すると、おじいさんはまたムッとしてしまいました。
「わからん子供だなあ! ただの電気じゃないさ。つまり、すべての電気の長、長というのは『かしら』と読む。つまり、電気の大将ということだ!」
「大将なら、なんだかすごく面白そうですね」
恭一がぼんやり尋ねると、おじいさんは顔をめちゃくちゃにして喜びました。
「はっはっは、面白いさ! ほら、あの工兵も、あの竜騎兵も、向こうの擲弾兵(てきだんへい)も、みんなわしの兵隊だからな!」
おじいさんはふんと澄まして、片方のほほをぷくっと膨らませて空を仰ぎました。
そして、ちょうど目の前を通り過ぎていく一本の電柱に向かって、
「こらこら、なぜよそ見をするか!」
と怒鳴りつけました。
すると、その電柱は飛び上がるほどびっくりして、足がぐにゃっと曲がり、あわててまっすぐ前を向いて歩いていきました。
次から次へと、どしどし電柱たちがやって来ます。
「有名な話を、お前も知っているだろう? ほら、息子がイングランドのロンドンにいて、父親がスコットランドのカルクシャイヤーにいた。息子が父親に電報をかけたんだ——おれはちゃんを手帳に書いておいたんだがね」
おじいさんは手帳を取り出し、さらに大きな眼鏡を取り出してもっともらしくかけてから、また続けました。
「お前は英語がわかるかい? えっ、『センド・マイ・ブーツ・インスタントリー(すぐに長靴を送れ)』ってこうだろ? するとカルクシャイヤーの父親め、あわてくすって、おれのでんしんの針金に長靴をぶら下げたんだよ! はっはっは、いや、あれには困ったものさ。
それから、イギリスだけじゃない。十二月ごろに兵営へ行ってみたりすると、『おい、明かりを消してこい』と上等兵殿に言われて、新兵たちが電灯をフーフーと息で吹き消そうとしているのが、毎年五、六人はいるんだ。おれの兵隊にはそんなまぬけは一人もいないからな!
お前の町だってそうさ。はじめて電灯がついたころは、みんな、『電気会社では月に百石くらい油を使うんだろうか』なんて言ったもんだ。
はっはっは、どうだ? もっともそれは、おれのように『エネルギー保存の法則』や『熱力学第二法則』がわかっている者からすれば、そんなにおかしくもないけれどね。どうだ、ぼくの軍隊は規律がいいだろう? 軍歌にもちゃんとそう歌ってあるんだ」
電柱たちはみんなまっすぐ前を向いて、すまし顔で通り過ぎながら、一段と声を張り上げて、
「ドツテテドツテテ、ドツテテド
でんしんばしらのぐんたいの
その名せかいにとゞろけり。」
と叫びました。
そのとき、線路の遠くに、小さな赤い二つの火が見えました。
すると、おじいさんは急にものすごくあわてだしました。
「あ、いかん! 汽車が来たぞ……!」誰かに見つかったら一大事だ。
もう行進をやめなくちゃいかん。
」
おじいさんは片手を高く上げて、電柱たちの列の方を向いて叫びました。
「全軍、ストップ! 止まれっ!」
電柱たちはみんな、ぴたりと止まって、すっかりいつもの電柱の姿に戻りました。
軍歌はただの「グワーン、グワーン」といううなり声に変わってしまいました。
そこに、汽車がゴーッとやってきました。
機関車の石炭は真っ赤に燃えて、その前で火夫(かふ)さんは踏ん張って、真っ黒な姿で立っていました。
ところが、客車の窓がみんな真っ暗でした。
すると、おじいさんがいきなり、
「おや、電灯が消えているな。
こいつはいけない。
けしからん!」と言いながら、まるでウサギのように背中をまん丸にして、走っている列車の下へもぐり込みました。
「危ないっ!」と恭一が止めようとしたとき、客車の窓がパッと明るくなって、一人の小さな子が手を上げて、
「明るくなった! わああい!」と叫びながら通り過ぎていきました。
電柱たちは静かにつぶやき、シグナルがガタリと上がって、月はまたウロコ雲の中へ隠れました。
そして汽車は、もう駅へ着いたようでした。
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