このまま砲撃すれば、ジムの体は木っ端微塵になってしまいます!」
そう言って中尉に警告しました。
すると中尉は言い放ちました。
「ジムの危険よりも、本官に与えられた任務の方が重大だ。今ここで鉄の水母を撃沈しておかなければ、俺は艦隊司令官へ報告ができない。構わんから、狙いを定めて、ドーンと一発ぶっ放せ!」「ジムに、早く海へ飛び込んで鉄の水母から離れろと合図しろ!」
砲撃
しかし、ジム水兵は鉄の水母にしがみついたままだった。
ザベリン中尉の砲撃命令に、砲手は仕方なく、主砲の照準を急いで鉄の水母の方へ向けた。
「おい、早く撃て! 鉄の水母に逃げられてしまったら、何にもならないじゃないか」
中尉は、ここで鉄の水母を取り逃がせば、今後また暴れられるのではないかと心配していたのだ。
砲手は一生懸命、きりきりと照準器を手で回した。
あまりの近距離射撃である。砲口は低く下がっていく。
「おい、まだ撃てないのか」
「はい、砲撃の準備はよろしいです」
「よし、撃て!」
ドーン!と、砲口は真っ黒な煙を吐き出して砲弾を放った。
しかしその砲弾は鉄の水母には当たらず、その上を飛び越えて、はるか向こうの海面に大きな水柱を上げただけだった。
「なんだ、照準が全くなっていないぞ」
「はあ、海面が荒れておりますので……」
「なんだと? 貴様は陸兵ではなく海兵だろう。船が揺れることに、今さら驚くやつがあるか! しっかり照準をつけて、続けて撃て!」
「はあ」
砲手はまた照準を付け直した。
しかし彼にしてみれば、仲間のジムが鉄の水母にしがみついている以上、砲撃などしたくなかったのだ。
二回目の砲撃が行われた。大音響とともに砲弾は炸裂したが、これもまた鉄の水母の上を飛び越えてしまった。
「ちぇっ、なんて下手な砲撃だ。おい、照準手、代われ!」
「ザベリン中尉。砲がこれ以上、下を向かないのです」
「何、砲が下を向かないだと? それで砲弾が鉄の水母の上を飛び越えるというのか。ははあ、そんなことで俺を騙せると思っているのか。よし、照準は俺がつける!」
ザベリン中尉は砲のそばへ駆け寄った。そして照準望遠鏡のクロスヘアを覗きながら、連動ハンドルをぐるぐると回した。
そのうちに、彼は眉をひそめた。
「あ、なるほど。これはどうも駄目だな。本艦を、もっと鉄の水母から引き離せ。おい、急いで全速後進だ!」
ザベリン中尉が顔を真っ赤にして怒鳴っている間に、潜水艦はようやく少し動き出した。
「よし、その辺でストップ!」
ザベリン中尉は手を上げた。そして彼は、鉄の水母に向かって改めて照準を定めようとした。
しかしその時、鉄の水母はどこへ行ったのか、海面から姿を消し去っていた。
「あっ、とうとう沈んでしまったか!」
ザベリン中尉はひどく悔しがった。
しかし甲板の上で、これをじっと見ていたロロー殿下は、大きな兜の中でニヤリと笑った。
鉄の水母は、元々沈むようにロロー殿下が仕掛けておいたものだった。ジムはその間に無事に救い上げられた。
ロンドン帰港
帰還だ。もう二度と見ることができないと思っていたロンドン港が見える。
クイーン・メリー号の生存者たちは大喜びだ。凱旋である。
クイーン・メリー号の救助命令を受け、遠く大西洋上へ派遣された英空海軍の部隊は、今や大任を果たして、堂々と英京ロンドンを目指して凱旋してきたのだ。
その日のロンドンは、お祭りのような騒ぎだった。
ロンドンの市民は老いも若きも、メリー号が見える埠頭や高層ビルの窓に集まってきた。
メリー号が入港する前から、旗を振ったり、五色の紙テープをばら撒いたりして、ものすごい熱狂ぶりだった。
そこに集まったのはロンドン市民だけではない。近郊からも、続々とこの奇跡の汽船を見ようと見物人が押し寄せてきた。
テームズ川をクイーン・メリー号が上り始めたというラジオのアナウンスが流れると、待ちに待った人々はワッと喜びの声を上げた。そして一斉に目を輝かせ、広い川面の方へつま先立ちで背伸びをした。
ポー、ポポー。
汽笛が鳴った。
「あっ、メリー号が帰ってきた!」
「あっ、あそこだ! 見える、見えるぞ! メリー号のマストが折れている!」
メリー号の前後には救助に向かった潜水艦や駆逐艦が護衛し、また空では、ラスキン大尉率いる派遣空軍が美しい編隊を組んで舞っていた。
「クイーン・メリー号、万歳!」
「万歳!」
待ちくたびれて不平を言っていた群衆も、今は吸い込まれるようにメリー号へ身を乗り出し、盛んに歓声を送った。
だが、クイーン・メリー号の、なんと変わり果てた姿よ。
帆柱は折れ、船側はへこみ、通風筒は無様に曲がり、見るも無残な姿であった。
船体を三色に彩っていた美しいペンキはすっかり剥げ落ち、まるで鉄くず置き場から引っ張り出してきたかのように見えた。しかし、船内からありったけの万国旗を引っ張り出し、帆柱から帆柱へと張り巡らせて、せめて「海の女王」としての身だしなみを見せようとしました。ところが、その万国旗も多くは色あせたり、汚れたり、破れたりしていて、それを見ている人々の目には思わず涙が浮かびました。
クイーン・メリー号が、その疲れ切った船体を埠頭につけると、ロンドン市長が行列の先頭に立って、この奇跡的な生還を遂げた船を訪問しました。
マイクロフォンが担ぎ上げられ、船内へ運び込まれます。
写真班が、フラッシュライトをパッパッと焚きました。
ロンドンはその日も、どんよりとした霧に包まれていたからです。
群衆がメリー号に押し寄せました。
しかし、まず何よりも無事なメリー号の姿に安心を感じると、彼らはラジオや新聞の上でかねてから好奇心をかき立てられていた「あるもの」の方へ、注意を向け始めました。
「おお、海底大陸のロロー殿下を見せてもらいたい」
「そうだ、そうだ。早く見せろ!」
押し寄せた群衆。
どこの国でも、群衆というのははしたないものです。人間がまだその存在を知らなかった海底超人を、クイーン・メリー号がお土産に連れてきたというので、ひと目でも見ようとひしめき合っていたのです。
「海底超人を見せろ!」
「メリー号の乗客と乗員の命を奪った海底超人を見せろ!」
群衆を包む空気は、少しずつ険悪になってきました。
クーパー事務長は、今まで船橋に立ち、クイーン・メリー号を歓迎する群衆に対して、目に涙を浮かべて感激しながら帽子を振っていました。しかし、ひしめく群衆の中から海底超人に対する呪いの声を聞きつけると、顔色がサッと青くなりました。
そうなるのも無理はありません。メリー号の責任者として、ロロー殿下を軟禁程度の扱いで祖国へ連れ帰ったつもりでしたが、群衆はメリー号で亡くなった人々の恨みを、ロロー殿下にぶつけようとする気勢だったのです。
「これは、少し面倒なことになったぞ」
さすがのクーパー事務長も、困り果てた様子です。そこへ一等運転士のパイクソンが上がってきました。
「事務長、困ったことが起きました」
「とは、どうしたのかね」
「出迎えの群衆が船内に暴れ込んできました。ロロー殿下を出せとわめきながら、船室という船室を片っ端から探し回っているのです」
「ふむ。
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