初級翻訳・時計のない村 第2話

小川 未明

神さまのようにその時計の時間を信じきっていた乙のグループは、その日からまるで目の前が真っ暗になったかのように、今が何時なのかまったく分からなくなってしまいました。

そうかといって、今まで散々争っていた甲のグループのところへ行って、「今何時ですか?」と聞くのはプライドが許さず、恥ずかしくてできませんでした。
だから、
「俺たちには、もう時間なんて分からないんだ……」
と言って、村の大切な相談ごとがあっても、時刻のことがいつまでたってもまとまりませんでした。

一方の甲のグループは、「やっぱり自分たちのほうの時計は狂わない正しい時計だったんだ!」と、自分たちの時計のありがたみをますます感じるようになりました。

こうなれば、乙のグループの人たちも、自分たちの時間にしたがうしかないだろうと思っていました。
だから、話し合いをするときには、
「午後六時より開始する」というように時間を指定して、乙のほうへ知らせたのです。

けれど、時計を持たなくなってしまった乙の人たちには、その「午後六時」がいつなのかさっぱり分かりません。
そんなわけで、話し合いはいつもスムーズにいかず、予定がはかどらなかったのです。

なんと、時計が二つあったときよりも、一つになってしまったときのほうが、村のまとまりはますます悪くなってしまいました。

甲のほうも、案外、乙のグループが自分たちの時間に従ってこないのを知ると、すっかり困ってしまいました。

「町へ行って、時計を修理してもらわなければならないぞ」と、乙のグループのひとりが言いました。
「修理したって意味なんかないさ。すぐに壊れるような時計なんて、もう二度と信用できない!」と、別の人手厳しい声が上がりました。
「じゃあ、どうしたらいいっていうんだ?」
「壊れない、もっといい時計を探してくるよりほかに方法はないさ!」
「そんな素晴らしい時計なんて、どこに行けば見つかるんだろうか……」
乙のグループの人たちは、集まるたびに口々にそんな話ばかりしていました。

乙のお金持ちは、こう言いました。
「今年、お酒がたくさんよくできたら、遠い町まで行って、今度こそ最高の時計を買ってくるぞ!」

そんなふうにみんなが話していたある日、なんと今度は、甲のほうの時計まで壊れてしまったのです。

「自分たちのほうの時計は、絶対に狂うことはないんだ!」とあれほどいばっていたのに、ついに甲の時計も動かなくなってしまったのでした。

「やっぱり、時計なんかというものはダメだな。すぐに壊れてしまう。まったく信用できる代物じゃないや」と、ひとりが呆れて言いました。
「それに、時計があったって、なくたって、この一日が過ぎていくことには変わりないじゃないか!」と、別の人も言いました。

甲のグループでは、乙の時計もすでに壊れていると聞いていたので、いまさら急いで新しい時計を町へ買いに行こうという気持ちにはなりませんでした。
乙のグループの方も、甲の時計が壊れたと聞いて、今さら新しく町へ時計を買いに行こうという気力はまったく起きませんでした。

村は、いつの間にか、時計がなかった大昔の状態へと戻っていったのです。

そして、もう頼るべき時計などどこにもないんだと思うと、村の人たちはまた昔のように、広い大空を見上げて、お日さまののぼりぐあいで時間をはかるようになりました。

そして不思議なことに、時計がなくても、生活に少しの不自由も感じなかったのです。

時計が壊れたって、お日さまは決して壊れたり、時間を間違えたりすることはありませんでした。
「時計なんかもういらないさ! お天道さまさえいてくれれば、それだけで十分だ!」
村の人たちは、このとき初めて、太陽のありがたみを心から実感しました。

そして、みんなが集まる時間も、お日さまのまわりぐあいに合わせて決めるようになったのです。
そのおかげで、村の人たちはまた昔のようにみんなで仲良く一致団結し、いつの間にか、村には再び平和な日々が戻ってきたということです。

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