「せめてもう一発でも――畜生、もう一発あれば、あの艦橋にドカンと一発食らわせてやるのに! ちぇっ、残念だ!」
掌砲長が大砲の取っ手を握りしめて、口惜しそうに敵を睨んで叫ぶのを、あざ笑うかのように敵弾はブンブンと飛んできて、ところ構わず命中します。それなのに、こちらからは打ち返す弾薬が尽きてしまったのです。いよいよ、自ら船を爆破して沈めるべき最後の時が迫ってきました。
二
非情な瞬間です。
と、その時、突然、後部の巻揚機(ウインチ)がガラガラとすさまじい音を立てて、その五、六本の鋼鉄のワイヤーの先に吊るした鍵付きの滑車が、弾薬庫へスルスルと滑り込みました。
それを真っ先に見つけたのは掌砲長でした。
「やあ、ありがたい! えらいぞ下村! 積荷の弾薬に気がついたのか。しっかりやってくれ!」
掌砲長は、下村が弾薬を自分の方へ回してくれるものと思い、飛び上がって喜びました。
しかし、巻揚機の滑車の鍵について上がってきたのは弾薬箱ではなく、二十一インチもの素晴らしく大きな魚雷で、その上には中原がまたがっていました。
「何だ、馬鹿馬鹿しい。水雷と弾薬とを間違える奴があるか! 慌て者、しっかりしろ!」
掌砲長はプリプリして怒鳴りましたが、あたりが騒がしいので向こうまで聞こえなかったのか、下村も中原もそちらを見向きさえしません。
魚雷は小さな潜水艦のような姿を甲板の上に現しました。磨き上げられたその表面は、白金のように輝いています。敵弾の飛んでくる数はだいぶ少なくなりましたが、それでもまだゾクゾクと命中しています。その中を、中原は必死の覚悟で、魚雷発射の準備に夢中になっていました。
しかし、熟練した水雷士官でもこれは非常に難しい作業です。それをわずか十七歳の少年が見よう見まねでやっているのです。成功するでしょうか? あまりに危なっかしい!
いや、しかし、中原の父親は魚雷の発射にかけては天才と言われた人でした。その子である彼に、この天才の血が受け継がれていないと誰が断言できるでしょうか。
「よし!」
中原は準備を終えると、素早く魚雷から飛び降りました。
すると下村はすかさず巻揚機を操って、軽々と吊り上げた魚雷をそろそろと水面近くまで下げました。中原は舷側に立って、右手を上げ、敵艦を睨みつけています。息が詰まるような緊張の十数秒間です!
「三千メートル!」
彼の耳に、誰かがそう叫んだように聞こえました。
彼はサッと合図の手を振って叫びました。
「オーライ!」
下村は巧みに巻揚機に勢いをつけて、ザンブと魚雷を海へ放り込みました。
「やった! えらいぞ中原! でかしたぞ、下村!」
掌砲長が嬉しそうに叫びました。
しかし下村も中原も、そんなことはまるで聞こえていないかのように、ただ一心に魚雷の行方を見つめていました。「うまいぞ! あれを見ろ、下村!」
中原は、今まさに百メートルほど先の海面を、まるで巨大なクジラのように波を立て、一直線に敵艦へと突き進んでいく魚雷を指さしました。
魚雷は発射されてから命中するまでに少し時間がかかるため、その間に敵が気づいて船の向きを変えれば、外れてしまう可能性もあります。
「気づかないでくれ、どうか気づかないでくれ」
二人の少年は、一心不乱に神様にお祈りしました。
一秒、二秒と時が過ぎ、魚雷は狙った方向へまっすぐに進んでいきます。
「あっ、とうとう見つけたぞ!」と、中原が叫びました。
敵艦から海面に向かって、パチパチと小銃や機関銃を撃つ音が聞こえてきます。
「へっ! 魚雷を撃ち落とすつもりだな。そうはいかないぞ! ――そら、とうとう艦の向きを変えたぞ、畜生め!」と、下村は残念そうにうなりました。
しかし、少し遅すぎました。
「ウルフ号」がまだ十分に向きを変えきらないうちに、魚雷はその後部の喫水線下に命中したのです。
小山のような水柱が船の大きな半分を飲み込むのが見えたかと思うと、続いて、海の底で火山でも爆発したかのようなすさまじい音がとどろき渡り、約三千メートルも離れている豊国丸までがビリビリと震えました。
二十一インチの魚雷が「ウルフ号」の脇腹をえぐり、巨大な穴を開けたのです。
やがて水煙が収まると、敵の巨大な船はすでにもう後部甲板まで水に浸かっていましたが、やがてゆっくりと船首を天に向けて、次第次第に波の底へ沈んでいきました。
後には大きな渦と、黒豆をぶちまけたかのように海面を埋め尽くす、溺れる乗組員たちの姿が見えました。
「万歳! 万歳!」
豊国丸の船上では、すばらしい万歳の叫びが起こりました。
下村と中原は感激して、抱き合いながら声を上げて泣きました。
すると、その耳にはっきりと聞こえてきたのは、船長に代わってこの船の指揮を執る一等運転士の声でした。
「二番船倉、三番船倉浸水! 総員ポンプへ!」
無線電信室からは、救難信号S・O・Sの電波が空へと放たれています。
「伊吹」が全速力で救助に向かっているのは明らかです。
あとわずかの辛抱です。
豊国丸はそれまで、どうしても浮かんでいなければなりません。
「僕らもポンプへ行こう!」
「オーライ!」
下村、中原の両少年は勇んで、ポンプへと駆け出しました。
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