初級翻訳・雪の女王 第11話

アンデルセン ハンス・クリスチャン

山賊の娘は、こんなにまでも、いろいろと気をつかってくれたのです。

「どうだっていいや」と、娘は言いました。「これが、おまえの毛の長靴だよ。これから、うんと寒くなるからね。だけど、マフ(手あて)はあたしがもらっておくよ。とってもきれいなんだもの。といったって、おまえに寒い思いはさせないから。この、おっかさんの大きな指なし手袋を持ってきな。おまえなら、ひじのとこぐらいまであるだろ。さあ、はめてみな! ――ふうん、手だけ見てると、まるで、あたしのきたないおっかさんみたいだよ」

ゲルダは、うれしさのあまり、泣き出しました。

「めそめそするのは、ごめんだよ」と、小さな山賊の娘は言いました。「それよか、うれしそうな顔でもしな。それから、ここにあるパンを二つと、ハムを一つやるからね。これだけあれば、おなかもすかないだろ」

二つとも、トナカイの背中のうしろにゆわえつけられました。山賊の娘は戸をあけて、大きなイヌをみんなおびき入れました。それから、ナイフでトナカイの綱を切って、言いました。

「さあ、走ってきな。でも、背中の女の子に気をつけるんだよ」

そこで、ゲルダは大きな指なし手袋をはめた手を山賊の娘のほうへのばして、「さようなら!」と言いました。それから、トナカイはかけ出して、やぶや切りかぶをとびこえ、大きな森をつきぬけ、沼地や草原をこえて、いっさんに走っていきました。オオカミがほえ、カラスが鳴きさけびました。空のほうで、「シュー、シュー!」いう音がしました。まるで、なにかが赤い火をはいているようでした。

「あれは、わたしの昔なじみの極光(オーロラ)ですよ」と、トナカイは言いました。「ごらんなさい、あんなによく光ってますよ」

それから、トナカイは、いままでよりももっと早く、夜も昼も走りつづけました。パンはもうすっかり食べてしまいました。ハムも食べきってしまいました。そのとき、ラップランドにつきました。

六番めのお話
ラップランドのおばあさんとフィンランドの女

トナカイは、とある小さな家の前でとまりました。その家は、たいそうみすぼらしい家でした。屋根が地面についていて、そのうえ、入り口がたいへん低かったので、家の人たちは、腹ばいになって出入りしなければなりませんでした。家の中には、ラップランドのおばあさんがひとりいるだけで、ほかにはだれの姿も見えませんでした。おばあさんは、魚油ランプのそばに立って、さかなを焼いていました。

トナカイは、おばあさんに、ゲルダのことをすっかり話しました。もっとも、それよりもさきに、トナカイは自分のことを話しました。
つまり、自分のことのほうが、ずっと大事に思われたからです。
だいいち、ゲルダは、寒さのために、すっかりまいってしまって、話すこともできないありさまでした。

「おやおや、かわいそうに!」と、ラップランドのおばあさんは言いました。
「それなら、まだまだ、ずいぶん行かなきゃならないよ。ここから百マイル以上もさきの、フィンマルケンまで行かなきゃだめだね。雪の女王は、いまそこに行っていて、毎晩毎晩、青い火を燃やしているんだから。どれ、紙がないから干ダラにでも、ひとこと書いてあげようか。それを持って、わしの知ってるフィンランドの女のとこへ行くがいい。その女のほうが、わしよりか、くわしく教えてくれるだろうよ」

ゲルダは、火にあたって暖まりながら、食べたり飲んだりしました。そのあいだに、ラップランドのおばあさんは、干ダラにひとことふたこと書いて、それをだいじに持っていくようにと、ゲルダに言いました。それから、またゲルダをトナカイの背中に、しっかりとゆわえてくれました。

そこで、トナカイは、いっさんにかけ出しました。空のほうで、「シュー、シュー!」いう音がしました。たとえようもなく美しい、青い極光(オーロラ)が、一晩じゅう燃えていました。そのうちに、とうとう、フィンマルケンに来ました。ふたりは、フィンランドの女の家のえんとつをたたきました。なぜって、この家には戸口がなかったからです。

家の中は、たいそう暑かったので、フィンランドの女は、まるで、はだかのようなかっこうをしていました。このひとは背が低くて、ひどくいんきそうでした。けれども、ゲルダを見ると、すぐに着物をぬがせて、手袋と長靴を取ってくれました。この部屋の中では、こうしていないと、暑すぎてたまらなかったのです。

トナカイには、頭の上に氷を一かたまり、のせてやりました。そうしてから、干ダラに書きつけてある手紙を読みました。三度ほど、くりかえして読みました。そして、すっかりそらでおぼえてしまうと、その干ダラを鉄なべの中へ、ほうりこみました。こうすれば、まだまだおいしく食べられるのです。このひとは、どんなものでも、そまつにしないひとでした。

トナカイは、まず自分の話をして、そのあと、小さなゲルダのことを話しました。フィンランドの女は、かしこそうな目をパチパチさせて聞いていましたが、なんとも言いませんでした。

「あなたは、たいへんかしこい方です」と、トナカイは言いました。「あなたは、世界じゅうの風をくくりあわせて、一本のぬい糸にしてしまうことができるんですね。わたしは、ちゃんと知ってますよ。船頭が、その一つの結び目をとくと、追風が吹き、二番めの結び目をとくと、強い風が吹き、三番め、四番めと、といていくと、あらしになって、森の木々もたおれてしまうんですね。ところで、この娘さんに、飲み物をこしらえてやってくれませんか。この娘さんが十二人力になって、雪の女王を負かすことができるような、そういう飲み物をこしらえてやってくれませんか」

「十二人力だって?」と、フィンランドの女は言いました。「さぞ、役に立つだろうよ!」

それから、女はたなのところへ行って、ぐるぐるまいた、大きな毛皮を取り出して、それをひろげました。そこには、ふしぎな文字が書いてありました。フィンランドの女はそれを読んでいましたが、読んでいるうちに、ひたいから、汗がぽたぽた落ちはじめました。

しかし、トナカイは、小さいゲルダのために、もう一度熱心にたのみました。ゲルダも、目に涙をいっぱいためて、心からお願いするように、フィンランドの女を見つめました。女は、また目をパチパチやりはじめました。そして、トナカイをすみっこへ連れていって、そこであたらしい氷を頭の上にのせてやりながら、こうささやきました。

「そのカイって子は、たしかに雪の女王のところにいるけどね、いまは、なにもかもが自分の思いどおりになっているものだから、世界じゅうに、こんないいところはないと思っているんだよ。だけど、そんなふうに思っているのはね、ガラスのかけらが、カイの心臓の中につきささって、小さいガラスの粉が、目の中へはいっているためなんだよ。まずさいしょに、それを取り出さなければだめだね。」さもないと、その子は二度と、ちゃんとした人間には戻れず、いつまでも雪の女王の言いなりになってしまうんだよ!」

「それなら、そのすべてのものに打ち勝てるようなものを、ゲルダに授けてはいただけませんか?」

「わたしには、ゲルダがいま持っている力よりも大きな力を与えることはできないよ。

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