そして土は、戦車の側面に出るが、ここは、蛇の腹のような別のコンベヤーになっていて、どしどし土を後方へ送る」
「なるほど。「ここでありますか」
工藤上等兵は、センザンコウのウロコみたいな背中のような、地下戦車の胴体を指さしました。
「そのとおり。
地下戦車の胴体は、後ろに行くほど細くなっているから、土がスムーズに後ろへ送られるわけだ。
それからもう一つ重要なのは、この戦車が腹の下のキャタピラで前進すると、戦車の後ろ側に隙間ができることだ。
最初からうまくいけば、この場所は真空状態になる。
だから、その隙間に、前から送られてくる土を吸い込む働きもするんだ。
まるで強力な掃除機のようなものさ。
どうだ、わかったか?」
「はあ、大体わかった気がします! これは前回の地下戦車第一号とはちがって、めちゃくちゃ進歩していますねえ。
いやあ、これで自分の祈願も、ご利益があったってものですよ!」
工藤上等兵は、まるで自分のことのように大喜びして、
「で、この戦車第二号は、いつから作り始めるんですか?」
「そうだな、この設計をもう一度よく見直してから、加瀬谷部隊長殿に報告しようと思っている。
あと半年はかかりそうだな」
「そんなにかかるんですか?
それは待ち遠しいですねえ!」
「いや、作っていいかの許可(試作伺い)もあるし、予算のこともあるし、工場や材料の都合もあるから、自分の思い通りにはいかないんだよ。
なにしろ、うちの国はまだまだ貧しくて、材料も足りないし、機械も全然足りないし、技術者だってもっと増やさないと、アメリカやソ連やドイツには追いつけないからな」
「なるほど。
じゃあ、もっとお祈りをつづけないと、日本もりっぱになれませんね!」
「まったくそのとおりだ。
――そうだ、今日は、さっそくこの設計図を部隊長殿にお見せしようと思う。
おい工藤、部隊長殿はお部屋にいらっしゃるか、ちょっと見てきてくれないか」
「はっ!」
工藤は岡部の命令で、すぐに部屋を飛び出していきました。
岡部伍長は、やっと設計が終わったので、さすがにホッとして、机にほおづえをつきました。
すると、どこからともなく、プーーーンといい香りが鼻をかすめました。
「おや、変だな?
このいい香りは……お酒だ! いったいどこにお酒があるんだ?」
伍長は立ち上がって、あたりを見回しました。
でも、どこにあるのかよくわかりません。
彼はくんくんと鼻を鳴らしながら机のまわりを歩き回っていましたが、そのうち、工藤上等兵の机の上に置いてあったボール紙の箱に気がつきました。
「あっ、これだ!」
箱を持ち上げて、フタのところに鼻を近づけてみると、プーーーンと強いお酒の匂いがします。
「けしからん、工藤のやつ! いくらお酒が好きだからって、こんなところに隠しておくなんて……」
岡部伍長は顔をこわばらせて、工藤上等兵が大事にしていた箱のフタをパカッと開けました。
「おや、これはなんだ?」
箱の中には、意外なことに、たくさんのお寺や神社のお札が、隙間もないほどびっしりと貼りつけられていました。
そのお札には、「四月三日祈願」というふうに、一つ一つ日付が書いてあります。
また、箱の一番奥には、工藤の文字で「岡部伍長殿の地下戦車完成大祈願。その日までは、絶対禁酒のこと」と書いてありました。
そして箱の中には小さな薬びんが一つ転がっていて、フタのすき間からお酒がにじみ出て、プーーーンといい香りを放っていたのです。
ここで、岡部伍長はすべての事情を察しました。
工藤は、自分のために外出するたびにあちこちの神社を巡って祈願をし、大好きな酒さえ断って、一生懸命に地下戦車が完成するように願ってくれていたのでした。
工藤がいつもこの箱を大事にして、肌身離さず持っていた理由も、これでやっとわかりました。
「おお、工藤……!
ありがとう。
おれ、絶対に完成させてみせるぞ。
うう、ありがとう……!」
岡部伍長は、思わずお札の入った箱を自分の頭の上まで掲げました。
大団円
新しく設計された地下戦車第二号は、それから一ヶ月後に完成しました。
もっとも、あと半年はかかるだろうと思われていたのに、わずか一ヶ月でできたのには、ちゃんとした理由があったのです。
その理由というのは他でもなく、世界の情勢が急に悪くなったからでした。
以前から○○国境のほうに、世界最大を誇る巨大なメカの軍団を集めていた○○軍が、最近になってついに我が軍の陣地に対して堂々と勝負を挑んできたのです。そのうえ、○○鉄道を使ってぞくぞくと大軍を送っていることがわかりました。
そこでいよいよ、○○国境を新しい戦場として、お互いに自慢する日ロ(※作中では○○)の精鋭メカ軍団が、勝つか全滅かという、まさに一か八かの大決戦を交えることになったのです。
そのため、メカ部隊をもっと強力にする必要にせまられ、地下戦車の試作も急ピッチで進められることになりました。
そうして完成した岡部式の地下戦車第二号は、前回と同じように、とある県にある演習場へと引っ張り出されました。
夜が明けるのを待って、かけられていた大きな布が取り除かれると、その下から、地下戦車はものすごく怪しげでカッコいい姿をあらわしたのです。「ほう、前回の地下戦車とは、まるで形がちがってしまったな」
と、感歎の声を放つ見学の将校もいた。
こんどの地下戦車は前のものよりも、すこし重量を増して、四十トンちかくとなったが、これは主として原動機を三個に分けたためであった。
岡部伍長と工藤上等兵のほかに、もう二名の兵があらたに、この中にのりこんだ。
加瀬谷少佐は、この日、ことの外、にこにこしていた。
こんどこそ、この地下戦車はうまくうごくであろうと見極めていたからだった。
「地下戦車第二号、出発します」
岡部伍長は車上から上半身を出して、加瀬谷部隊長の方へ報告した。
少佐は、手をあげた、伍長は挙手の礼をして、旗をふると、姿を車内に消した。
外蓋が、ぱたんと閉じられた。
つづいてごうごうとエンジンが、まわりだした。
まもなく地下戦車は、そろそろと動きだした。
そして、前方二十メートルのところにある丘の腹に向っていった。
「この前のときは、地下戦車が自力で動かないものだから、牽引車で後から押したもんだ。
こんどはちゃんと自分で走るからわしは安心したよ」
少佐は、傍の将校の方をむいて、眼を細くして笑った。
そのうちに、地下戦車は、三本の角みたいな廻転錐を、ぷすりと赤土の丘の腹につきたてた。
ぷりぷり、ぎりぎりぎり。
赤土が、霧のようになって、後方へとぶ。
エンジンの音が一段と高くなる。
「ほう、こんどは、岡部のやつ、なかなか鮮かにやってのけるぞ。
ほう、どんどん深く入っていくわ」
部隊長をはじめ、見学の将校団は、思わず前へ出ていった。
地下戦車は、まるで雪を削るロータリー車のように、すこぶる楽々と、赤土の中へもぐっていった。
そして、まもなく戦車の尾部が土中にかくれ、あとは崩れ穴だけになったが、その穴からは、もくもくと赤土が送り出されてきた。
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