇まで奪われてしまうようなことがあれば、それは一大事である。
それは大宇宙遠征隊にとって一大事であるばかりか、ひいては地球人類全体にとっても大いなる危機であった。
なぜなら、火星人が地球の人類を見くびって、これから先どんな攻撃をしかけてくるか分かったものではないからだ。
だからこそ、我ら地球人類は、ここでどんなことがあっても火星人に負けるわけにはいかないのだった。
いま辻中佐の頭の中では、とっさに、あれやこれやと作戦や策略がぐるぐると渦巻いていた。
どの作戦を採用すれば、火星人を打ち負かすことができるだろうか。
もっと火星人の様子が知りたい。
火星人たちがどのように攻めてくるのか、それが知りたいのだ。
それが分からないかぎり、こちらから打つべき良い手が思い浮かばない。
「おい無電員、現場からの報告はまだ来ないのか?」
「はい、あれきりです。
新しい報告はまだ一つも入っておりません」
「そうか、ふうむ……」
そう言い合っている最中、無電配電盤の監視灯が、パッパッと点滅した。
「おや、第四斥候隊がこちらを呼んでいるぞ!
これは珍しい」
「なにっ、第四斥候隊か? それに間違いはないのだな?
今まで何の知らせもよこさなかった、あの第四斥候隊か?」
艇長は席を立つと、無電員のそばへと駆け寄った。
しかし無電員はそれに返事もせず、夢中になって無線を受け取り、その電文を紙のうえに猛烈な勢いで書きつけていた。
ああ、それはまぎれもなく、第四斥候隊からの初めての報告だった。
辻中佐は、忙しく動く無電員の手の隙間から、次のような電文を読み取った。
「第四斥候隊報告。
わが隊は少し考えがあって、火星人の一隊を発見するまでは電波を発信しないことに取り決めておいた。

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