初級翻訳・町中の月 第2話

永井 荷風

稲荷橋をわたると、斜めに向こうへ電車の通る南高橋がかかっている。
電車通りの明かりを避けて、川岸伝いに歩みを進めると、この辺りは倉庫と運送問屋のほかにほとんどお店はないので、日が暮れると昼間の騒がしさとは打って変わって人通りもなく、トラックなどの貨物自動車も通らない。

石川島と向かい合いになった岸には栄橋と一の橋がかかっていて、水際に渡海神社という小さな祠(ほこら)がある。

永代橋に近くなると、広大な三菱倉庫が鉄板の戸口につけた薄暗い明かりのせいで、かえってあたりをもの寂しくさせている。
そして倉庫の前の道路は、すぐさま広い桟橋へと続いていて、あたりは空き地でも見るように広々と開けている。

わたしはいつもこの桟橋のはずれまで出て、太い杭に腰をかけ、ぴたぴた寄せてくる満ち潮の音を聞きながら月を見る……。

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