先生、あなたは、やっと、我々の話を、本気で聞いてくれるようになりましたね」
「で、私に、政府へ話をしろと、おっしゃるのですか」
「その通りです。
そうして、こういうことも、よく話をしてもらいたいのです。
わが火星の宇宙艇の着陸場として、この附近の山中を我々にゆずってもらいたいのです」
「えっ、何ですって」
丸木は、少し言葉じりをふるわせながら、
「つまり、この山梨県の山中を、我々火星人に、自由に使わせてもらいたいのです」
と、何でもないことを、おずおずと申し出た。
どうも、丸木の話しぶりがへんだ。
31 火星人
たいへんな相談をかけられたものである。
地球人類を救ってやるから、この山梨県の山中一帯を、火星人にゆずれと言うのだ。
新田先生は、そんな相談をかけられても、返事をすることは出来ない。
先生は、この山梨県の地主でも何でもないのだから。
「そんな相談を受けても、私にはとりきめる力がありませんよ」
先生は、正直に怪人丸木に返事をした。
すると丸木は、むっとしたようであった。
「なぜ、とりきめが出来ないのかね」
丸木は、時々らんぼうな口のききかたをする。
「私は、そんなことに力のない一国民ですからねえ」
「そんなことはない」
と、丸木は強く言いきった。
「我々は、君を人間の代表として、相談をしているのだ。
力があるもないも、もう一箇月もすれば、地球の人類は、誰も彼も、なくなってしまうではないか。
君は人間だろう。
人間なら、人間として、りっぱに我々に返事が出来るはずだ」
どうもよく、丸木の言っていることが、のみこめないが、火星人は、人間界のことなら、どの人間に相談してもいいのだと、思っているらしかった。
先生は、はからずも人間の代表に選ばれて、むしろ、たいへんめいわくだった。
どうしたものかと、なやみながら、ふと前を見ると、怪人丸木のまわりには、いつの間にか例のドラム缶に、細い手足をはやしたような火星人が、たくさん集って来て、しきりにこっちを見ている。
先生は、その時、火星人が、まん中に妙な機械を抱えこんでいるのを見つけて、あれは一体何であろうかと、不思議に思った。
それは、ラジオの機械の上に、うちわを立てたような機械だった。
先生がこっちから何か言うと、丸木以外の火星人は、その機械の方に、ねっしんに顔をよせる。
「どうしても、そんな相談に、約束は出来ません」
先生は、きっぱり言った。
「まだ君は、そんなことを言うのか」
怪人丸木は、いよいよきげんを悪くした。
すると、他の大勢の火星人も、とつぜん奇妙な声を立てて、騒ぎ出した。
その時先生は、その大勢の火星人が、大事そうに抱いているへんな機械が、ひょっとすると、人間の話を、火星人にわかるように直す変話機ではないかと、気がついた。
その時先生は、とつぜん火星人の一人に、胸ぐらを取られて、びっくりした。
「こら、らんぼうし給うな」
と、先生は彼の手を振りはらったが、彼はしっかと握って、放さなかった。
その時、先生は火星人の手が、まるで鋼鉄の棒のように固くて、そうして冷たいのを知っておどろいた。
そのらんぼうな火星人は、先生をなぐりつけるつもりか、一方の手を振上げた。
その時、火星人の腕のつけねに妙な音がした。
ぎりぎりぎりと、何か歯車で鎖を巻くような音だった。
「何をするっ」
先生は、必死になってそれを防ぎながら、火星人の目を見た。
火星人の目は、じっと遠いところを見つめているようであった。
ガラス玉のような、うつろな動かない目であった。
そのくせ、火星人の腕はのびて、先生の頭をめがけて、はげしくうちおろすのであった。
「あっ!」
先生は、受損じて、頭が割れたかと思った。
そうして、ふらふらと倒れそうになったので、先生は前後の考えもなく、火星人の胴中に抱きついた。
すると、火星人はあわて덜ったようであった。
そうして急に弱くなって、ごろんとその場に倒れた。
新田先生は、火星人を下に押さえつけたまま、ふうふうと苦しい息をはいた。
何かどなりつけてやりたかったが、あまりに息切れがはげしくて、声を出そうにも、声が出なかった。
下になっている火星人は、両手、両足を動かして盛にもがいた。
ひゅう、ひゅう。
ぷく、ぷく、ぷく。
火星人は、妙な声をあげてうなった。
新田先生は、この時火星人の体について、重大な発見をした。それは、ひゅうひゅう、ぷくぷくという奇妙な声が、火星人の口から出ているのではなく、のどのあたりから聞こえてくるということでした。
先生はびっくりして、その火星人ののどをじっと見つめました。
すると、火星人の首は、今にも肩からポロリと外れそうになっていたのです。
やっぱり、首のない生き物なんだ――火星人というのは!
ひゅうひゅう、ぷくぷくという声は、首と肩のつぎ目のあたりから漏れ出ていたのです。
首が外れる生物! 首なしの生き物!
そんな不思議な生き物が、この世の中にいていいものでしょうか。
ハッとして、先生はもう一度火星人の目をじっと見直しました。
目は相変わらずガラス玉のように遠いところを見つめていたまま、少しも動きません。
まるで作りものの目のようです。
のたうち回る火星人を必死におさえつけながらも、先生は苦しい息の下で、敵の体に油断しないよう注意を払い続けました。
先生は火星人の口を見ました。
口は半開きになったままで、うるおいもなく、ピクリとも動きません。
もちろん、そこからはげしい息づかいが聞こえることもありませんでした。
どう考えても、この火星人は、作りものの首を肩の上にのせているとしか思えません!
(驚いたぞ。
火星人のやつめ、作りものの首をのせているらしい!)
先生が下に組み敷いているこの火星人だけが、特別というわけではありません。
丸木だと思われるあの怪人も、この前、首をコロンと落としたことがあったのです。
先生は急に気持が悪くなりました。
首がないのに生きているなんて、とても信じられない、不思議なことです。
とても本当のことだとは思えません。
しかし、火星人はまさしく、首がないままで生きているのでした。
それを証明するかのように、ちょうどその時、先生の下でもがいていた火星人の首がポロッともげて、ころころと向こうへ転がっていったのです。
「あっ、とうとう首が落ちた!」
あまりの奇怪さに、新田先生はもう我慢できなくなり、火星人の腹の上から飛び退こうと上半身を起こしました。
その時でした、先生がもう一つの恐るべきものを見たのは……。
それは一体、何だったのでしょうか?
新田先生が上半身を起こした時、先生は、火星人の胸についている大きな二つのボタンに、まるでグッと睨みつけられたような気がしたのです。
ボタンに睨まれる?
そんなことがあってよいのでしょうか。
とにかく、確かにその大きな二つのボタンに、じっと睨まれたような気がしたのです。
そして、確かにそのボタンは、目玉のようにぐるぐると動いたのでした。
「ああっ!」
先生は思わず叫び声をあげて、もう一度その目玉のように動く大きなボタンを見つめました。
するとどうでしょう。
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