人間のひとりくらいはのみ込めそうな大きなブルドッグが何匹も、高く飛び跳ねていました。
しかし、ほえはしませんでした。なぜなら、ほえてはいけないと固く言い渡されていたからです。
すすだらけの古い大きな広間の中では、石畳の床の上で火がさかんに燃えていました。
煙は天井まで立ち上り、出口を探していました。大きな大きな鍋の中で、スープがぐつぐつと煮えたぎっていました。
そして、野ウサギや家ウサギが串刺しにされて、火の上でぐるぐると回されていました。
「あんたは今夜、あたしと一緒に、あたしの小さな動物たちのところで寝るんだよ」と、山賊の娘が言いました。
ふたりは食べ物と飲み物をもらうと、部屋の隅へ行きました。
そこにはワラとふとんが敷いてありました。
頭上の梁(はり)や棒の上には、ハトが百羽ほどとまっていました。
見たところみんな眠っているようでしたが、ふたりが近づくと、少しだけ体を動かしました。
「これはみんな、あたしのものなんだよ」小さな山賊の娘はそう言うと、いきなり手近にいた一羽をつかまえました。
そして足をつかんでゆすぶったので、ハトは羽をバタバタとさせました。
「キスしてやんな」娘はそう言って、そのハトでゲルダの頬をぺしぺしと叩きました。
「あっちにいるのが、森のならず者だよ」と、娘は話を続けながら、壁の高いところの穴の前に打ち込まれた横木の向こうを指さしました。
「あそこにいる二羽が、森のならず者なのさ。
しっかりと閉じ込めておかないと、すぐに飛んでいっちまうんだよ。
それから、ここにいるのがあたしの古い友だちのベーだよ」そう言うと、一頭のトナカイを、角をつかまえて引き出しました。
そのトナカイの首にはピカピカ光る銅の首輪がはめられていて、それでつながれていたのです。
「こいつも、しっかり縛っておかなくちゃならないんだよ。
でないと、すぐにここから飛び出していっちまうからね。
毎晩、あたしはよく切れるナイフで、こいつの首をくすぐってやるんだ。
そうすると、こいつ、とっても怖がるから」そう言うと、小さな娘は壁の裂け目から長いナイフを取り出し、それでトナカイの首筋をなでました。
かわいそうに、トナカイは足をバタバタとさせました。
山賊の娘はおもしろそうに笑い転げました。
それから、ゲルダと一緒に寝床に入りました。
「あなたは、寝ている間もナイフを持っているの?」と、ゲルダは聞きました。
そして、少し怖そうにそのナイフを眺めました。
「寝ているときだって、ナイフは持ってるよ」と、小さな山賊の娘は言いました。
「何が起きるか、わかったもんじゃないからね。
だけど、さっき話してくれたカイちゃんのことを、もう一度話しておくれよ。
それから、おまえがどうしてこの広い世界に出てきたのかってこともね」
そこでゲルダは、もう一度はじめから話をしました。
すると、森のハトが上のかごの中でクークーと鳴きました。
ほかのハトたちは眠っていました。
小さな山賊の娘はゲルダの首に腕を巻きつけて、片手にナイフを持ったまま、いびきをかいて眠り込んでしまいました。
しかし、ゲルダは目をつぶるどころではありません。
これから先、生きていられるのか、それとも死ななければならないのか、さっぱりわからなかったからです。
山賊たちは火のまわりに座り込んで、さかんに歌ったり飲んだりしています。
ばあさんはトンボ返りを打っています。
ああ、しかし、小さなゲルダにとっては、なんという恐ろしい光景だったことでしょう!
そのとき、森のハトが言いました。
「クー、クー! ぼくたち、カイちゃんを見たよ。
白いニワトリがカイちゃんのそりを運んでいてね、カイちゃんは雪の女王の車に乗ってたよ。
ぼくたちが森の巣の中で寝ていると、森の上をすれすれに飛んでいったんだ。
そのとき、雪の女王がぼくたち子どもに息を吹きかけたもんだから、ぼくたちふたりのほかは、みんな凍え死んじゃったんだよ。
クー、クー!」
「あなたたち、そこでなんて言ってるの?」と、ゲルダは大きな声で言いました。
「その雪の女王はどこへ行ったの? あなたたち、知ってる?」
「きっとラップランドだろうよ。
あそこは一年じゅう、雪と氷ばっかりだからね。
そこにつながれているトナカイさんに聞いてごらん」
「そうですよ、あそこは雪と氷ばかりで、じつに恵まれたすばらしい所ですよ!」と、トナカイは言いました。
「キラキラ光る大きな谷間を、みんなは自由にとびまわるんです! そこに雪の女王は夏のテントを張るんですが、女王の本当のお城は、北極の近くにあるスピッツベルゲンという島にあるんですよ」
「ああ、カイちゃん、カイちゃん!」と、ゲルダはため息をつきました。
「静かに寝ていなよ」と、山賊の娘が言いました。
「でないと、このナイフを横っ腹につきさすよ」
あくる朝、ゲルダは森のハトの言ったことを、残らず山賊の娘に話しました。
娘はたいそう真面目な顔をして聞いていましたが、やがてうなずいて、こう言いました。「そんなことは、どっちだっていいや。どっちだっていいや。――おまえは、ラップランドがどこにあるか、知ってんの?」と、山賊の娘はトナカイにききました。
「わたしよりよく知っている者なんて、まず、ないでしょうね」トナカイは、こう言って目をかがやかせました。「わたしは、あそこで生れて、大きくなったんですよ。あそこの雪の原を、とびまわったんですよ」
「ねえ、おまえ」と、小さな山賊の娘はゲルダにむかって言いました。「男たちはみんな出かけちまって、いま家にいるのはおっかさんだけだろ。おっかさんはうちにのこってるんだけど、朝ごはんのとき、大きなびんからお酒を飲んで、またちょいと寝こんじまうんだよ。――そしたら、いいことしてやるよ!」
こう言うと、娘は寝床からはね起きて、おっかさんの首っ玉にとびつきました。そして、そのひげをひっぱりながら、こう言いました。「あたしの大好きなヤギさん、おはよう!」
すると、おっかさんは指で何度も何度も娘の鼻をはじきましたので、しまいには娘の鼻が赤くなったり青くなったりしてしまいました。けれども、これはおっかさんが娘をかわいがってしただけのことなのです。そのうちに、おっかさんはまたびんのお酒を飲んで、ぐっすりと寝こんでしまいました。
そのようすを見ると、山賊の娘はトナカイのところへ行って言いました。「あたしは、もっともっと、おまえをピカピカしたナイフでくすぐってやりたいんだよ。だってそうすりゃ、とってもおもしろいもの。だけど、いいさ。おまえの綱をほどいて逃がしてやるから、ラップランドへ行きな。だけど、いっしょうけんめい走って、この女の子を雪の女王のお城へ連れていくんだよ。そこに、この子の友だちがいるんだから。おまえも、この子が話していたとき聞いてただろ。あんなに大きな声でしゃべってたんだもの。それに、おまえだって耳をすまして聞いてたんだから」
トナカイは、うれしさのあまり、はねあがりました。山賊の娘は小さなゲルダを押し上げて、トナカイの背中に乗せてくれました。そして、ゲルダのからだをしっかりとゆわえつけて、そのうえ、小さな座ぶとんまでもくれました。
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