中島 敦

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中島 敦

初級翻訳・狼疾記 第7話

なるほど、立ち居振る舞いもどこか鈍く、言葉も「そうした、もので、しょうなあ」という具合に、一語一語をゆっくり発音し、自分で自分の話し方を確認してから次の言葉をつなぐような話し方をする。もう二十年もこの学校に勤めているらしいが、勤続年数よりも...
中島 敦

初級翻訳・狼疾記 第6話

人間は結局、何かに執着したり、夢中になったり、追い求めたりするものがないと生きていけないのだろうか。やっぱり、自分も、世間が――喝采し、憎み、嫉妬し、お世辞を言い合うあの世間が、欲しいのだろうか。例えば、と彼は考えずにはいられない。例えば、...
中島 敦

初級翻訳・狼疾記 第5話

真正面からぶつかっていく勇気も根気もない――ただ結局のところ、ギリギリの結末だけを聞きたいと思っていたんだ。(誰に? 神様にだろうか?)「一体、私たちの魂は永遠に残るものですか? それとも、体と一緒に消えてしまうものですか?」もし「永遠に残...
中島 敦

初級翻訳・狼疾記 第4話

「子供っぽい」と笑われることを気にしたり、自分自身に言い訳をしたりすることの方が、よほどおかしなことなのです。女の人や、お酒におぼれて身を崩してしまう人がいるように、形而上学的な(つまり、目に見えない世界の仕組みについての)探求に夢中になり...
中島 敦

初級翻訳・狼疾記 第3話

そうしているうちにハッと我に返ると、自分の周りには相変わらず人々が行き交い、電灯があかあかと灯り、電車が動き、自動車が走っています。「ああ、よかった」と、彼はホッとするのでした。これがいつものことでした。子供の頃に食べて食あたりした食べ物を...
中島 敦

初級翻訳・狼疾記 第2話

料理がテーブルに運ばれ、店員さんが立ち去ったとき、二つ隣のテーブルで一人の男が食事をしているのが目に入りました。その男は、こちらに左側の横顔を見せていました。男の首の付け根あたりに、妙な赤茶色の盛り上がったものがあります。あまりに大きく、力...
中島 敦

初級翻訳・狼疾記 第1話

「指一本を大事にして、肩や背中を失ってしまう。それにすら気づかないようでは、まるで狼に襲われたような哀れな人間だ。」――孟子――       一 スクリーンには、南の島の原住民たちの暮らしが映し出されていました。 目が細く、唇が厚く、鼻がぺ...
中島 敦

初級翻訳・山月記 第3話

そういう時、私は向こうの山の頂上の岩に登って、空っぽの谷に向かって吠えるんだ。この胸を焼くような悲しみを誰かに訴えたいんだ。私は昨日の夕方も、そこで月に向かって吠えたんだ。誰かにこの苦しみを分かってほしいって。でも、獣たちは私の声を聞いて、...
中島 敦

初級翻訳・山月記 第2話

それ以来、今までにどんなひどいことをし続けてきたか、それはとても話せるものではありません。ただ、一日の中に必ず数時間は、人間の心が戻ってきます。そういう時には、昔と同じように、人の言葉を話せますし、複雑な考えもできますし、経典の章句を暗唱す...
中島 敦

初級翻訳・山月記 第1話

むかしむかし、隴西(ろうせい)っていうところに、李徴(りちょう)っていう、とっても頭が良くて才能のある人がいました。天宝(てんぽう)っていう時代の終わり頃、まだ若かったのに、立派な名前を「虎榜(こぼう)」っていう、すごい人たちのリストに載せ...
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