三人が中へ入ると、小屋の中も雑草が生い茂っていて足の踏み場もなかったが、その奥には造船道具や船台、それから造船材料などがきちんと揃えられているのが目に入った。
「大いによろしい。
じゃあ早速今日から、おれたちは船大工になるってわけだ。
喫水の浅いボートを一隻、できるだけ早く作り上げるんだ。
いいかね、しっかりやってくれ」
モレロは一人上機嫌で、二人の水夫にそう言った。
「えっ、船大工ですって。
わたしたちには、そんな経験はありませんよ」
「なくってもいい。
たかがボート一隻こしらえるだけの仕事だ。
ボートなら、お前たちは今まで嫌になるほど扱っているじゃないか」
「いったい、ボートをこしらえてどうするんですか」
「あのピカピカの宝をよ、おれたちが洞窟の外からボートに乗って入って、すっかり頂戴しようというんだ。
えへへ、どうだ、世界一の名案だろうが」
モレロは、すごい顔に笑みを浮かべて、自分の胸を叩いた。
希望の綱
洞窟の中の水は、だんだんと水位を上げてきた。
「おい、もう胸のあたりだよ」
ケンが言った。
その声が洞窟の天井に反響して、ガンガンと響いた。
「明日の朝、目が覚めたら、僕たちは土佐衛門(水死体)なんて呼ばれているだろうな」
ダビットがおどけた口調で言った。
みんなを元気づけるための冗談も、それが現実になる可能性が十分あると思うと、誰も笑う者はいなかった。
死は刻一刻と四人の身体に、音もなく忍び寄っているのだ。
「もうすぐ首まで来るぞ」
空気が逃げていくせいで、水はぐんぐんと増えていく。
このままだと、あと少しでこの洞窟は水浸しになってしまう。
入り口はすでに水の扉で塞がれている。
洞窟の中はもう真っ暗だ。
「ダビット、大丈夫かい」
「ケン、元気だよ」
「玉太郎君は」
「僕も元気です」
「張さん、あなたは」
「私は故郷の山々を思っていたところです」
「みんな元気なんだね」
ケンはこんな時にも落ち着いている。
四人が順々に声を出したので、誰がどのあたりにいるのかが分かった。
「ねえケン」
「なんだ、ダビット」
「僕のお尻がむずむずするんだよ」
「どうしたんだ」
「あ、魚だ、魚に食いつかれた」
ダビットがとんちんかんな声を上げた。
「あ、いててっ、痛い」
「捕まえればいいじゃないか」
「そうはいかんよ、片方の手でカメラを差し上げているんだからね、左手一本じゃ捕まえられないよ」
「そうか、そりゃ残念だね。こっちへ来たら捕まえてやろう、おい、こっちへ追い出してくれよ」
「そうはいかない」
「ダビットのおじさん。大きいお魚ですか」
「うん。ポケットの中のパンくずを盗みに来た奴なんだ。大きさは一センチくらいかな」
「なぁんだ。じゃあ、食べられる心配はありませんね」
「ないとも、明日のおかずにとってやりたいくらいだよ」
ダビットは元気がいい。
「あ、なんだこれは」
「どうしたんだい、玉太郎君」
今度は玉太郎だ。
「ちょっと、あ、これ、なんだろう」
「タコでも捕まえたかい」
ダビットが言った。
「いや、ちがう、ケンおじさん、ちょっと、これなんでしょう」
「これじゃ僕にも分からないよ、どうしたんだい」
「今、手に当たったものがあるんです」
「だから何が触ったんだよ、じれったいなあ」
ダビットが近づいてきた。
ケンも近づいてきた。
「あ、痛い、あ、ケンか」
二人は暗闇の中でおでこをぶつけ合った。
「もう少し強くぶつかっていたら、目から火が出るところだった」
「その火で見届けようという寸法だったのかね」
「おじさん、これです。僕の手に触れて、ええ、それ、ね、なんでしょう」
「ぬるぬるしているね」
「長いものですよ」
「待てよ」
ケンは両手で、玉太郎が握っているものをおさえた。
「うん、こりゃ、むずかしいぞ」
「ね、なんでしょう」
「うん。綱だ。」「綱には苔がびっしりとついていてぬらぬらしているけれど、間違いなく綱だよ」
「綱ですって?」
「綱が、どうしてこんなところにあるんだろうね、ケン」
「それは、これから考えるんだ」
不安な中にも、みんなの心の中には希望の光がともりました。
「太いのですか?」
張がたずねます。
「太いよ」
「何をつないでおいたのかな」
「何がつながれているのかと、今考えているところさ。待てよ……この太さは、あっ」
「どうしたのですか」
「船で使うロープに似ている」
「船がつないであるのかな」
「まさか」
「ケンおじさん、一つ引っ張ってみましょう!」
「うん、引っ張ってみよう」
玉太郎とケンが引っ張りました。あとからダビットも張も手伝います。なにしろ長いあいだ水につかっていたせいで、ぬるぬるしてなかなか力が入らないのです。
「よいしょ!」
玉太郎が気合をかけます。
「よいしょ!」
みんながそれに声を合わせました。そのうち、水はいよいよ増してきます。けれど四人は水の恐ろしさよりも、この綱を引っ張れば何かが見つかるかもしれないという思いで、一心に力を合わせて引きました。
「おい、ちょっと待て」
ケンが一同のかけ声を止めました。
「あれを聞け、音がする」
みんなは、息をのみました。
ゴボ、ゴボ、ゴボ、ゴボ。
かすかですが、水の流れる音です。
「綱を引いたおかげで、どこかに穴でもあいたに違いないな、ケン!」
ダビットの声はうれしそうです。
「もう一ふんばり引っ張りましょう!」
玉太郎も喜びに震えています。
「そうだ、さあ、力を合わせて!」
希望の光はいよいよ明るくなりました。もう一息です。
「よいしょ、よいしょ!」
疲れもどこかへ吹き飛ばせとばかりに、四人は力を入れました。綱は少しずつではありますが、動くようです。
五分、十分、二十分……。
水は胸から首へとひたひたと迫ってきました。ともすると疲れのために手の力が抜けてしまいます。全身が冷たさのためにしびれ、力を入れたはずの腕も、いつの間にか力が抜けていきます。
どのくらい経ったでしょうか。
「やっ、動いたぞ!」
それからはもう簡単でした。綱はするするするっと伸びてきました。その瞬間、「どうっ」という音とともに、一同の鼓膜に水の音が響きました。
「水が流れた。助かったぞ!」
今まで四人の周囲をひたひたと包んでいた水が、一つの流れとなって、勢いよく四人の前を通り過ぎていきました。
「綱を引いたことで、岩が動いたんだな」
「岩が動いたんじゃない。もっと深い穴がこの先にあったんだよ。その入り口をふさいでいた岩を、僕たちがどかしたのさ」
「それも綱を引っ張ったおかげに違いない」
四人は、ともすれば押し流されそうな水勢の中で、しっかりと抱き合っていました。
「おい、そうだ。僕らはこうしてはいられないよ。いつかその深い穴にも水がたまるだろう。すると、この流れもその時には止まってしまうに違いない」
「すると、前と同じ状態に戻るわけか」
「喜ぶのはまだ早いぞ」
「そうとも。じゃあどうするんだい、ケン」
「一つ希望がある」
「なんです、ケンおじさん」
「今の岩の変化によって、他にも変化が起きはしないかということさ。たとえば、僕らの頭の上に別の穴が開いて、そこから逃げ出せるのではないかという見方だよ」
「そんなうまい具合にいくかな。いけばいいけれど。
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