ほかの少年たちも、危険と戦う自信がついてきたみたいだ。
こうして、少年たちは階段を一段一段、攻略していった。
階段は上に進むにつれてだんだん狭くなり、作りも粗末になっていった。もう赤いじゅうたんなど見当たらない。板張りの床には、チリやホコリ、木の葉が積もりっぱなしだった。
だが、そんな場所にも落とし穴が二つも仕掛けられていた。
「なるべく階段の端を通ったほうがいいみたいだぞ。真ん中を歩くと、落とし穴の仕掛けが作動するらしい」
四本は、さっそく階段の秘密を見ぬいた。
いよいよ時計塔の中へと、先頭の五井が足をふみ入れた。
階段はいよいよ狭くなり、人がやっと一人通れるくらいだ。天井は高いが、中は真っ暗だった。
懐中電灯の光を頼りに、上っていくしかなかった。
その光の中に、複雑な機械が照らし出された。
それは、いまやもう動かなくなって死んでしまった、この時計屋敷の大時計の機械らしかった。
少年たちは、ついに古い秘密と真正面から向き合ったのだ。
高い天井
「みんな、気をしっかり持つんだぞ!」
先頭をすすむ五井が、うしろの仲間たちに最後の注意をあたえた。
「うん、大丈夫だよ」
「心配するなって」
「本当に、落ち着いてしっかりしてくれよ。どんなお化けが出たって、こわがっちゃダメだぞ!」
「こわがるくらいなら、最初からここまで来てないさ」
「そうだ、そうだ!」
みんな強気なことを言った。
だけど、みんなの声は、気のせいか少しふるえていた。
五井が合図の綱をひっぱり、それから前を向いて、せまい階段を上り始めた。
この時計塔のてっぺいには、いったい何が待ち受けているのだろうか?
四人の少年の影法師が、壁に大きくゆらめく。みんなの足音が、気味悪くあたりに響き渡った。
そのとき、突然頭の上でバタバタと音がして、こちらへ飛びかかってくるものがあった。
「あっ!」
「出たぞ!」
大きなワシのような影が、壁にうつし出された。
「コウモリだ! 心配するな!」
いちばん後ろにいる四本が、声をはりあげて言った。
「なんだ、コウモリか!」
五井が持っていた竹の杖(つえ)をヒュンヒュンと振り回した。すると、まわりの騒ぎはさらに大きくなった。コウモリは一ぴきだけではないらしく、四、五ひきはとんでいるようだった。
「コウモリがいるくらいなら、あとは大したものはいないだろう」
四本がそう言った。
「ほんと、きっと他には何もいないんだよね」
四本の前の二宮が、ふりしぼるような声でたずねた。
「まあ、多分そうだろう。
しかし、五井くんの方を注意していたほうがいいよ」
「ああ、そうだな」
二宮の足は重いらしく、四本のすぐ前で立ち止まりそうな足どりだった。
「上まで来たよ、何にも出てこないや」
五井の声が、上の方から安心したような響きをつたえてきた。
「えっ、何にも出てこないか、ふーん」
二宮はほっとして、階段に腰を下ろしてしまった。
すると四本がそばへ寄ってきた。
「おい二宮くん、この勢いで、早く上まであがってしまおうよ。
のぼるんだ」
「えっ。
いいじゃないか、上には何にもないって、五井くんが言っているんだもの」
「じゃあ、君はここにいたまえ。ぼくは上までのぼる、ロープはほどいてしまうからね」
「うっ、待った。
ロープをほどいちゃいけないよ、ぼくものぼるよ」
四人はついに上までのぼった。
そこは時計の機械の真うえにあたるところで、二メートル四方ほどの板の間になっていた。
上を見上げると、煙突の内側のようになっていて、まだ五、六メートルの空間が少年たちの頭上にひろがっていた。
電灯をそのほうへ向けてみたが、天井があることと、その真ん中あたりに、昔なにかをぶら下げるためにつけたのか、大きなカギが一つ見えるだけだった。
その他の様子ははっきり見えない。
「あそこまでのぼってみるのが本当なんだけど、どうする?」
五井が頭の上を指さしながら言った。
「ぜひ見てみたいものだ。しかし、下からはしごを持ってくる必要があるね」
六条がそう言った。
「ぼくは、時計台の天井は調べる必要はないと思う。
だって、あの上は建物の外へ出るだけだからね。
それよりも、時計の機械を調べたいな。
なぜ、そしてどうして、この時計は止まってしまったのか、それを知りたいんだ」
四本がこう言って、反対の意見をもちだした。
「時計のことよりも、この屋敷へ入って行方不明になった北岸さんたちの安否を調べるのが第一の目的なんだから、やっぱり時計台の天井までのぼって、そのへんに何か隠れ穴でもないか調べたほうがいいよ」
五井は、六条が賛成したので、あくまで天井を調べたいとゆずらなかった。
「じゃあ、手分けをしてやればいいじゃないか。
君たち二人は天井を調べ、ぼくと二宮くんで時計の機械を調べるんだ」
「賛成! ぼくは時計のほうがいい!」
二宮がさけんだ。
そこで四人は二手に分かれることになったが、まだロープをほどくところまでいかないうちに、とつぜん意外なことが起こった。
「あっ、地震らしいぞ!」
「うん、これは大きな地震だ!」
「あぁ、こんなところにいては危ない!」
がたがたと、四人の少年がいる板の間が大きくゆれだした。
天井からは土のようなものがばらばらと落ちてきた。
時計の金具がぎしぎしときしむ。
四人の少年はたがいに抱きあい、ゆれがおさまるのを待とうとしたが、そのとき板の間がめりめりと音をたてて、ぐらりと傾いた。
あっという間に、四人の少年は傾いた板の間からすべり落ちて、下へ墜落していった。
さっきはちゃんとしていた階段があちこちではずれていたので、少年たちはどこまでも下へ落ちていった。
地震が奇縁
そのままでは、少年たちは下で頭をぶつけて死ぬか、大けがをするかのどちらかだっただろう。
だが、幸運というのか何というのか、途中で、階段が裏返り、斜めに空間へ引っかかっているところにぶつかった。
そしてそれにぶつかったはずみで、すぐ前の壁の穴の中へとずるずると滑りこんだ。
「あっ!」
体のバランスを立て直すひまもない。
一同は勢いづいたボールのように、でんぐり返って暗がりの闇の中へたたきつけられたが、幸いにもそこは柔らかいものにぶつかった。
(畳がしいてあるな)
と気づいた。
そしてぷーんと、かびくさいにおいが鼻をついた。
やっと気が落ち着いて、声が出せるようになってみると、懐中電灯は四本の持っていたもののほかは、全部なくなっていた。
さっき落ちるときに手から放してしまったのだろう。
そのたった一つの電灯で、四本はみんなの顔を照らし出した。
五井も六条も、顔にすり傷をつくり、土まみれのまっくろな顔をしていたが、まずは無事だった。
二宮だけは目をまわして気絶していた。
だが、ちょっと介抱すると、二宮も意識をとりもどした。
大したケガではなかったらしい。
「どうしたんだろう。
ここはどこなんだろう?」
「居間の一つらしいね。暗くてよくわからないが、あそこから明かりがもれているよ。
雨戸か窓か、とにかくあれを開けてみよう」
五井が立ち上がろうとしたが、すぐにバタッと倒れた。ロープが彼の体を引っ張っていたのだ。
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