世界中で、眠りの精のオーレ・ルゲイエくらい、たくさんのお話を知っている人はいません!――オーレ・ルゲイエは、本当にいくらでもお話ができるのですからね。
夜になって、子供たちがまだお行儀よくテーブルに向かっていたり、低い椅子にちょこんと腰かけたりしているころ、オーレ・ルゲイエがやってきます。
オーレ・ルゲイエは、静かに、静かに階段を上ってきます。
なぜって、靴下しかはいていないのですからね。
オーレ・ルゲイエは、そっとドアをあけて、子供たちの目の中に、シュッと、あまいミルクをちょっぴりだけつぎこみます。
でも、ほんの、ほんのちょっぴりですよ。
けれど、それだけでも、子供たちはもう目を開けていられなくなってしまうのです。
だから、子供たちにはオーレ・ルゲイエの姿が見えません。
オーレ・ルゲイエは、子供たちのうしろに忍びよって、首すじのあたりをそっと吹きかけます。
すると、子供たちの頭がだんだん重くなってくるのです。
本当ですよ。
でも、子供たちに意地悪をしているわけでは全然ありません。
だって、オーレ・ルゲイエは子供たちが大好きなんですから。
ただ、子供たちに静かにしていてほしいと思っているだけなのです。
そのためには、子供たちをベッドに連れていくのがいちばんいい方法なんですよ。
オーレ・ルゲイエは、これから楽しいお話を聞かせようと思っているので、子供たちに静かにしていてもらいたいのです。
――
さて、子供たちがぐっすり眠ってしまうと、オーレ・ルゲイエはそのベッドの上にちょこんと座ります。
見ると、それはそれは立派な格好をしています。
上着はきれいな絹でできています。
でも、それが何色なのかは、お話しすることができません。
というのも、オーレ・ルゲイエがからだを動かすと、それにあわせて、緑にも、赤にも、青にも、キラキラと色が変わって光るからです。
両腕には、こうもり傘を一本ずつ抱えています。
一本の傘には、すてきな絵が描いてあります。
これをいい子たちの上にパッと広げると、その子たちは一晩中、それはそれは楽しい夢を見るのです。
もう一本の傘には、なにも描いていません。
これをお行儀の悪い子たちの上に広げると、その子たちは、なにも考えずにボーッと眠りこんでしまって、次の日の朝に目がさめても、夢なんてひとつも見ていないのです。
それではこれから、オーレ・ルゲイエがヤルマールという小さな男の子のところへ、一週間毎晩やってきて、どんなお話を聞かせたか、私たちもいっしょに聞いてみることにしましょう。
お話は全部で七つあります。
一週間は七日ですからね。
月曜日
「さあ、お聞きよ」
オーレ・ルゲイエは、夜になるとヤルマールをベッドに寝かせて、こう言いました。
「今夜は、お部屋をきれいにかざりつけようね」
そう言うと、植木鉢の中の花という花が、あっという間に大きな木になりました。
そして、長い枝を天井のほうや、かべの方へとぐんぐん伸ばしました。
だから部屋全体が、たとえようもないほど美しい、緑の隠れ家のようになったのです。
どの枝にも、たくさんの花が咲き誇っています。
しかも、その花の一つ一つがバラの花よりも美しく、すごくいい香りをただよわせています。
おまけに、それを食べてみると、ジャムよりも甘いのです。
木の実は金色にキラキラと光っています。
それだけじゃありません、おいしそうな干しブドウがいっぱい詰まった、はち切れそうなお菓子パンまでぶら下がっているではありませんか。
本当に、なんてすばらしいんでしょう!
ところがそのとき、ヤルマールの教科書が入っている机の引き出しの中で、なにかがはげしくしくしくと泣きだしました。
「おや、なんだろう?」
オーレ・ルゲイエはそう言いながら机のほうへ歩いていき、引き出しをあけてみました。
すると、石盤の上で、なにやら数たちがさかんに押し合いへし合いしているではありませんか。
それはこういうわけでした。
算数の計算のときに間違えてしまった数字が、いつの間にかそこに入り込んでしまったため、まわりの数たちがそれを追い出そうとして、今にもバラバラに散らばりそうになっていたのです。
石筆は、ひもに結ばれたまま、まるで小さな子犬のようにピョンピョンと飛び跳ねていました。
石筆はなんとかして計算を助けようとしていたのですが、ちっともうまくいっていなかったのです。
――
すると今度は、ヤルマールの習字帳の中から、とても聞いていられないほど、メソメソと泣きわめく声が聞こえてきました。
そこで習字帳を開いてみると、どのページにも、大きなお手本の文字が縦に一列ずらりと並んでいました。
その大文字のすぐとなしには、小文字が一つずつ並んでいました。
これは先生が書いたお手本の字です。
けれども、そのすぐそばには、ヤルマールが自分で書いた文字がいくつかつづられていました。
これらの字は、自分でもお手本の字にそっくりだと思い込んでいました。
なんたって、ヤルマールがお手本の字をじーっと見つめながら、一生懸命書いたものですからね。ところが、これらの字は、ちゃんとえんぴつで引いた線の上に立っていなきゃいけないのに、まるでたおれたみたいに、よこにゴロンと寝ころんでいたのです。
「ほら、いいかい? こんなふうに、からだをしゃきっと起こすんだよ」
とお手本の字が言いました。
「ほらごらん、こんなふうにすこしななめにして、それから、ぐーーんとはねを伸ばすのさ」
「ぼくたちだって、本当はそうしたいんだよ!」
と、ヤルマールが書いた字たちが答えました。
「だけど、できないんだ……。なんだか、みんな体調がわるくてさ」
「じゃあ、おまえたちはみんな、おなかのくすりを飲まなくちゃいけないね」
と、オーレ・ルゲイエが言いました。
「いやだ! そんなの絶対いやだ!」
と、みんなはさけぶと同時に、パッと元気よく起き上がりました。
その様子があまりにおかしくて、見ているだけでくすっと笑ってしまいそうでした。
「今夜は、もうお話をしてあげる時間はないね」
と、オーレ・ルゲイエは言いました。
「これから、きびしいお勉強のきょうくんをしないといけないからね! いち、に! いち、に!」
それから、みんなはおそるおそる訓練をうけました。
するとどうでしょう、どの子もまるで最初からのお手本の文字みたいに、ピシッとまっすぐに立ったのです。
けれども、オーレ・ルゲイエが帰っていって、次の日の朝にヤルマールが目をさましたときには、みんなやっぱり昨日と同じように、しょんぼりと情けないかっこうに戻っていたのでした。
火曜日
ヤルマールがベッドに入るとすぐに、オーレ・ルゲイエは小さな魔法の注射器を手に持って、部屋の中にあるありとあらゆる家具にちょんちょんとさわっていきました。
すると、さわられた家具たちは、次から次へとしゃべりだしたのです!
しかも、みんながみんな、自分のじまん話ばかりをペチャクチャとおしゃべりしはじめました。
ただ一人のこって、部屋のたすみにいる「痰壺(たんつぼ)」だけは、むすっとだまりこくったままでした。
でも、その心の中ではとっても怒っていたのです。
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