初級翻訳・発明小僧 第5話

海野 十三

――皆さま、この説明を読んで、お腹の具合はいかがですか?

牛馬両便器の発明
 昭和二年実用新案広告第四二九四号(類別、第七十五類五、家畜用便器)――出願人、四谷区永住町、中×清氏。
牛や馬のフンやオシッコと、都会の美しい景観や衛生問題をめぐる悩みは、いつの時代も誰もが頭を悩ませる大問題です。
そこで考え出されたのが、この画期的な発明というわけです。
図をご覧いただくと分かる通り、オシッコの方にはじょうご型の受け皿が備えられており、牝牛などの場合にちょうど良い位置に下からあてがう仕組みになっています。
ジャージャーと用を足せば、そのじょうごの中にスルスルと落ちていき、底から伸びている管を通ってタンクの中へと流れ込むという寸法です。
これなら、美しい道路を汚す心配もなければ、地面がえぐれてしまう心配もない、というわけですね!ダイの方は、手前に出ているハンドルを、キューッと矢の方向に引っ張ると、クランクの巧みな動きによって、エビのように曲がった管の先についているダイ(排泄物受け)の受け器が、クルリと回転して、ちょうどいい下向きの角度になり、ダイを受け止めます。
受け止められたものはコロコロと、太い管の中を転げ落ちて、タンクの中に入る仕組みですから、牛馬先生も、お尻のあたりから響く遥かなる余韻嫋々(よいんじょうじょう)たる風情ある音色を耳にすることになるでしょう。
ハンドル操作が間に合うかどうか心配する人がいるかもしれませんが、その点はまったく心配いりません。
なぜなら、牛馬というものは用を足したくなるとまず急にピタッと立ち止まりますから、その瞬間にすぐハンドルを引っ張れば、十分に間に合うからです。
――という、実に実によくできた仕組みなのであります。
こうして牛馬くんは、一日中自分のお産物を積んで引き連れて歩くことになるというわけです。
さて、このせっかくの発明も、牛馬車がトラックにその座を奪われて追い払われてしまった今日では、わずかに雑誌や原稿のネタとして笑い話になるくらいしか、その効果を発揮する場もなくなってしまったのでした。

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