初級翻訳・孝行鶉の話 第2話

孝行鶉の話

「それはまあ、よかったねえ。
それにしても王様は本当にお情け深いお方だ。
お前はそんな王様が治めていらっしゃる国に生まれたことをありがたいと思って、何か王様のお役に立つようなことをしなければなりませんよ。
」と、お母さんの鶉はしっかりとさとしました。
「それはもう、当然のことです!
私はこれから時間を作って、二、三日おきに王様の御殿へ行って一生懸命、美しい歌をうたってお聞かせするとお約束したのですから。
」
 母と子の鶉は、それから自分たちでひろった粟の穂や虫を食べましたが、これまでにあんなにおいしいご飯を食べたことはないと感じました。
さて、翌日からまた前と同じように、お母さんの鶉は巣の近所で、子鶉は遠くの場所へと、いろいろなエサを探しに歩きました。
というのも、もうすぐ冬が来るというのに、王様に捕まったりしていたせいで、その冬支度がまだすっかりできていなかったからなのです。
ですから、母も子も毎日朝から晩まで真っ黒になって働いていました。
そのせいで、つい忘れるともなく、王様へのたいせつなお約束もうっかり忘れてしまっていたのです。
するとある日、藪の中で、おしゃべりなみそさざいが子鶉に声をかけました。
「おい、うづ公。
お前は嘘つきだな。
」
 子鶉は、あまりにも突然だったので何がなんだかさっぱりわかりません。
だから丸い目をいよいよ丸くし、尖ったくちばしをとびきり尖んがらかして怒鳴り返しました。
「なんだと、このおしゃべり野郎!
俺を嘘つきだなんて、いったい貴様、どうしてそんな悪口を言うんだ? そんなことを言うわけを言え! もしわけを言えなかったら、貴様の片羽をへし折って、ネズミの餌食にしてやるからな!」
 みそさざいはケラケラと嘲笑いました。
「わけを言えないでどうするものか! お前は王様に何とお約束申し上げたんだ?」
「うーん、それは……。
」
 子の鶉は二の句が継げません。
みそさざいは、それ見たことかというような顔をして言いました。
「フン、それで嘘つきじゃないっていうのか? お前は王様がこの間から、重い天然痘(ほうそう)にかかっていらっしゃるのを知らないのか? あの菊石面(きくいしづら)の赤い天然痘の神様が、王様のお身体にその一万本もある針をすっかり刺し込んで、毒を送り込んでいるんだ。
もう王様のお命は、いつどうなるかわからない状態なのだ。
そこで側にいる人たちが賢い学者先生に聞いてみたところ、『鶉の声をお聞きになれば、天然痘の神様が驚いて逃げ出す』ということだったので、いろいろな鶉を集めて鳴かせているのだが、天然痘の神様はびくともしない。
王様は――『私が逃がしてやったあの鶉の勢いのいい声を聞けば、きっと私の病気は治る』とおっしゃっている。
それなのに、お前は自分のことばかりしていて、王様にお約束したことも果たさず、お見舞いにすら行かないじゃないか! だから私はお前を嘘つきだと言うんだよ。
」
「あぁ、そうだったのか……!」と、子鶉は面目なさそうに頭を下げました。
「まったく、そんなことは少しも知らなかった。
みそさざい君、私が悪かったよ。
どうぞ許してくれ。
私はこれからすぐ、王様のお城へ行って、その天然痘の神様を見事に追い払い、王様のお命を延ばしてみせるから……!」
 子鶉はそう言うが早いか、すぐにまっしぐらにお城へと飛び立ち、ちょうど王様が寝ていらっしゃるお座敷のお庭の木にとまりました。
見ると、なるほど、菊石面の赤くて気味の悪い天然痘の神様が、まるで大きなタコのように王様のお身体にぴったりと吸い付いています。
それを見た子鶉は、「おのれ、太夫(たいふ)な奴め!」とすっかり怒り出し、いきなり大きな声で、
「チックヮラケー、ケーッ!」と鳴きました。
「おや、鶉が来たぞ!
あの鶉が来てくれた!」
 王様は重い頭を枕の上にもたげ、天然痘の神様もその醜い顔を王様のお身体から離して、この歌を聞きました。
「チックヮラケー、ケーッ!」」
 鶉の声がだんだんと冴え渡っていくと、天然痘の神様は、まるで潮が引いていくように、王様のお身体から少しずつ退いていきます。
 それと同時に、王様のお顔には、まるで温かい太陽の光が差してくるかのように、パッと血の気が戻ってきました。
「チックヮラケー、ケーッ!」
 勢いがあって、しかも美しい鶉の歌声に、ついに天然痘の神様は、激しい風に吹き飛ばされる雲のように追い払われました。すると、王様の御顔色は、まるで雲ひとつないうららかな青空のように、すっきりと美しくなったのです。

三

 ところが、それからしばらくの間、お城に子鶉の姿が見えなくなりました。
 王様は、「いったいどうしたのだろうか。もしかしたら鳥刺し(鳥を捕まえる人)にでも捕まってしまったのではないか。もしそうだと気づいていたなら、前もって国中にふれを出して、鶉を一羽たりとも捕まえてはならないと人民に言い聞かせておくべきだった。もう今からでは遅いかもしれないなぁ。とんだことをさせてしまったものだ」と、とても心配していらっしゃいました。
 大臣は、王様がそんなふうにご心配なさっているのを見て、「もしや、その心配がもとでまたご病気が再発でもされたら一大事だ」と思い、人を鶉のいる野原へ遣わして捜させました。しかし、どこを捜しても行方が全く分からず、困り果てていたそのある日、なんと子鶉がひょっこりとお庭の木に飛んできたのです。
 そして、縁先までトコトコと近づいてきて、
「チックヮラケー」
と、うたいました。
けれどもその声は、いかにも元気がなく、あの天然痘の神様をも逃げ出させるほどの力強い勢いがありません。
 王様をはじめ、まわりの人たちは、鶉が戻ってきてくれたので大変喜びましたが、その声があまりにも悲しそうだったので、不審に思いました。
「おい、鶉よ」
と、王様はお声をかけられました。
「お前が来なかったので、もしかしたら鳥刺しにでも捕まってしまったのではないかと、大変心配していたのだ。こうして無事な姿を見せてくれてうれしく思うぞ。だが、今日の歌はなんだか非常に悲しそうだが、いったいどうしたというのだ? もし何か悩みや心配事があるなら、私に包み隠さず話してくれ。王様の力でできることなら、たとえ国の半分を使うことになってでも、お前のために叶えてやろう」
 子鶉はしばらくじっと考えていましたが、やがてこう言いました。
「実は、私たち母子は、やむを得ない事情がありまして、もはやこの国に住み続けることができなくなってしまったのでございます」
「それはまた、どういうわけだ? 私の国にいるのが、もういやになってしまったのか?」
「いっえ、とんでもございません! いつまでもいつまでもこの国に留まって、王様のお耳に私の歌をお聴き入れいただくことは、私の望んでもいないほどの最高の幸せでございます。しかし、今私たちがいる場所の近くに悪い狐がやってきまして、私たちの命が危ういのでございます。誠に恐れ多いことでございますが、どうぞ私の尾っぽのあたりをご覧くださいませ」
 王様が鶉の尾のあたりをじっとご覧になると、驚いたことに、羽が一本も残っていなかったのでした。

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