形がそっくりなのかい?」
「うん、まちがいない。
あれだよ。
たしかに、あれだよ。」
園井少年はいきをはずませていいきるのでした。
「よしっ、それじゃあ、ぼく、先生に電話をかけてくるからね。
きみは知らん顔しているんだよ。
ほかの団員にもいっちゃいけない。
さわぎたててあいてに気づかれると、まずいからね。
いいかい、すぐ帰ってくるからね。」
小林団長はそういいのこしてそっとせきを立ち、便所へでもいくような顔をしてテントの外へかけ出しました。
そして近くのタバコやの電話をかりて、明智先生にことのしだいを知らせたのです。
十人の女王さまのショーは二十分あまりもつづきましたが、ありとあらゆる馬の曲のりを見せたあとで、女王さまたちががくや口へはいってしまうと、つぎは空中サーカスの番組でした。
大テントのてんじょうのいくつかのぶらんこがおろされ、砂場の上には大きな救命網がはりわたされました。
小林少年はとっくに見物せきにもどっていましたが、空中サーカスの用意がすすめられているときに、テントの入口に明智探偵のすがたがチラッと見えました。
小林君はすぐにそれに気づいていそいでそこへいきました。
すると明智探偵は小林君をもものかげによんで、
「警官隊がこのテントを包囲している。
警視庁の中村警部もきているよ。」で、その宝冠をかぶった女の子は、どこにいるんだね。」
とささやきました。
「さっき、十人の女王さまのショーが、すんだばかりです。
いまはがくやにいると思います。
まだ着がえもしていないかもしれません。」
小林君も、ささやき声で答えました。
「よしっ、それじゃ、ぼくと中村君とで、がくやをしらべる。
きみたちも、目だたないように、ここを出て、テントの外を見はってくれたまえ。」
明智は、そういいのこして、外に出ると、せびろ姿の中村警部を、手まねきして、ふたりで、がくやへはいっていきました。
空中のとりもの
サーカスのがくやは、大テントの横の小テントの中にあるのですが、そこに数十人の座員がはいっているので、たいへんなこんざつです。
そのがくやの一方のすみに、さっき、「十人の女王さま」に出た若い女の人たちが、まだ女王さまの赤い服のままで、かたまっていました。
みんな長ぐつをぬいでいましたが、宝冠はまだかぶったままです。
そこへ、道化師の一寸法師が、こそこそとはいってきました。
もう道化服はぬいで、ふだんぎのジャンパー姿です。
かれは、女王さまたちの中のひとりの女の人のそばに近づいて、その耳に、なにかささやきました。
その女の人は、「にじの宝冠」をかぶっているのです。
にじの女王さまは、一寸法師のささやきをきくと、びっくりしたように立ちあがって、キョロキョロとあたりを見まわしました。
そして、いきなり、人びとをかきわけるようにして、テントのうら口へとび出しました。
うら口から外をのぞくと、そこには、制服の警官がふたり、目をひからせて立っていました。
にじの女王は、それを見て、おどろいて首をひっこめました。
そして、はんたいに、こんどは大テントの方へ走りだしました。
ちょうどそのとき、明智探偵と中村警部が、がくや口へやってきました。
にじの女王は、ふたりのわきをサッとすりぬけて、大テントの中へ、とびこみました。
「あっ、いまの女が、そうだっ。」
明智探偵は、いそいで、そのあとを追います。
中村警部も、いっしょに走りだしました。
にじの女王は大テントに走りこむと、てんじょうのぶらんこから、さがっている綱につかまると、スルスルと、それをのぼっていきます。
宝冠をかぶった赤い服の女王さまが、てんじょうへのぼっていくのです。
そのとき、場内が、にわかに、ざわめきはじめました。
「あいつを、つかまえろ。
あいつが犯人だっ。」
砂場にかけつけた中村警部が、てんじょうの、にじの女王をにらみつけて、おそろしい声で、どなったのです。
すると、テントの入口から、四―五人の私服刑事が、弾丸のように、とびこんできました。
そして、砂場にかけつけると、その中のひとりが、いきなり、さがっている綱にとびついて、にじの女王のあとを追いはじめました。
このただならぬできごとに、見物せきは、そう立ちになりました。
座員たちも、びっくりして、砂場へ集まってきました。
綱の上の、にじの女王は、下から刑事がのぼってくるのを見ると、いっそう手足をはやめて綱をのぼり、たちまち、てんじょうにさがっている、ぶらんこにのりました。
そして、ぶらん కోట్ల 棒にこしかけて、そこにかぎでひっかけてある下からの綱を、とりはずそうとしています。
ああ、あぶない。
そのかぎをはずしたら、綱の中途までのぼっている刑事が、まっさかさまに、ついらくするではありませんか。
刑事も、それに気がつきました。
かぎをはずされるまえにのぼりきって、ぶらんこに、とりつかなければなりません。
かれは、死にものぐるいに綱をのぼりました。
そして、右手をぐっとのばして、ぶらんこに、つかまろうとしたときです。
「ワーッ。」
という声が、見物せきから、おこりました。
にじの女王は、あやういところで、かぎをはずしたのです。
刑事のつかまっている綱が、サーッと下へおちていきました。
刑事は、二十メートルの上から、ついらくしたのです。
瞬間、場内は、はかばのように、しいんとしずまりました。
みんなが声をのんで、ついらくする刑事のからだを、見つめていたのです。
刑事は、まっさかさまに落ちてきました。
そのまま地面にぶっつかれば、気ぜつするか、死んでしまうかです。
人びとは手にあせをにぎりました。
しかし、刑事は運がよかったのです。
ぶらんこは、砂場の上にはりつめた、救命網の上にありました。
刑事はその網に落ちたのです。
かれのからだは、太い網の上で、まるくなって、ぽんぽんと、二―三度、はずみました。
そして、うまく助かったのです。
中村警部は、男の座員の中から、空中サーカスになれた人たちをえらんで、にじの女王を、つかまえてくれとたのみました。すると、強そうな三人の男たちが、ぴったりと体に引き締まったシャツとズボン下の衣装で、三方から別の綱を伝って、スルスルと天井に登っていきました。
ぶらんこの上にいるにじの女王は、それを見てあわてました。
自分よりも空中曲芸が得意な男たちに三方から囲まれては、どうすることもできないからです。
女王は、まるで気が狂ったかのように、ぶらんこを大きく揺らし始めました。
大テントの天井で、宝冠と金モール飾りの赤い服が、サーッ、サーッと大きく揺れて、そのたびにキラッ、キラッと美しい虹の光が放たれるのです。
男たちは、すでに天井まで登っていました。
天井には、ぶらんこを吊るす木の棒が、縦横に組み合わさっています。
男たちはその棒伝いに、三方から女王のぶらんこへと迫っていきました。
ぶらんこは、大テントの天井に届くほどに大きく揺れていました。
一番高く上がったときには、にじの女王の体がほとんど真っ逆さまになるほどの勢いです。
でも、宝冠が落ちる心配はありません。
宝冠は細い紐で、しっかりあごに結びつけられているからです。
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