山本 周五郎

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山彦乙女

初級翻訳・山彦乙女 第37話

「荷駄は通してよい、静まれ!」その声は驚くほどよく通った。お互いに殺意を込めて刀を抜き合い、まさに激しい戦いが始まろうかという、まさにその一番危ういタイミングだった。平四郎の声に応じるように、駕籠の前に立っていた登世もまた、手にした小さな扇...
山彦乙女

初級翻訳・山彦乙女 第36話

柳沢侯は元禄十一年にお手本となる老中首席には任じられたけれど、決して大老ではないはずだ。いつ大老に任命されたのか、教えてもらおうか」「それは、そんなことは……」来太の喉がごくりと鳴った。「つまり、柳沢侯は、将軍家の一門に連なり、お名前をいた...
山彦乙女

初級翻訳・山彦乙女 第35話

関所の番人である「関守(せきもり)」は小橋甚兵衛(こばしじんべえ)という与力で、この人と激しく言い合っているのは、次高来太(つぎたからいた)だった。「これは、これは」杉戸のすき間からのぞき見て、主馬は低く驚きの声をあげた。「みじん流の先生が...
山彦乙女

初級翻訳・山彦乙女 第34話

廊下を足音が来て停り、障子の向うで「お客さまで、ございます」と女中の云うのが聞えた。「新町さまと仰しゃいます」「ああ、とおして呉れ」 平四郎は、筆の尖を唇で揃えながら答えた。すぐに青山主馬が入って来た。新町とは彼の仮の名であろう、羽折も袴も...
山彦乙女

初級翻訳・山彦乙女 第33話

かんば沢へ入っていったというのは確からしいものの、そのほかのことはすべて謎のままで、遺体さえも見つけることができなかったのです。「何かがそこにあったんだ」半之助はこう呟きながら、雨雲が低く垂れ込めた空を見上げました。「しかも、それはただごと...
山彦乙女

初級翻訳・山彦乙女 第32話

剪定(せんてい)をしない果物の木が、実を成るがままに成らせた結果、その重さに耐えきれず自分で折れてしまうように、人間が作り上げた社会も、その矛盾と人間離れした仕組みのせいで、このままでは破滅するまで進んでしまうに違いない。――人間として、本...
山彦乙女

初級翻訳・山彦乙女 第31話

なにとってもそれが初めての恋で、二人ともおとなしく、引っ込み思案な性格だったものだから、表立っては決して出しませんでしたが、お互いに心の中ではすっかりと突き詰めた深い仲になっていたらしいのです。そんなところに、いよいよ獄から戻ってくる亭主は...
山彦乙女

初級翻訳・山彦乙女 第30話

どちらを見渡しても、なだらかな丘の起伏がどこまでも続き、雑木林や草原、そして畑のあちこちに、強い風を防ぐ木々に囲まれた農家や、神社、お寺のうっそうと茂る森が、古めかしくひっそりと佇んでいるのが見えるばかりでした。薬園はおよそ八千坪ほどの広さ...
山彦乙女

初級翻訳・山彦乙女 第29話

主馬はすでに捉まったのである。それはもうできた事だ。それよりも村田に知らせて、村田を危険から救うほうがいい、村田に主馬を助け出す法があるかもしれない。こう思いなおした。――だけど、どうしよう。村田はもうすぐここにやってくるはずだ。家にはもう...
山彦乙女

初級翻訳・山彦乙女 第28話

「これには少しの誇張もない、彼女はすこぶる明朗で、無邪気で、塵ほどの汚れもない顔つきで、こんなふうな眼つきをして、しなやかに身をくねらせて言うんだ、自分は貴方ひとりが生涯の良人だと信じていた、死ぬまでそう信ずるであろう、男の子は婚家へ取られ...
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