初級翻訳・日本の小僧 第1話

三遊亭 円朝

主人「定吉やい」
定吉「へえ、お呼びでございましたか」
主人「この手紙を矢部のところへ持って行ってくれ。ただ置いてくればいいんだよ、返事はいらないから。さあ、使い賃(ちん)に牡丹餅(ぼたもち)をやろう」
小僧「ありがとうございます」
主人「そこで食べるんじゃないよ、帰ってきてから食べなさいな」
小僧「へえ、でもこれを置いていったりなんかしたら、栄(えい)どんや文(ぶん)どんがみーんな食べてしまっちまいます」
主人「それならどこか誰も知らない所へ隠しておきなさい」
小僧「へえ、わかりました……。どこへ隠そうかな。あっ、台所へ置けばわからないぞ。流し台のところにこうして牡丹餅を置いて、桶で蓋をして……と。よし、これを見た人が見たら『蛙(かえる)』になるんだよ。いいかい、人が見たら蛙だよ、オラが見たら牡丹餅だよ」
そうこっそり隠して出かけていくのを、主人が見ていました。
「ははは、これが子供の考え方だな。『人が見たら蛙』とはおもしろい。ひとつあの牡丹餅を引き出して、代わりに生きた蛙を入れておいたら、小僧が帰ってきてびっくりするだろうな」
と、ちょっぴりイタズラ好きなご主人。さっそく牡丹餅を引き出して、代わりに生きた蛙をポーンと投げ込んでおきました。

そこへ、
小僧「行ってまいりました!」
主人「ご苦労だったねえ。早く牡丹餅を食べたらどうだ」
小僧「へえ、ありがとうございます! ああっ、ここなら誰もいやしない、桶で蓋をしてあるから気づっこないや」
そう言ってパッと開けてみると、中から蛙がピョンと飛び出しました。
小僧「うわっ、こりゃいけねえ! オラだよ、オイオイ、コラコラ、そんなにピョンピョン跳ねると、あんこが落っこちちまうだろ!」

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