奴らの黒い心臓に呪いあれ。あいつらのせいでこんなことになって……」「さっさともう一杯寄越せ!」
「せいぜい気をつけて、おたくのロバを見失わないようにするんだな」副官は言った。
「ロシア人ってのは利口な連中だからな」
「それに違いない」新しいグラスに手を伸ばしながら知事は言った。
「あいつらは……地獄のように……そうに決まっている!」
折り畳み椅子は全部埋まっていた。ホールの通路にも壁際にも、立ち見の女たちが溢れている。演台に立つマーサ・ストーナリーは、青いニットのウールに真珠のネックレスを纏っていた。彼女の背後には半円形に椅子が並び、襲撃隊のリーダーや委員会の女議長たちが座って、スカートの裾を丁寧に伸ばしている。オルガン席についているのは、タヴグレーの服を着たモニカ・フリントだ。マーサが小槌を鳴らすと、そのあまりの強烈さに真珠がガチャガチャと鳴った。
「皆さん、聖歌を歌いますのでご起立願います」会場が静まり返り、彼女はモニカに頷いた。オルガンが鳴り始める。「私は自分の犬をスプートニクには乗せなかった、これからも月で迷うなんてさせないわ……」聖歌が雷鳴のように轟いた。マーサが胸の前で腕を組むと、群衆は再び席に着いた。
「休会の前に最高にスリリングな連絡があります」と彼女は言った。「ですが、まず委員会報告から。ポーラ・ハート、どうぞ」彼女は演台を譲った。報告はすべて上々だった。州の新聞が犬婦連に割く紙面は、ロシアの月探査船の件より四倍も広かった。テレビにもラジオにも登場した。「ライフ」誌の取材陣も来訪予定である。そろそろやり方を変えた方がよかった。もう自警襲撃隊は帽子の留め針を持ち歩くべきではなかった。二人の警官が失明し、警察はそのことに腹を立てていたのだ。そのかわり、これからは男物の靴下に石鹸を詰め込んで武器にしよう。もっと巻き結びの練習も必要だった。あまりにしばしば、興奮した襲撃隊の婦人たちは半分しか犬の脚に縄を結べず、暴れた犬に逃げられることがあったからだ。
演台に戻ったマーサは、誉れの名前を読み上げた。犬に噛まれた者や、警官に侮辱された者たちだ。ヒロインたちは拍手喝采を浴びながら一人ずつ前に出て、「ブリーディング・ハート(傷ついた心)」勲章の引換証を受け取った。この勲章は後日、委員会がデザインに合意し、製作に移り次第手渡されることになっていた。マーサは一人一人と握手した。中には包帯を巻いた手もあって、数滴の涙がこぼれた。
「さて、犬婦連の同志の皆さん」と彼女は言った。「驚くべき連絡があります。明日の朝、ワシントンからの客人とのアポイントメントを得ました!」
ため息のような囁きがホールに流れた。
「いえいえ、アイゼンハワーではありません」と蔑むようにマーサは言った。「チェルカソフ氏なるロシア大使館員です」
会場から熱狂的な拍手が沸き起こった。女たちは啜り泣き、互いに抱き合った。
「彼らは和平を求めているのです」マーサは騒然とする群衆に、凛々と響く声を投げた。「我々の勝利です、みんな! 直ちに出撃し、最後の犬を吊るし終えるまで帰投してはなりません! アメリカ犬婦連の大軍に歯向かうことの意味を思い知らせてやるのです!」
州警察の部隊がユークリッド・アヴェニュー二千二百番地から記者と野次馬たちを追い払った。午前十時、州の車が現れ、オークの木陰に駐車した。降りてきたのはチェルカソフ氏と二人のタス通信の記者たちだ。チェルカソフ氏は散切り頭の頑健な男で、青いスーツを着ていた。頬骨の目立つ大きな顔、獅子鼻、奥に引っ込んだ両眼。これらは注意深く、また冷淡な表情を作っていた。豚革のブリーフケースを手に提げ、ストーナリー家の玄関ドアに向かう。彼はドアマットまで進むと呼鈴を押した。足元のドアマットがブンブンうなって悶えるので、彼は慌てて後ろに下がった。
ドアを開けたマーサ・ストーナリーは女帝さながらに、マルーンのシルクに十センチのカメオ彫り、灰色の髪を豊かに結い上げていた。
「ドアマットに驚かないでください、チェルカソフさん――貴男はチェルカソフさんですわね?」甘い声で聞いた。
彼は頷き、目を彼女からドアマットに落とした。
「貴男の体重がかかると、何かの仕掛けで小さなブラシが回って靴をきれいにするんです」彼女は説明した。「きっとロシアにはこういったものがないのでしょう。ですが、どうぞ、お入りになってお座りくださいな」
三人の男は慎重にドアマットの上を歩き、中に入った。オークの壁板のリヴィングルームには、ブラック・ウールを纏ったポーラ・ハート、白の翠玉と緑のジャージーに真珠を纏ったモニカ・フリントが待っていた。マーサとチェルカソフ氏は互いに挨拶を交わし、男たちはぎこちなく頭を下げた。次いでマーサは側近たちに脇を固めさせ、見晴らし窓に面したグレーのソファに腰を下ろした。男たちは一人ずつ椅子に腰を下ろすと、居心地が悪そうに、磨き上げられた黒い靴を毛足の長いグレーの絨毯にこすりつけていた。
「マダム・ストーナリー、私が参りましたのは、月探検犬について弁明させていただくためです」チェルカソフ氏は言った。
それは、よくコントロールされた深い声だった。
「二つの過ちを掛け合わせても、正義にはなりませんわ、チェルカソフさん」マーサは頭をまっすぐ高く上げて言った。
「なにもヒロシマを持ち出す必要はありません。私どもはすでに、あの何千頭もの小さな黒と白のスパニエルのことを知っています。そればかりか、私は『ライフ』誌の写真で、あなた方が小さな犬の頭を大きな犬の首の横に縫い付けた様子さえ見ましたのよ」
チェルカソフ氏は自分のずんぐりした指を見つめると、それをブリーフケースの下に隠した。ポーラとモニカは咎めるように頷き、タスの記者の一人が熱心にノートを取った。
「大いなる価値は、より小さい価値に優越すると言えば、それを誤りだとは思われないはずです」チェルカソフ氏は言った。「月探検犬は、人類が一日も早く安全な宇宙旅行をなしとげるための情報を、私たちに送ってくるのですから」
「それで、貴男が何者であろうと、最高の価値とは何なのか言えますか? 宇宙旅行なんて絵空事ですわ。まるで月の光のようにね!」
「おっしゃる意味が分かりかねますな、マダム。もし『不可能だ』という意味でしたら、次の点を指摘しなければなりません。月探検犬はすでに、宇宙を旅したのだと」
マーサは膝を両手でバンと叩いた。
「それですよ、それ! いい大人がそんな馬鹿なことをして、犠牲になるのは哀れな小犬なのだわ」
チェルカソフ氏は真面目な顔で語った。
「貴女のお国の言葉に不案内なせいで誤解を招いているならお許しください、マダム。今や人類は宇宙を渡る能力を手にしており、それゆえ人類には、地球の全生命を他の惑星に送り届ける義務があると私たちは信じています。地球は人口過剰になっていますし、ましてや絶滅の瀬戸際に追い詰められた野生生物においてはなおさらです。私たちは信じているのですよ。他の太陽の周りには地球によく似た惑星が存在し、私たちはそこを開墾し、住処を築きうるのだと。それを馬鹿げたことだと言うのには、賛成しかねますな」
マーサはのけぞった。
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