「しようがないね、その敵のため、ぼくたちははじめから捕虜になってしまって……おや、へんだね、足許がゆらいでいるじゃないか」
「あっ、動いている。
地震らしい」
「地震じゃないだろう。
ぼくたちは、なんか動くものの上に乗っているんだ」
「あ、そうか、どこかへはこばれていくんだな」
その先は、どこへ? 四少年は、たがいにしっかり抱きあって自分たちの運命を待っていた。
かびくさい室
その動くものは、たしかに大きな動力で動いているらしかった。
ごっとんごっとんと、重いひびきが地底からひびいてくる。
そのうちに、足の下が急に傾いた。
ざらざらと土砂が一方へ走る。
「しっかり、気をつけろ」
と、五井が叫んだが、そのときには、足の下は急角度に傾き、四少年はずるずると滑ってからだの中心を失った。
「あッ、落ちる」
どすんと投げだされた。
次々に投げだされた少年たちだった。
びっくりして、呼吸がとまった。
が、気がついてみると、あたりは今までのような半くらがりではなく、昼間の光がどこからか、さしこんでいた。
そして、そこは板の間だったではないか。
少年たちは、次々に起きあがった、腕をさすっているのは二宮、腰をおさえて、顔をしかめているのは六条、頭をしきりに振っているのは四本、平気な顔は五井だった。
「これはどうしても、時計屋敷の中だね、表からはいらないで、へんなはいり方をしたものだ」
五井が、いった。
そのとおりだった。
妙なところから、地下を経て送りこまれたのだ。
これも時計屋敷の最初の主人公ヤリウスの秘密の設計なのであろうか。
あとから考えると、四少年が、こんな裏口の道から時計屋敷の中へはいりこんだことは、むしろ幸運であった。
というのは、この時計屋敷の正面からはいりこむことは、たいへん困難なことであった上に、危険がいくつも待っていたのだ。
裏口の道にも危険な仕掛が用意されてあった。
しかし今ではすでにそれがもう役にたたない。
仕掛が故障となっているためだった。
だから四少年はまず無事のうちに、屋敷内に送り込まれたのである。
もっとも、少年たちはそういう事情について全く気がついていなかった。
「奥へ行ってみよう」
「ちょっと待った」と四本がとめた。
「このまま進むことは危険だ。
そこでロープでもって、ぼくたちの身体をしばっておいた方がいいと思う。
つまりロック・クライミング――岩のぼりのときと同じように、もし一人が危険におちいったら、あとの者がロープをたよりに、助けあうのだ。
そうすれば、とつぜん落とし穴へ落ち込むようなことはなくなるだろうと思う」
この四本の考えは、もっともだったので、他の少年たちも賛成して、たがいの身体を、ロープでしばることになった。
先頭は五井、次が六条、それから二宮、しんがりが四本だった。
そしておたがいを結ぶロープの長さは三メートルとした。
そして、危いと思われる場所へかかったときには、その間隔で展開することとし、別に危険がなさそうなところでは、普通に、寄りそって進むことにした。
こうして、四少年は屋敷の奥へ向かって前進をはじめた。
「たしかに、この屋敷の建て方は、一風かわっているね、間取も、奇妙だ」
四本が、あたりを見まわして、感じたことをもらした。
「気味がわるいね」
と、他の少年たちも相づちをうった。
「西洋建築は、普通は、扉で仕切られるようになった部屋の集りで、その部屋の外には、通路として廊下がついている。
ところが、この時計屋敷の間取りをみると、そういう扉式の仕切がすくない。
原則としてカーテンで仕切ってある。
カーテンをひらけば、どの部屋も廊下も、みんな一つのものになってしまう。
これはヨーロッパでも、暑い方の国が採用している古風な建築法だよ」
四本は、おもしろいことをいい出した。
「するとヤリウスという人は、ヨーロッパの暑い方の国の人の血をひいているのかい」
二宮が、感心のていで、口を出す。
「そうだ、多分ポルトガル人かイスパニア人の血を受けているのかも知れない」と四本はまじめな顔つきをした。「でも、あっちの部屋にはふすまがついているぞ。奥のほうには障子が入っているところもある。これはきっと、この屋敷を左東左平(さとうさはへい)が買ったあとで、手入れをしたものらしいね」
「なるほど、スペイン式の間取りのままじゃ、日本人は住みづらくてしかたがなかったんだろうな」
五井はなるほどと納得したように言った。
「だから、これからの探険では、今言ったことを頭に入れて、よく注意をはらっていくのがいいと思うんだ。そして、左東左平が手を入れたところは、まず安全だと思っていい。だけど、ヤリウスが建てた当時のまま残っている部屋なんかには、十分気をつけたほうがいいだろうね」
さすがは四本で、目のつけどころがとてもよかった。
時計塔への道
「それじゃあ、今日の第一の目標は時計塔だ! 塔のいちばんてっぺいまで上がってみようじゃないか」
五井は、みんなの顔を見まわして言った。
「よし、行こうぜ!」
少年たちは武者震(むしゃぶる)いをした。
「そのためには、まず塔へ上がる階段を見つけなくちゃな。行くぞ、いいな?」
「もちろん!」
こうして、ふたたび前進が始まった。
かびくさい部屋をいくつも通りすぎた。色のさめたカーテンに手をかけると、紙のようにビリビリとやぶれ、頭の上から何十年ぶんもの埃(ほこり)がどっと落ちてきた。
少年たちは、そのたびに息がつまった。
やがて、ひと際(きわ)大きな部屋に出ると、その向こう側に階段が見えた。
それはらせん状に曲がった広い階段で、真ん中には赤いじゅうたんがしいてあった。じゅうたんのフチは黒色だった。
「あっ、あれだ! 時計塔にのぼる階段は――」
少年たちは階段の下へと駆け寄った。
「気をつけてのぼるんだぞ。ちゃんと間隔(かんかく)をあけて登ろう」
そこで四人の少年たちは、ロープの長さぶんだけ距離をとり、先頭の五井を筆頭に、順番に階段をのぼり始めた。
やがて五井が中二階(ちゅうにかい)まで登りきった。
そのとき、いちばん後ろにいた四本が、階段の最初の段に足をかけたところだった。
この階段には、とくに異常はなかった。
次は、中二階から二階へと上がる階段だ。
今度のは、さっきの半分くらいの短い階段だった。
先頭をいく五井がのぼっていく。
ガタン!
と大きな音がして、「あっ!」という五井の叫び声が響いた。五井の体は、階段の真ん中に突然ぽっかりと開いた穴の中へ、でんぐり返るようにして消えてしまった。
「うわっ、しまった!」
六条が前にのめりこむ。
二宮は「うわっ」と悲鳴をあげる。
「ぬうっ!」と、しんがりの四本は顔をまっかにして、その場にぐっと伏せた。
「みんな、その位置から動くな!」
幸い、五井はすぐに救い出された。ほかの三人がすばやく体を伏せたおかげで、自分たちまで落ちずにすんだのだ。
「あぁ、ヒヤッとした。一体この屋敷には、落とし穴がいくつあるんだよ」
五井は落とし穴から引っ張り上げられると、ニコニコしながら言った。
彼はすっかりこういった冒険に慣れてきたらしく、もうあまり驚かなくなっているようだった。
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