お姫さまの顔に水をそそぎかけたり、ひもをほどいて着物をゆるめたり、手のひらをたたいてみたり、「ハンガリア女王の水」というお薬でこめかみをもんだりして、いろいろと手を尽くしてみましたが、お姫さまは息をふきかえしませんでした。
やがて、この大騒ぎを聞きつけた王様が、すぐにかけつけておいでになりました。
そして十五年前の妖女の予言を思い出し、やはりこうなる運命だったのだということをさとると、お姫さまをそのままお城の中でもいちばん上等のお部屋につれて行かせ、金と銀のぬいとりが施されたきれいな寝台のうえにねかせました。
寝台のうえで、すやすやとお眠りになっていらっしゃるお姫さまの、その美しさといったらありません。
それは小さな天使だといってもいいくらいでした。
意識がなくなっていても生きているときのとおりの顔色をしていて、ほおはせきちく色に染まり、くちびるはさんごを並べたようでした。
目こそつぶってはいますが、かすかに息をする音は聞こえます。
それによって、お姫さまが死んではいないということが分かったので、まわりに集まった人たちは心からほっと胸をなでおろしました。
王様はそこで、やがてだれかがやって来て目をさまさせるまで、そのまま静かに眠らせておくようにと、きびしくお言いつけになりました。
さて、お姫さまを百年のあいだ眠らせることにして、どうにかあうがいの命をとりとめた、あの心の優しい妖女は、ちょうどこの大騒ぎが起こったとき、一万二千里はなれたマタカン国に行っていましたが、お供をしている小びとから、この知らせをすぐに受け取りました。
その小びとは、「七里とびの長ぐつ」という、ひとまたぎに七里ずつ歩ける長ぐつを履いて、一目散にかけて行ったのです。
そこで、妖女はさっそくそこを出発し、竜にひかせた火の車に乗ると、ちょうど一時間で王様のお城に到着しました。
王様は、ご自分のお手てで妖女を馬車から助けおろしました。
妖女は、王様がなさった処置のすべてを「たいへん結構です」とほめました。
しかし、未来のことがよく見える妖女でしたから、百年ののちに、お姫さまがせっかく目をさましても、この古いお城の中にたったひとりぽつねんと取り残されていては、どうしていいか分からず、さぞやお困りになるだろうと思いました。
そこで、妖女はいったい何をしたでしょうか。妖女は魔法の杖をふると、王様とお妃さまをのぞいて、お城の中にいるものすべてを杖でちょんとさわっていきました。それは、つきそいの女性の先生から、女官たち、お部屋係の女中たち、宮内官、役人たち、コック長に料理番、炊事係、台所ボーイ、番兵、雇いスイス兵、走り使いの小者たちにいたるまで、のこらず全員でした。
それからおなじようにして、馬丁といっしょに馬小屋で眠っている馬たちも、裏庭で遊んでいるむく犬も、お姫さまのベッドの上ですやすや眠っているペットの小さな犬までも、みんな魔法の杖でさわっていったのです。
魔法の杖でさわられたとたん、だれもかれも、なにもかも、あっという間にぐっすり眠りこんでしまいました。そして、お姫さまが目をさますときには、自分たちもいっしょに目をさまして、いつものようにお仕事をつとめるはずでした。
なにもかもが眠ってしまったのは生きものだけではありません。なんと、かまどの前で焼かれていた焼きぐしまでが、キジやヤマドリの肉をくしに刺したまま、そのまますーっと眠りこんでしまったのです。
これだけのことが、みんなほんのまばたきを一つするあいだに、すっかりできあがってしまいました。妖女の仕事の早いことといったらありませんね。
さて、王様とお妃さまは、お姫さまのおでこにそっとやさしくほおずりをしてから、お城の外へと出かけていきました。
そして、だれひとりとしてこのお城に近づいてはならないという、きびしいおふれを国じゅうに出したのです。
でも、そんなおふれはわざわざ出すまでもありませんでした。
なぜなら、それから十五分もたたないうちに、お城をとりまく庭の中に、高い木も低い木ももっさりと生い茂り、そのあいだには、いばらや草むらが鉄条網のようにびっしりとからみついてしまったからです。そのため、人間も動物も、その中をくぐって通りぬけることは決してできなくなりました。
そんなわけですから、しばらくすると、外から見えるのはお城の塔のてっぺんだけになってしまいました。
それも、よほど遠くからはなれて見なければ、わからないほどでした。
これもすべて、あの妖女のみごとな大技だったというわけです。
こうして、お姫さまが眠っているあいだは、だれひとり面白半分でのぞきにくることもできないようになったのでした。
三
さて、百年という歳月は、まるで夢のようにあっという間に過ぎ去りました。
そのころ、その国を治めていた新しい王様の王子さまが、ある日、眠る森の近くを通りかかりました。
この王子さまは、昔眠りについた王女の一族がとうに絶えてしまったあと、新しくやってきた別の王家の王子さまでした。その日はちょうど、そのあたりの山へ狩りに出かけた帰り道だったのです。
王子さまは、遠くに見えるお城の塔を見つけると、あの森の中にある塔はいったいなんだろうと、つきそいの者たちにたずねました。
するとみんなは、それぞれに自分が聞いたとおりのことを答えました。
あるひとは、あれはゆうれいが出るという評判の、古いお城だと言いました。
またあるひとは、あれはこの国の魔法つかいや悪い魔女たちが夜会をひらく場所だと言いました。
その中でも、いちばん多くの人が言っていたのは、あそこは昔から人食い鬼が住んでいるお城で、小さな子どもをつかまえてはみんなあそこへ連れていき、だれもあとを追ってこられないように自分で通れるだけの森をつくって、その中でゆっくり食べているのだ、という話でした。
王子さまは、このうちのどれを信じていいものかと、あれこれ迷っていました。するとそこへ、この土地にずっと昔から住んでいるおじいさんのお百姓がやってきて、こう言いました。
「王子さま、失礼ではございますが、わたくしが五十年も前に父から聞いたお話では――その父もまた、じい様から聞いたと申しておりましたが――このお城の中には、それはそれは美しい王女さまが住んでいらっしゃるのです。もう百年のあいだずっと眠りつづけておられますが、ちょうど百年めを迎えた今日、ある王様の王子さまがやってきて、目をさましてくださるのを待っておられるということでございますよ」
若い王子さまはこの話を聞くと、からだじゅうの血がかっかと熱く燃えあがるような気がしました。
ぜひとも、このめずらしい出来事の結末を、自分の手でハッキリさせずにはいられないと思い立ったのです。
美しいお姫さまと出会えるうえに、だれも入れない魔法のお城のみちを切りひらく名誉が自分のものになると思ったら、もううしろから背中を押されるような気持ちになり、さっそくその仕事にとりかかろうと決心しました。
そこで、王子さまが森に向かってずんずん進んでいくと、大きな木も低い木も、草むらもいばらも、みんな自然に道をゆずってとおしてくれました。
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