そのときの小学生たちは、そのゴムだこのことがどうしてもあきらめきれず、いつもその話をしています。
「あのゴムだこは、どうしちゃったんだろうね」
「ああ、あのゴムだこをくわえていったの、大きな犬だよね」
「グレート・デーンっていう犬だろう、あの犬は」
「うん。まあ、そんなことはどうでもいいんだ。僕はあの犬をきのう見たよえっ、見たのかい? それでどうしたの。ゴムだこをくわえていなかったかい?」
「だめだめ。そんなにいつまでもゴムだこをくわえてなんかいるもんか。でも、どこかにくわえていって埋めてあるのかもしれないと思ったからね。僕はあの犬のあとをしばらくつけてみたんだ」
「そうかい、犬のあとをつけたのかい! それでどうだったい? ゴムだこを埋めてあるところがわかったかい?」
「いや、それもだめさ。あの犬はゴミ捨て場ばかりあさって歩いたけれど、ゴムだこを埋めてあるようなところへはいかなかったよ」
「変だなあ」
「まったくおかしいね。第一、あんな立派な犬がゴミ捨て場ばかりあさるのはおかしいよ。だって、あの犬は三、四百円もする高い犬なんだぜ。飼い主が食べ物をやらないはずがないよ」
「そんなこと、わかりゃしないさ。モロー彗星が地球と衝突する日が近づいているんだ。どんな立派な犬だって、犬のことなんかかまっている余裕はないのさ」
「なるほど、それもそうだなあ」
「それより、僕はあのゴムだことについて、不思議に思うことがあるんだ」
「えっ、不思議に思うって、何がさ……」
小学生たちの話は、まだまだ続いていきます。
「だって、そうじゃないか! ぼくたちは人間狩りに出てきた火星人を生け捕りにしたってことで、すごくほめられただろ。ところが、あの火星人っていうやつは、ぼくたちが投げ綱でグルグル巻きにしたら、足は抜けるし、首も抜けちゃうしさ、胴体ばかりみたいになって、ごろごろ転がり出したろう?」
「そうだ、そうだ! そして戦車にぶつかって、火星人の胴体はこなごなにこわれてしまったんだ」
「うん、そのとき、あのゴムだこみたいな変なものが胴体の中からころがり出したんだけど、あれはいったい何だったんだろうねえ」
「あれは火星人の内臓(はらわた)だよ。きっとそうだ!」
「おかしいなあ。内臓なら、ぐにゃぐにゃしているはずじゃないか。僕ははっきりと見たけれど、あのゴムだこは干物(ひもの)みたいだったぜ。しかも、僕の目には、その干物みたいなものに、たしかに首がついていたように見えたんだ。首だけじゃない、大きな目がついていたよ」
「そうかしら……」そんなばかばかしいことはないだろう。
はらわたに首があったり、目があったり……」
「でも、たしかにそうだったんだから仕方がないよ。
だから、不思議だと言うんだ」
「そうかなあ。
ほんとうかなあ。
ほんとうだとすると、なるほど、これは不思議だ。
胴中から首があるものが飛びだすなんて」
「ああ、わかった、わかった。
じゃあ、それは、火星人の子供なんだよ。
ひきころされた火星人の腹の中に、その子供がいたんだ」
「子供? 子供なら、やはりぐにゃぐにゃしていなきゃあならない。
あれは、干物のようにこちこちだったよ。
子供じゃないだろう」
「そんなことを言うと、ますますわけがわからなくなるじゃないか」
39 秘密とける日
火星人の胴がばらばらになって、その中から飛びだした不思議なゴムだこのようなものの正体について、三人の小学生はたいへん知りたがったが、彼らの仲間では、ついにそれをとく力がなかった。
その前に、新田先生たちが、火星人の首がぽろりと落ちることを発見している。
これも全くわけのわからないことだ。
一体火星人は、どんな体を持っているのであろうか。
火星人は鉄の体を持ち、そうして首がはなれ、手足がはなれ、それから胴中がわれて、へんなゴムだこみたいなものが飛びだす。
何ということであろう。
人間の知識では、火星人の体の秘密について、いくら答えを出そうとしても、それを出す力がないのではなかろうか。
まず、その通りであった。
火星人は、地球の人間のことを、前からくわしく研究して知っていたけれど、人間の方では、火星人の研究をしているものが、ほとんどいなかったのであるから、仕方がないであろう。
だが、ついに火星人の体の秘密が、すっかりわかる日がやって来たのである。
実にすばらしいことだ!
それは、一体誰が答えを出したのであろうか。
それが、誰であったかをここで言ってしまうよりも、私は、その後の新田先生の一生懸命な働きについて、お話をするのがいいだろうと思う。
新田先生が、火星人の変話機という機械をみやげに、東京へもどって来たことは、前に言った。
そうして先生は大江山課長などに、火星人が人間狩をはじめるから、用心するようにと知らせた。
そうして先生は、火星人からうばって来た変話機を用いて、しばしば思いがけない手柄を立てたのであった。
何しろ火星人が、何かものを言うと、その意味がすぐさまこっちにわかるので、火星人はよく不意をうたれて追っぱらわれるようなことがあった。
だが、火星人は、いつも大江山課長を隊長とする警察隊のために、追っぱらわれるだけで、ついぞつかまったことはない。
何しろあの強力な火星人のことであるから、人間があたりまえに向かったのではとても相手にならないが、変話機のおかげで、東京における火星人の人間狩の計画は、夜のふけるにつれて、めちゃめちゃになってしまった。
警視総監は、別に命令を出して、火星のボートがたくさん着陸している山梨県の山奥へも、討伐隊を向けたのであった。
ところが、この方は大失敗に終った。
数百名からの、警官隊は、火星兵団のため見事にやっつけられてしまったのである。
「とても、警官隊ではだめです。
兵隊さんに出かけてもらわなくては、とても勝味がありません」
と、心細い報告が大江山課長のもとへ、届いたのであった。
「ふうん、残念だ」
と、課長はその報告文を手にして歯を食いしばった。
新田先生はそのそばにいたものだから、悲しむべき警官隊の敗退を、すぐ知ることが出来た。
「ねえ、大江山さん、失礼ながら警官隊だけでは、火星兵団はどうにもなりませんよ。
軍隊を向けるにしても、重砲か重爆撃機を持っていかなくては、とても攻略は出来ないでしょう」
と、自分の思うところを述べた。
課長はだまってうなずいた。
「だが、軍隊を出すということは、そうかんたんにいかないのだ。
総監はどんな目にあおうとも、ぜひとも、警官隊でもって、火星兵団をつかまえるようにと厳命しておられるのだ」
「課長さん。
それはどう考えても無理な話ですよ」
と、新田先生は、正直に考えを言った。
しかし、先生とて総監や課長の苦しい胸の中を察しないではなかった。
火星兵団の先遣隊を討伐に向かった決死警官隊は、どれもこれも、ひどい損害をこうむり、本庁には次々に、全滅の報告が舞いこんだ。
東京市内の警戒のため、夜通し町の辻に立って、任務をつづけている大江山課長は、その報告がやって来るたびに、さらに顔を暗くした。
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