永日小品

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夏目 漱石

初級翻訳・永日小品 第11話

「精進料理の畳鰯(たたみいわし)ですよ」と言って、居合わせた甲子(こうし)がさっそくお湯で戻して、お浸しにしてお酒を飲んでいました。それから、鈴蘭(すずらん)の造花を一枝持ってきてくれたこともあります。「妹が作ったんです」と言って、指の股で...
夏目 漱石

初級翻訳・永日小品 第10話

「じゃあ、ちょっと待ってくださいな」と、御作さんはまた奥へ駆け込みました。その間に旦那は楊枝を使い始めていました。御作さんは用箪笥(ようだんす)の引き出しから小さな熨斗袋(のしぶくろ)を出し、中に銀貨を入れて持って出てきました。旦那は口が使...
夏目 漱石

初級翻訳・永日小品 第9話

柔らかな光に照らされているのだと分かると、霧のような光の向こう側に、はっきりとした色が見えてきました。それは黄色と紫と藍色でした。やがて、その中の黄色と紫が動き出しました。私は目が疲れるのも忘れて、瞬きもせずにその動くものをじっと見つめまし...
夏目 漱石

初級翻訳・永日小品 第8話

でも、夜になると猫のことは、僕も妻もすっかり忘れてしまいました。その猫が死んだのは、まさにその夜のことでした。翌朝、お手伝いさんが裏の物置へ薪を取りに行ったときには、猫はもう体も硬くなって、古い竈(かまど)の上に倒れていました。妻はわざわざ...
夏目 漱石

初級翻訳・永日小品 第7話

僕が下宿を出るとき、年配の女性は「思いとどまってほしい」と切に頼みました。下宿代を負けるとか、K君のいない間はあの部屋を使っても構わないとまで言ってくれましたが、僕はとうとう南の方へ引っ越してしまいました。同時にK君も遠くへ行ってしまいまし...
夏目 漱石

初級翻訳・永日小品 第6話

その上、娘に対する口の利き方が、まったく優しさを欠いています。歯が悪いのか、もごもごと言いながらも、どこか荒っぽい調子が感じられます。娘も父親に対しては、ただでさえ険しい顔が、いっそう険しくなるように見えます。どう考えても、普通の親子ではあ...
夏目 漱石

初級翻訳・永日小品 第5話

風もない濁った空の途中から、静かに、急ぐこともなく、冷たく冷徹に、雪が落ちてきます。「おい、去年、子供が病気でストーブを焚いたとき、炭代はいくらかかったかな」「あのときは月末に二十八円払いました」僕は妻の答えを聞いて、部屋にストーブを置くこ...
夏目 漱石

初級翻訳・永日小品 第4話

裏は、お母さんやお祖母さんが布を張って干す場所であり、女中の「よし」が洗濯をする場所です。年の瀬になると、鉢巻きをした男の人が臼を担いできて餅を搗(つ)く場所でもあります。それから、漬け菜に塩を振って樽に詰め込む場所でもありました。喜いちゃ...
夏目 漱石

初級翻訳・永日小品 第3話

私はまた布団に入って寝ました。翌日はこの騒動のせいで、いつもより少し遅く起きました。顔を洗って朝ごはんを食べていると、台所で下女が「泥棒の足跡を見つけた」とか、「いや、見つけていない」とか騒いでいます。面倒なので、書斎へ引きこもりました。引...
夏目 漱石

初級翻訳・永日小品 第2話

森の上には、黒い雲が杉の梢に引き寄せられて、奥深く重なり合っている。それが自然の重みで、だらりと上の方から垂れ下がってくる。雲の足は、今まさに杉の頭に絡みついた。もう少しすると、森の中へ落ちてきそうだ。ふと足元を見ると、渦は絶え間なく上流か...
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