二人ともが「ほしい、ほしい」と言うので、政ちゃんはどうしていいか分からず、困ってしまいました。
「じゃあ、ジャンケンで決めなよ!」
そう言うと、小野くんは政ちゃんの机の上に置いてあったりんごを、いきなりひょいと奪い取ってしまいました。
「ずるいぞ!」と叫んで、山田くんがそれを力づくで奪い返そうとします。
それはまるで、昨日、政ちゃんがお兄ちゃんの勇ちゃんとやり合った姿とそっくりでした。
そのとき、すでに先生は教室に入ってきていて、二人が激しくりんごを奪い合っている様子を、じっと黙って見つめていました。
二人はそんなことにも気づかず、大騒ぎを続けています。
慌てて気づいた政ちゃんが、「あっ、先生が来てるよ!」と小声で二人に教えました。
二人はハッとして慌ててケンカをやめましたが、もう手遅れでした。
「小野、山田、二人とも前へ来なさい」
先生は、とても恐ろしい顔をして言いました。
「さあ、隣の女の子たちのクラスへ行って勉強してきなさい!」
当時の男の子たちにとって、女の子のクラスに放り込まれて授業を受けるのは、どんな罰よりも恥ずかしくてつらいことでした。
山田くんは顔を真っ赤にして、先生に引っ張られるようにして連れていかれましたが、小野くんは教室の柱にがっしりとしがみついて、どうしても動こうとしません。
先生は、小野くんを柱からはがそうと、わきの下をこちょこちょとくすぐりました。
それでも小野くんは必死にこらえて、絶対に離れまいと柱にしがみつき続けました。
そのおかしな様子に、席に座っていたみんなから、くすくすと忍び笑いがおこりました。
「よし、それなら勝手にするがいい。ずっとそこでそうしていなさい!」
先生はそう言い捨てると、山田くん一人だけを連れて行ってしまいました。
「小野くん、先生がいない今のうちに逃げちゃいなよ!」
「ダメだよ、今逃げたら、後でもっとひどく怒られるぞ!」
政ちゃんは、この赤いりんごのせいでなんて大変な大騒動になってしまったんだろうと恐ろしくなり、急いでりんごを拾い上げると、ランドセルの奥深くにしまい込んでしまいました。
小野くんが教壇の横に立たされて、きまり悪そうに頭をぽりぽりと掻いていると、隣のクラスの女性の先生である尾沢先生が、山田くんを連れて教室に入ってきました。
「この子たち、これからは絶対に静かにして騒がないと約束しましたから、どうぞ、今回だけは許してあげてください」と、尾沢先生が代わりに優しく謝ってくれたのです。
「これからは絶対に気をつけるんだぞ。さあ、尾沢先生にお礼を言いなさい」と、担任の先生は山田くんに言いました。
山田くんは顔を真っ赤にしながら、「ありがとうございました」と頭を下げました。
そうして山田くんだけは自分の席に戻って、みんなと一緒に勉強することを許されました。しかし、言うことを聞かずに柱にしがみついていた小野くんは、授業が終わるチャイムが鳴るまで、ずっとそこに立たされたままでした。
学校から帰ると、政ちゃんはお兄ちゃんの勇ちゃんに向かって言いました。
「ねえ、勇ちゃん。このりんご、あげるよ」
「えっ、りんご?」
勇ちゃんは目を輝かせて、タタタッと駆け寄ってきました。
「なんだ、昨日のあのりんごじゃないか。政ちゃん、どうして自分で食べないの?」
「うううん、どうしても僕、食べる気がしないんだよ……」
「ふーん、おかしなやつだなあ」
お母さんも、その真っ赤なりんごを見て言いました。
「あら、本当に不思議ね。いつもは食いしん坊の政ちゃんが、どうして食べなかったのかしら?」
政ちゃんは、学校でこのりんごをめぐって小野くんと山田くんが激しい奪い合いをし、先生にこっぴどく叱られて立たされてしまったことを思い出していました。
そのことを考えると、家に帰ってランドセルからりんごを取り出したものの、どうしても食べる気にはなれなかったのです。
でも、田舎の大切なおばあちゃんが送ってくれた特別な贈り物なので、捨てるなんてことも絶対にできませんでした。
政ちゃんが学校での出来事を話して聞かせると、それを聞いた勇ちゃんは、
「うわあ……僕、そんなケンカばかり起こすりんごを食べるのは嫌だなあ」
と言って、そっぽを向いてどこかへ行ってしまいました。
「おやまあ、本当に騒動ばかり引き起こす、よくケンカの起こるりんごですねえ」
お母さんはあきれたように言いました。
「このことを田舎のおばあちゃんに手紙で教えてあげようかしら。おばあちゃんはきっと、『そんなに兄弟ゲンカや学校でのケンカの原因になるなら、もうこれからはりんごを送るのをやめましょう』って言うでしょうね」
「うわあ、ダメだよお母さん! もう絶対にケンカはしないから、おばあちゃんにそんなこと言わないで!」
政ちゃんは慌ててお母さんにお願いしました。
お母さんは優しくクスクスと笑って、コクリと頷いてくれました。そのとき、外の方から「ドン、ドン!」と、にぎやかな太鼓の音が聞こえてきました。
「政ちゃん、そのりんご、おサルさんにあげなよ!」と、お兄ちゃんの勇ちゃんが入り口から顔をのぞかせて言いました。
政ちゃんは、赤いりんごをぎゅっと握りしめると、大急ぎで外へと駆け出していきました。
そして、その真っ赤なりんごを、おサルさんに手渡しました。
りんごをもらったおサルさんは大喜び! さるまわしのおじさんの背中に嬉しそうにおんぶされながら、きれいなコスモスが咲き並ぶ垣根に沿って、トコトコと向こうの方へ歩いていき、やがて見えなくなりました。
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