初級翻訳・山月記 第3話

中島 敦

そういう時、私は向こうの山の頂上の岩に登って、空っぽの谷に向かって吠えるんだ。
この胸を焼くような悲しみを誰かに訴えたいんだ。
私は昨日の夕方も、そこで月に向かって吠えたんだ。
誰かにこの苦しみを分かってほしいって。
でも、獣たちは私の声を聞いて、ただ怖がって、ひれ伏すばかり。
山も木も月も露も、一匹の虎が怒り狂って吠えているとしか思わない。
空に飛び上がって地に伏して嘆いても、誰一人私の気持ちを分かってくれる者はいなかった。
まるで、人間だった頃、私の傷つきやすい心の奥を誰も理解してくれなかったように。
私の毛皮が濡れているのは、夜露のせいだけじゃないんだ。
だんだん周りが明るくなってきた。
木々の間を伝って、どこからか、朝を告げる角笛の音が悲しげに響き始めた。
もう、別れなければならない。
酔わなければならない時が、(虎に戻らなければならない時が)近づいたから、と、李徴の声が言った。
でも、お別れする前にもう一つお願いがあるんだ。
それは私の妻子のことなんだ。
彼らはまだ※略にいる。
もちろん、私の運命については知るはずがない。
君が南から帰ったら、私はもう死んだと彼らに伝えてくれないだろうか。
絶対に今日のことだけは明かさないでほしい。
厚かましいお願いだけど、彼らの弱くてかわいそうな様子を憐れんで、これからも道端で飢えたり凍えたりしないようにしてくれたら、私にとって、これ以上の恩はない。
言い終わると、茂みの中からすすり泣く声が聞こえた。
袁※もまた涙を浮かべ、喜んで李徴の願いを聞き入れた。
李徴の声はしかし、すぐにまたさっきの自嘲するような調子に戻って、言った。
本当は、まず、このこと(妻子のこと)を先に頼むべきだったんだ、私が人間だったら。
飢え凍えようとする妻子のことよりも、自分の乏しい詩の仕事の方を気にかけているような男だから、こんな獣に身を落とすんだ。
そうして、付け加えて言うことには、袁※が嶺南からの帰り道には決してこの道を通らないでほしい、その時には私が酔っていて昔の友達だと分からずに襲いかかってしまうかもしれないから。
また、今別れてから、前方百歩のところにある、あの丘に上ったら、こちらを振り返って見てほしい。
私は今の姿をもう一度お見せしよう。
勇まろうとして見せるのではない。
私の醜い姿を見せて、それで、再びここを通って私に会おうという気持ちを君に起こさせないためなんだ。
袁※は茂みに向かって、心を込めて別れの言葉を述べ、馬に乗り始めた。
茂みの中からは、また、こらえきれないような悲鳴のような泣き声が漏れた。
袁※も何度か茂みを振り返りながら、涙の中を出発した。
一行が丘の上についた時、彼らは、言われた通りに振り返って、さっきの林間の草地を眺めた。
すると突然、一匹の虎が草の茂みから道の上に飛び出してきたのを彼らは見た。虎は、もう光を失った白い月を見上げて、二声、三声と吠えると、また元の茂みに飛び込んで、もう姿を見せなくなりました。

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