初級翻訳・柿色の紙風船 第5話

柿色の紙風船

私は「うまくいったぞ!」と、心の中で踊り出したいほど大喜びし、ホッと大きなため息をもらした。
こうしてラジウムは、柿色の紙風船の中に入ったまま、私の手を離れて遠くへ運ばれていったのだった。

その後の話は、わざわざ語るほどのこともない。
私は予定より二週間ばかり早く、刑務所から釈放された。
外に出るときは、やっぱりあの帆村とかいう探偵が立ち会う中で、服のポケットの中をしつこく入念に調べられたけれど、それは彼らを思い切りがっかりさせる結果に終わっただけだった。
私が刑務所を出たあと、私の着ていた囚人服や独房の中を、大勢の看守たちが大騒ぎしてひっくり返して調べただろうことを想像すると、思わず笑いがこみ上げてきて仕方がなかった。
シャバ(外の世界)の風は、本当に最高に気持ちがよかった。ピューッと冷たい空っ風が吹き抜けていくと、私はオーバーの襟をしっかりと立てました。
「ああっ、寒い」
風の冷たさを肌で感じられるなんて、なんて幸せなことだろう。
私は、五年間コツコツと働いて貯めたお給料の入った封筒をギュッと握りしめながら、物珍しそうにあたりをキョロキョロと見回しました。
そこへ、一足のタクシー(円タク)がやって来ました。
私は車を呼びとめると、浅草へと走らせてもらいました。
タクシーに乗るのも、あの事件以来のことです。
私はポケットに手を突っ込み、封筒の中から五十銭銀貨をそのまま取り出しました。
「旦那、浅草のどの辺りだい?」
「ああ、浅草の……そうだ、浅草橋の近くでいいよ」
「浅草橋なら、少し行き過ぎちまったねぇ」
「いや、近くならどこでもいいんだ。ここで降ろしてくれ」
私は綺麗な舗装道路の上に降り立ちました。
でも、そのコンクリートの路面は、なぜか刑務所の作業場を思い出させるものでした。
私は嫌な気分になりました。
そこで私は、トコトコと歩き始めました。
目指す先は、七軒町にある玩具の問屋「丸福商店」でした。
あっちへ行ったりこっちへ来たりして、かなり道に迷いましたが、やっとのことでお目当ての店を探し当てました。
お店の店先には、楽しそうなたこや羽子板がぶら下がり、セルロイドのラッパやサーベル、紙で作った鉄兜などなど、色々な品物が天井から所狭しと吊るされていました。
――私は少しも恥ずかしがることなく、店先にドスンと腰を下ろしました。
「いらっしゃいませ。
何かお探しですか?」
と、店番の小僧さんが尋ねてきました。
「ああ、紙風船が欲しいんだけどね、ちょっと注文があってさ、いろいろ見せてくれないか」
「かしこまりました。
――紙風船と言いますと、ちょうどこちらに……」
と、小僧さんが指をさしました。
なんと、私の座った膝の前には、あの懐かしい紙風船が山のように積み上げられていたのです。
(おおっ……!)
私の胸は、まるで鐘が鳴るようにドキドキと激しく波打ちました。
今すぐ風船を両手でわっとかき集めて、しっかり押さえつけたい衝動に駆られました。
でも私も、刑務所での生活ですっかり警戒心が強くなっていました。
「そうだなァ……」
私は無理に気持ちを落ち着かせ、風船の山を上から下へとじっくり調べました。
(柿色の風船はあるか?)
無い、無い。
いや、無いわけではないけれど……。
そもそも、私が入っていた刑務所の作業で作った紙風船は、そのすべてがこの丸福商店に買い取られることになっていたのです。
刑務所の入札の結果、今年も紙風船の買い取り先は丸福商店に決まっていたからです。
だから、あの柿色の紙風船がこの店以外に行く場所なんて、あり得ないはずでした。
まさか、もう売り切れてしまったのだろうか?
「……もうこれ以上、風船はないのかい?」
「ただいま出ているのは、これだけですねぇ……」
「そうかい。
どこか奥にしまってあるんじゃないのか?」
「いいえ、ありませんよ」
小僧さんはあっさりと言いました。
私はガックリと肩を落とし、立ち上がる元気もありませんでした。
そのとき、店の奥から番頭さんらしき人が声をかけました。
「吉松!
さっき、あそこから届いた荷物があったじゃないか。あれをお客さんに見せてあげなさい」
「ああっ、そうでした!
……旦那、少々お待ちください。
今日ちょうど入ってきた分がございますので」
「今日入ってきたのかい?
ああ、そうかい!」
私は嬉しさのあまり、顔の形が飴のようにデロデロに崩れていくのをどうすることもできませんでした。
小僧さんは、大きなハトロン紙の包みをバリバリと乱暴に破りました。
「こちらはいかがでしょうか……」
「ああ――!」
私は一目で、柿色の紙風船が混ざっている場所を見つけ出しました。
「おっ、こいつはちょうどいい。
これごと全部買おう!」
私は十円札をポンと投げ出して、たくさんの風船を買いました。
小僧さんが包み紙で包んでくれている間も、誰かが邪魔をしにやって来やしないかと、気が気じゃありませんでした。
でも、それはただの取り越し苦労に終わりました。
私は風船の入った包みをぶら下げて、店を飛び出しました。
ところが、店の前を五、六歩歩いたか歩かないかのところで、私はギョッとしました。
私の顔見知りの男が、向こうから歩いて来るのです。
あれは間違いなく、あの帆村という探偵でした。
(これはまずい――!)
私は一瞬で覚悟を決めましたが、幸いにも帆村探偵は、ずらりと並んだ玩具問屋の看板ばかりに気を取られて歩いているようでした。
私はスルリと電柱の影に身を隠し、この間抜けな探偵をどうにかやりすごしました。
私はすぐにタクシーを拾い、両国へと急がせました。
国技館の前で降りて横丁を入っていくと、「幸楽館」という小さなホテルがありました。
私はそこのドアを押し開けました。
三階へと駆け上がり、部屋からお掃除のお手伝いさんを追い出すのももどかしいほどでした。
宿泊料とチップを受け取ると、ふくら雀のようにふっくらとしたお手伝いさんは部屋を出ていきました。私はコートを脱ぎ捨て、上着も脱ぎ捨てました。
そして、持ってきた包みをバリバリと荒々しく剥がしました。
ナイフなんて使っている暇はありません。
すべて爪の先で破り捨てました。
出てきた、出てきた!
「柿色の紙風船だァ!」
包みからあふれ出た紙風船たちは、部屋の中にまるでカーニバルの花吹雪のようにフワフワと散らばりました。
「これだ、これだっ!」
やっと探し求めた、あの柿色の紙風船でした。
私の目は感激のあまりに涙でいっぱいになり、急に視界がぼやけました。
その涙をシャツの袖で乱暴に拭いながら、私は紙風船の丸い尻あてのところを指先で探ってみました。
「おや……?」
どうしたというのだろう。尻あてのところに、確かに触れなければならない硬いものが、どうしても触れないんだ。
そこは、まるであのツルツルのスケートリンクみたいに平らだった。
「そんなはずはないぞ!」
我慢できなくなった私は、尻あての部分に指をグッとひっかけて、バリバリと力任せに剥ぎ取ってみた。
そして、すっかり裏返しにして隅々まで調べてみたんだ。
だけど、やっぱり何も見当たらない。

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