「この野郎! きさまの流した電気のせいで、俺たちのオリザ(稲)がみんな倒れてしまったじゃねえか! いったい何のためにあんな余計なまねをしたんだ!」
一人の男が怒鳴りました。
ブドリは落ち着いて言いました。
「稲が倒れるなんて……きみたちは春に配られたポスターを見なかったのかい?」
「なんだと、この野郎!」
いきなり一人の男がブドリの帽子をパカーンとたたき落としました。
それからみんなは寄ってたかって、ブドリをボコボコになぐったり足で蹴ったりしました。
ブドリはあまりのことに何がなんだか分からなくなってしまい、ついにドサリと倒れ込んでしまいました。
気がついたとき、ブドリはどこかの病院のような部屋の、白いベッドの上に寝ていました。
枕もとには、お見舞いの電報やたくさんの手紙が山のように積まれていました。
ブドリの体じゅうは痛くて熱っぽく、思うように動かすこともできませんでした。
けれども、それから一週間ほど経つと、ブドリはすっかりもとの元気を取り戻していました。
そして新聞を読むと、あのとき村で起きたトラブルの真相がわかりました。それは、肥料のやり方をすっかり間違えて教えてしまったある農業技師が、自分のミスを隠すために「稲が倒れたのは全部火山局のせいだ」と嘘をついてごまかしていたためだったのです。それを知ったブドリは、部屋で一人、声を上げておかしそうに笑いました。
その翌日の午後、病院の用務員さんがひょっこり部屋に入ってきて言いました。
「ネリというお名前の女性がお見舞いにいらっしゃいましたよ」
ブドリは、「まさか夢じゃないだろうか」と思いました。するとまもなく、すっかり日焼けした、まるで田舎のおかみさんのような女性が、おずおずと部屋に入ってきました。
すっかり大人びて面影は変わっていましたが、あの悲しい森の中から見知らぬ男たちに連れ去られてしまった、あの妹のネリだったのです。
二人はあまりの驚きと嬉しさにしばらく言葉も出ませんでしたが、やっと落ち着いたところでブドリがこれまでのいきさつを尋ねると、ネリもポツポツとイーハトーヴの農民たちの言葉で、今までの身の上話を語りはじめました。
ネリを連れ去ったあの男は、三日ほど経つと面倒くさくなったのか、ある小さな牧場の近くにネリを置き去りにして、どこかへ行ってしまったのだそうです。
行き場をなくしたネリがそのあたりで泣きながら歩いていると、牧場の主人が可哀そうに思って自分の家に連れ帰り、赤ちゃんの守りをさせたりしてくれました。ネリはそこで一生懸命働き、どんな仕事もできるようになったので、なんと三、四年前にその小さな牧場のいちばん上の息子さんと結婚したのだと、うれしそうに話してくれました。それから、今年の年は肥料がちゃんと降ってくれたおかげで、ふだんなら家畜のフンをわざわざ遠くの畑まで運ばなきゃいけなくて本当に大変だったのが、すぐ近くのカブ畑へみんな配れたんだということ、それに遠くのトウモロコシもすごくよく育って、家族みんなが大喜びしているんだということも教えてくれました。
また、あの懐かしい森の中へ、牧場の主人の息子といっしょに何度も行ってみたけれど、家はすっかり壊れ果てていて、ブドリがどこへ行ったのかもまったくわからなかったので、いつもがっかりして帰っていたんだということ、そしたらきのう新聞で、主人がブドリのケガのニュースを読んでくれたので、やっとこうして尋ねてこられたんだということも話してくれました。
ブドリは、病気が治ったらきっとあの家へ遊びに行って、お世話になったお礼を言うよと約束して、ネリを家へ帰しました。
九 カルボナード島
その後の五年というもの、ブドリにとってそれは本当に楽しい毎日でした。
あの赤ひげの主人のおうちへも、何度もお礼に行きました。
主人はもうかなりおじいさんになっていましたが、相変わらずものすごく元気で、こんどは毛の長いうさぎを千匹以上も飼ってみたり、真っ赤なキャベツばかりを畑いっぱいに作ってみたりと、相変わらずの変わり者ぶりを発揮していましたが、暮らし向きはずっとよくなっていました。
ネリには、とってもかわいい男の子が生まれました。
冬になって仕事がひと段落すると、ネリはその子にまるで小さな農家の子どものような服を着せて、主人といっしょにブドリの家へ遊びに来ては、泊まっていくのでした。
ある日のこと、ブドリのところに、むかし「てぐす飼い」の男のところでブドリといっしょに使われていた人が尋ねてきて、ブドリたちのお父さんのお墓が、あの森の一番はずれにある大きなカヤの木の下にあるんだよと教えてくれました。
それは、はじめにてぐす飼いの男が森へやってきて、森中の木を一本残らず見てまわったとき、ブドリのお父さんたちの冷たくなった体を見つけて、ブドリにショックを与えないようにと、そっと土に埋めて、その上にカバの枝を一本立てておいてくれたのだということでした。
ブドリはすぐにネリたちを連れてその場所へ行き、白い石灰岩でちゃんとしたお墓を建ててあげました。それからも、その辺りを通るたびには必ずお墓に立ち寄るようになったのです。
そして、ちょうどブドリが二十七歳になった年のことでした。
なんだか、あの恐ろしくて冷たい気候がまたやってくるような、不気味な予兆が漂い始めたのです。
測候所では、太陽の様子や北の海の氷の動き具合から、その年の二月には早くも農家の人々へ向けて冷害の予報を出しました。
その予報がだんだん現実のものとなり、春になってもコブシの花が咲かなかったり、五月なのに十日もみぞれが降り続いたりするうちに、人々はあの前回の恐ろしい凶作の悪夢を思い出し、不安で生きた心地もしませんでした。
クーボー大博士も、何度も気象や農業の専門家たちと話し合ったり、新聞に意見を発表したりしましたが、どうしてもこの激しい寒さの到来だけはどうすることもできない様子でした。
ところが、六月に入っても、まだ黄色いままのイネの苗や、まったく芽を出さない木々を目にすると、ブドリはもういてもたってもいられない気持ちになりました。
このまま寒さが過ぎ去るのを待っていたら、森にも野原にも、ちょうどあの年のブドリの家族のようになってしまう人たちが、またたくさん出てきてしまうのです。
ブドリは何も食べようともせず、何晩も何晩も考え続けました。
そしてある晩、ブドリはクーボー大博士の家を訪ねました。
「先生、大気の層の中に炭酸ガスが増えてくれば、気温は暖かくなるのでしょうか?」
「それは暖かくなるだろうね。地球が誕生してからいままでの気温は、だいたいいつも空気中の炭酸ガスの量で決まってきたと言われているくらいだからね」
「もしカルボナード火山島が、いま大爆発を起こしたら、この気候を変えてしまうくらいの炭酸ガスを噴き出すでしょうか?」
「それについても私も計算してみたんだ。あれが今すぐ爆発すれば、ガスは大気の循環に乗って上層の風に混ざり、地球全体をすっぽりと包み込むだろう。
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