初級翻訳・怪星ガン 第3話

怪星ガン

遭難が伝えられるサミュエル博士が乗っている『宇宙の女王』号に比べると、搭乗人数は半分ですが、そのかわりこの救援ロケット艇は最新型の原子エンジンを使っているので、ものすごいスピードが出ますし、航続距離に至っては十億キロメートルを超えるだろうとさえ言われています。
美しい流線形をした巨大な体。
後ろ側には、軸と平行に十六本の噴気管が後ろに向かって開いています。
頭の一番先の部分は半球形の透明な壁になっていて、その中に操縦室があります。
その広さは十畳くらいあるというのですから、このロケット艇がかなりの大きさであることがわかるでしょう。
出発のときは、胴体から引き込み式の三脚を出して、これによって滑走しました。
そのとき、同じように胴体から水平翼と舵(かじ)も引き出されて、普通の飛行機と同じように地上を走りました。
もちろんプロペラはありませんから、尾部から吐き出す噴気の勢い(反動)で前へ進みます。
そしてある十分なスピードに達したとき、艇は空中に浮かび上がり、それから足と翼と舵をそろそろと胴体の中にしまい込みました。
一番難しい仕事は、スピードをだんだん上げていくその加減でした。
スピードをゆっくり上げすぎていたのでは、目的地に着くまでに気が遠くなるような年月がかかってしまい、乗組員はみんなお年寄りになり、ついにはみんな死んでしまわなければなりません。
そうかといって、スピードを上げる割合――これを「加速度の上げ方」ともいいますが――その割合を急にすると、乗組員の内臓によくないことが起こります。
特に脳が押しつぶされてしまって、気が遠くなったり、仮死状態になったり、ひどいときにはそのまま本当に死んでしまうこともあるのです。
そういう理由で、加速度を急激に上げることもできませんでした。
つまり、その中間にある、ほどよくて能率の良いスピードの上げ方というものがあるのです。
それを間違いなく、正確に調整していくことが、操縦員にとって何よりも大切な仕事でした。

「ああ、なんて壮烈なことだ。どうかこの十台の救援艇が、無事に戻ってきてくれますように」
そう言って、ひそかに神様に祈りを捧げる老紳士もいました。
「うまくいくだろうか。三十名が十台だから、全部で三百名だ。このうち何人が生きて帰ってくるだろうか」
心配する飛行機乗りもいました。
「ああ、勇ましいわ。どうして私は一緒に行けなかったのかしら。エイリーンさん、アネットさん、ペテーさんは行ってしまった。私、うらやましいわ」
ハンカチを振りながら、残念がるお嬢さんもいました。女性の搭乗者もいるようです。
「どうかなあ。この救援は成功しないと思うよ。第一、宇宙はあまりに広すぎるんだ。……それにね、去年の春あたりからこちらへ、たびたび行方不明になる宇宙艇があるじゃないか。わしのにらんだところによれば、宇宙のどこかに、凶悪な宇宙の猛獣とでもいうべき奴が潜んでいて、みんなそれに食われてしまうんだと思うよ」
禿げ頭のスミス老人が杖を振り回しながら、花束を持った四、五人の老婦人を相手にしゃべっています。
「まあ、宇宙の猛獣ですって? またスミスさんのホラ話が始まったわ」
「何がホラ話なもんか。わしは昨日、その宇宙の猛獣を使う恐ろしい顔をした猛獣使いを見つけたんだ。わしは相手に知られないように、こっそりとその恐ろしい奴の後をつけていったが――ややっ!」
スミス老人は、急に話を切って、驚きの声を上げました。
そのときそばを、顔を緑色のスカーフでぐるぐる巻きにして、目の鋭い怪しい男が、松葉杖にすがって通り過ぎました。

   自称金鉱主

 スミス老人は、おしゃべりを忘れてしまったかのように口をつぐみました。
そして肩をすぼめて、あごひげを小さく震わせています。
老人の顔からは血の気が失せていました。
その周りにいた老婦人たちも、スミス老人のただならぬ様子に気がつきました。
そしてスミス老人がぶるぶる震えだした理由を察して、彼女たちもまた顔色が紙のように白くなり、膝のあたりがガクガクと震えだして、止めようとしても止まりませんでした。
花束までが、細かく震えていました。
ずいぶん長い時間、みんなは息を止めていたような気がしました。
しかし実際は、たった二分間ほどのことでした。
その間に、例の緑色のスカーフで顔を包んだ松葉杖の男は、人混みの中に隠れてしまいました。「スミスのおじいさん、今ここを通っていったのが、そうなんですかね」
 ケート夫人が、最初に口を開きました。果物屋を営んでいる、しっかり者だと評判の夫人でした。
「しーっ。あまり大きな声を出すんじゃない……」
 とスミス老人は大きな目を見開いて言いました。
「……わしの言ったことは嘘じゃないぞ。誰でもひと目見りゃわかる。あの通りあやしい男じゃ」
「やっぱり、そうなの? あのスカーフの下にどんな怖い顔が隠れているんでしょうね」
「おじいさん。あれが、さっきおじいさんが言っていた宇宙の猛獣使いなの?」
「そうだ。この間から、彼奴(あいつ)がこの辺をうろうろしているのじゃ。人の家の窓を覗き込んだり、用もないのに飛行場のまわりを歩き回ったり、あやしい奴じゃ」
「なぜ、あの人が宇宙の猛獣使いなの? 宇宙の猛獣って、どんなけだものなんですの」
「宇宙の猛獣を知らんのかな。アフリカの密林の中にライオンや豹などの猛獣が住んでいて、人や弱い動物を食い殺すことはご存じじゃろう。それと同じように、宇宙には恐ろしい猛獣が住んでいるのじゃ。頭が八つある大きな蛇、首が何万マイル先まで届く竜、そのほか人間が想像もしたことのないような珍獣、奇獣、猛獣のたぐいがあっちこっちに隠れ住んでいて、宇宙を飛んでいく旅行者を見かけると、飛びついてくるのじゃ」
「おじいさん。それは本当のこと? それとも伝説ですか」
「伝説は、ばかにならん。そればかりか、あのあやしい男はな、わしがこっそりと見ていると、ひそかに宇宙を見上げて、手を振ったり首を振ったりしておった。そうするとだな、星がぴかりと尾を引いて、西の地平線へ向けて、雨のように落ちていった。だから彼奴は、宇宙の猛獣使いにちがいないんじゃ」
「ほほほ。やっぱりスミスおじいさんのほら話に、あんたたちは乗せられてしまったようね」
「おじいさんは、お話がお上手ですからねえ」
「ほら話と思ってちゃ、あとで後悔するぞ。わしは嘘は言わん。第一、あの男の顔をひと目見りゃ、あやしいかどうかわかるじゃろうが……」
「もし、おじいさんの言うとおりだったら、あのあやしい松葉杖の男は、さっき出発したテッド博士たちの旅行に、災いを与えるかもしれませんわねえ」
「それだ。それをわしは心配しておるんだ。それについてわしは、もっといろいろと、あのあやしい男のあやしい振る舞いについて知っているんじゃ。昨晩あの男はな……」
「あ、おじいさん。あの男が松葉杖をついて、またこっちへ戻ってくるよ」
「うッ、それはいかん。……わしは、こんなところでは落ち着いて話ができん。こうしよう。みなさんが、次の日曜日、教会からの帰りに、わしの家へお集まりなされ。

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