初級翻訳・時計屋敷の秘密 第12話

時計屋敷の秘密

無我夢中

無我夢中とは、このときの八木少年のことだった。
迫りくるこの時計屋敷の爆発時刻、間に合わなければ自分ももろともに屋敷の瓦礫(がれき)の下におしつぶされてしまうのだ。
しかしもし間に合って、あの大時計をとめることができれば、たくさんの人の命を救い、そしてこの大きくて古い由緒ある建物を守ることができるのだ。
八木少年は、爆発を今とめることのできる自分だけだと思い、一生懸命に階段をかけあがり、扉の鍵をはずしてまた階段をあがり、また新しい扉にぶつかっていった。
大時計の下に出ることができたときは、うれしくて涙が出た。
その涙をぬぐい払い、八木少年は、大時計のゆらりゆらりと動いている大きな振り子に抱きついて、両足を突っ張った。大時計は、ぎいッと音をたてて、歯車はごとんと止まった。
そのとき、大時計の針は、鐘を四つ鳴らすちょうどその一分前のところを指していた。
「やあ、八木君だ」
「ほんとだ、八木君が時計の振り子にぶら下がっている!」
さっき八木君が階段をがたがたと踏みならしてかけあがっていったその激しい音を、実験室にいた四人の少年は聞きつけて、とび出してきたのだった。
「ああ、うまく会えたね。
よかった。
ちょっと手をかしてくれたまえ」
八木君は、みんなの手を借りて、振り子からはなれることができた。
彼は、この時計がもうすこし動いていたら、この屋敷は大爆発したことだろうと、怪囚人から聞いたことを話した。
四人の少年は、それを聞いておどろいた。
そして、その怪囚人のところへ行ってみることになった。
ところが、どうしたわけか、さっき八木君が開いて通ってきた扉が、彼が閉めもしないのに、ぴったりと閉まっていた。
それを開こうとしたが、なかなかあかない。
秘密の仕組みになっている牡牛の彫刻があるかと探したが、そんなものはなかった。
もちろん鍵穴もない。
いろいろと試してみたが、扉はついにあかなかった。
「これはめんどくさい、時間がかかるから、あとのことにしよう」
と、四本君がいい出し、ほかの者もそれに賛成したので、あとまわしになった。
そして五人の少年は、実験室をしらべる仕事をつづけることになって、そっちへ動き出した。
「あ、あの振り子を、あのままにしておくのは心配だ。
振り子が動きださないように、縄なんかでしばっておきたいが、縄はないかしらん」
縄はなかったが、細い紐が実験室にあったのを思いだした者があって、それをとってきた。
そして五人の少年みんなで力をあわせて、重い大きな振り子を紐でむすび、その紐のほかの端を階段の手すりにしっかりと結びつけた。
こうしておけば振り子は動かないから安心していられると、みんなはそう思った。
みんなはもとの実験室へもどった。
はじめてその部屋を見る八木君は、四本君の話を聞いて目をかがやかせた。
そして、しげしげとこの部屋を見まわした。
「へんだね、その額は……」
と、八木君がいった。
「ああ、へんだね。
絵が切ってあるところが、へんだというのだろう」
六条君がいった。
「いや、そのことではなくて、切ったキャンバスの裏に板がはりつけてあることだよ。
板がはりつけてあるなんて、めずらしいことだ」
そういいながら八木君は、腰かけの上にのって、傾いているその額縁を両手でつかんで裏を見た。
「む、この額のうしろの壁には穴があいているよ。
穴の向こうに、部屋があるらしい。
やあ、たしかに部屋だ、うす暗いけれど見えるよ」
四人の少年はびっくりして、腰かけにあがっている八木君の足もとにかけよった。

意外な人

いったい、それはどんな部屋であろうか。
額のうしろの秘密の穴から出入りできる部屋であるから、ただの部屋ではあるまい。
「かまうことはない。
どんどん、はいってみようよ」
少年たちは元気いっぱいだった。
そこで額を横へひっぱって、うしろの穴から、少年たちは中へはいっていった。
うす暗い部屋、ぷーんとカビくさいにおいがする。
畳がしいてあるが、すっかりくさって、ぶよぶよである。
目が暗さになれてくると、少年たちはその部屋がひろいことに気がつき、それと同時に、その部屋のまん中に鉄格子があるのを発見した。
鉄格子というよりも鉄の檻(おり)と言ったほうがいいだろう。
その鉄格子は、床と天井とをつらぬいていた。
「あっ、檻の中に人がいる!」
二宮君が悲鳴をあげて叫んだ。
「なに、人だって?」
みんなおそるおそる檻の方へ寄って、中をのぞきこんだ。
なるほど、人が倒れている。
洋服を着ている男らしい。
いったい何者か。
四本君がこのとき懐中電灯の光を、檻の中の人の顔にむけた。
「おや、骸骨(がいこつ)だよ。
骸骨が洋服を着ている!」
「手も、白骨になっている……」
檻の中で死んでいる人物は、やはり囚人なのだろうか。
しかも、年代がずいぶんたっているらしい。
洋服を着ているところから見ると、外国人であろうか、それとも当時のはやりを追う新しがり屋の日本人であろうか。
「まさかヤリウスの白骨死体じゃなかろうね」
六条君がいう。
「ヤリウスはこの屋敷から出ていったのだ。
だからヤリウスではないよ」
五井君の推理だ。
「しかし、この屋敷から出ていったヤリウスから、その後便りが来たという話もないじゃないか。
だからヤリウスがここで白骨になっていても、つじつまはあうわけだ」
四本君のとっぴな説がとびだす。
そのとき八木君が檻の中を指さした。
「見てごらん、白骨の右手のそばに、手帳みたいなものが落ちているじゃないか。
あれをこっちへひっぱり出して、中を読んでみたら、なにか秘密が分かるかもしれないよ」
八木君の発見はすばらしかった。棒を檻の中へさしこんで、その手帳をかきよせた。
そしてその中を開いてみると、とんでもないことが書いてあった。
それは今日まで外の人にはまったく知られていなかった、この時計屋敷の本当の秘密だったんだ。
たいせつなところだけを書き出してみると、次のようになっていた。

「ぼくがおかした罪のせいで、ついにぼくの上に天罰が下ってしまった。
いまやぼくはこの檻の中で、おなかをすかせて死んでいくしかない。
これまでの罪をゆるしてもらうために、ぼくの恐ろしい悪事を書き残しておく。
ぼくは、主人のヤリウス様がどこかから持ってくるすごい貴重な水鉛(すいえん)という鉱石に目がくらんでしまったんだ。それを自分のものにしようとたくらんだ。
その水鉛がどこにあるかもわかったと思ったので、ある夜、ぼくはヤリウス様の寝室をおそってしばりあげ、地下の牢屋へほうりこみ、鉄の鎖でつないで、顔には恐ろしい死神の仮面をかぶせたんだ。
世間に対しては、ヤリウス様が急にこの土地からいなくなったと言いふらし、雇っていた人たちもみんなクビにして、一人のこらずこの土地から追い出した。
そのために、ぼくはけっこう大金を使ったんだ。
ぼくは一人になってから、いよいよ莫大なお金をひとりじめにするつもりで屋敷をあとにして、水鉛がかくされている場所へ行った。だけど、それはぼくの人違いで、本当の埋蔵場所ではなかったんだ。

コメント

タイトルとURLをコピーしました