張もネッドも、これから大きい顔をして食事をとることができるのだ。
さしあたり、その日の昼食は、近頃になくすばらしいものだった。
路傍にある松林の中へ入って、清らかな小川を前に、四人の少年は各自の胃袋をはちきれそうになるまで膨らますことができた。
そしてそのあとには、香りの高いコーヒーと濃いミルクとが出た。
「こんなに儲かるんだったら、夏休みがすんでも学校へ帰らないで国中うって廻ろうか」
ネッドは、たいへんいい機嫌で、黒い顔に白いミルクをつぎこみながらいった。
「いや、僕は御免だ」
と、張が反対した。「あれっ、君は、あんなに儲かったからって、飛び上がって喜んでいたくせに……」
「だって、あんなに重い牛の頭のかぶりものをかぶって、二時間も三時間も休みなしでうめいたり叫んだりする真似をするのは、やってられないよ」
「でも、さっきは喜んでやったじゃないか」
ネッドは納得いかない様子で張をにらみつけた。
「さっきは、僕たちが本当に飢え死にするかどうかの瀬戸際だったから、我慢したんだよ。
君が言うみたいに、僕ひとりで毎日あんな真似をやった日には、きっと病気になって死んでしまうよ」
「弱いことを言うなよ、張君。
とにかくあんなに儲かるんだから、辛抱してやってくれよ」
「儲かるのはいいけど、僕一人じゃ損じゃないか。
牛頭大仙人(ごずだいせんにん)を、毎日交代でやるっていうなら賛成してもいいけどね」
「牛頭大仙人を毎日交代でやるって?
へえ、そんなことができるのかい。
だって、水晶の玉をにらんで、どうして占いの答えを出すかなんて、僕たちにできるわけないじゃないか」
山木がそう言って突っかかった。
「なに、あの占いのことなら、そんなに心配することはないよ。
誰にでもできることさ。
つまり、水晶の玉をじっと見つめていると、急になんだかしゃべりたくなってくるんだよ。
そのときはべらべらしゃべればいいのさ」
張はすました顔で答えた。
「だって、それが難しいんだよ。
僕らが水晶の玉を見つめても、君みたいにうまく霊感がわいてきたりしないもん」
「それは僕だって、いつも霊感がわくわけじゃないさ」
「じゃあ、そのときはどうするんだよ。
黙っていたらお客さんが怒り出すぜ」
「そのときは、何でもいいから出まかせにしゃべればいいんだ。
そうするとお客さんは、それを自分の都合のいいように解釈して、ありがたがって帰っていくんだよ。
占いの答えに怒り出すお客さんなんて一人もいないさ」
張は自信満々の口ぶりだった。
「呆れたもんだな。
それじゃあインチキ占いじゃないか」
と、山木は抗議した。
「違うよ。
こっちは口から出まかせを言うけれど、お客さんの方で自分の都合のいいように勝手に解釈して、納得して帰るんだぜ。
それに、あんなふうに缶詰や野菜をたくさん持ってきてくれるところを見ると、みんなちゃんと当たっているってことだろ。
だからさ、こっちの言うことが口から出まかせでも、お客さんは何か思い当たることがあるんだよ。
そしてその言葉によって迷いを吹き飛ばし、喜んで一つの方向へ進んでいく。
だからすごくいいことじゃないか。
お金や物を儲けても、悪いことなんかないのさ」
張仙人は、彼一流の理屈をぶちまけた。
これには山木も、すぐには言い返す言葉が出なかった。
「じゃあ張君。
さっき君に占ってもらった火星探険協会長のデニー博士のことだけどさ、あのときの占いは、本物だったのかい? それとも口から出まかせだったのかい?」
そう聞いてきたのは、これまで黙って熱いコーヒーをすすっていた河合だった。
「はははは、あのことかい。
あのヒゲもじゃの先生のことだろ。
あれは、君が出発する前に僕がネッドに行わせた占いと同じようなもので、水晶の玉を使わなくても分かることさ」
張はくすくすと笑い続けた。
「ふうん、『二日後に僕たちが厄介を背負い込むだろう』なんて言ったあれだね。
あれはひどいよ」
河合は張をにらみつけたが、あのときのことを思い出して、おかしくなって吹き出した。
「はははは、そう怒るなよ。
とにかくあれは占うまでもなく、水晶様にお伺いしなくても口からスルスルと出てきたことなんだ。
そういうときは、不思議とよく当たるものなのさ」
「当たるのは当たり前さ。
自分が二日後には追いつくことが分かっているんだからな。
まったくひどいやつだよ」
「おい張君。
すると結局、デニー博士に与えた占いはどういうことになるんだ?
やっぱり君は、博士の将来はこうなると知っていて、あのようにしゃべったのかい?」
今度は山木が尋ねた。
「そうでもないね。
初めは、あの人が火星探険協会長だとは知らなかったんだ。
だから何も知るはずがない。
ただ、博士が穴から顔を出したとき、これだけの答えが博士の顔にハッキリと書いてあったんだよ。
僕はそれを読んで順番にしゃべったにすぎないんだ」
「嘘をつけ!
博士の顔に、そんなことが書いてあるわけないだろ。
考えてもみたまえ。
博士の顔と言ったらヒゲだらけで、文字を書く余地なんて、普通の人間の三分の一もないじゃないか。
字を五つも書いたら、もう書くところなんかないはずだぞ」
山木がそう言うと、河合とネッドは声を上げて笑った。
おそらくデニー博士のあの愛すべきヒゲ面を思い出していたのだろう。
「もうそんなことは、どうだっていいじゃないか」
と、張はコーヒーを入れたコップ代わりの空き缶を下において、ゴロンと横に転がった。
「でも張君。
それは罪作りだよ。
デニー博士は、君の占いを本当だと思って、今ごろは大いに悩んでいることと思うよ。
なんだかかわいそうじゃないか」
山木は同情するようにそう言った。そうだ、火星探険協会長たるデニー博士は、この頃たいへん悩んでいて、これまで自信をもっていた自分の判断力に頼ることができなくなり、牛頭大仙人の水晶占いのことを聞きつけると、わざわざ駆けつけたものであろう。
だから多分博士は、張のいったことを今本気で信じているのではなかろうか。
きっと、そうだ。
すると博士の火星探険計画に、これから何か重大な影響を及ぼして来ることだろう。
これはたいへんなことになった。
赤三角研究団
話はここで変って、赤三角研究団というものについて記さなければならない。
赤三角研究団とは、変な名前である。
が、これにはその団員が研究衣の肩のところに、赤い三角形のしるしをつけているので、そうよばれる。
本当のちゃんとした名前が別にあるのだが、土地の人は誰も皆、赤三角研究団とよびならわしているので、ここでも当分そのように記して置こう。
さて、この赤三角研究団は元気のいい青年たちで編成せられて居り、研究団の本部はアリゾナの荒蕪地にあった。
そこからは遙かにコロラド大峡谷の異観が望見された。
荒蕪地というのは、あれはてた土地のことで、ここは砂や小石や岩石のるいが多く、畑にしようと思ってもだめであった。
だから人もあまり住まず、雑草がおいしげっているばかり、鳥と獣が主なる居住者だった。
そういうところに、赤三角研究団の本부가置かれてあったが、その建物は、この土地以外の人だと、どこにあるか分らなかった。
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