ある時、きりぎりすさんが靴屋さんをはじめることになりました。
「どんな形の靴でも、ご希望どおりにお作りします」
という看板を見てやってきたのが、あひるさんでした。
きりぎりすさんはあひるさんの足を測り、夜も眠らずに一足の靴をこしらえて、あひるさんのところへ持って行きました。
あひるさんはとってもおしゃれだったので、自分の足のかたちのことは棚に上げて、きりぎりすさんが作ってきた靴をひと目見るなり言いました。
「まあ、こんな変な形の靴は、牛さんにでも買ってもらうといいわ」
きりぎりすさんはとても困ってしまいましたが、どうしようもありません。
しょんぼりとうなだれて、その靴を持ち帰りました。
そして、それを店先にならべておいたのですが、あまりに不格好なものですから、だれも買ってくれません。
しまいには、その上にホコリが積もりに積もって、とうとうどこに靴があるのかすら分からなくなってしまいました。
× × ×
それから三年ほどたったある夜のこと、あひるさんが自動車に乗って、きりぎりすさんのお店鋪の前を通りかかりました。
あひるさんは自動車の運転手になったばかりだったので、まだうまく自動車を動かすことができません。
「あっ」と思った瞬間、きりぎりすさんのお店の中に自動車が突っ込んでしまいました。
そしてその勢いで、ホコリの中に埋もれていた靴が飛び出してきたのです。
この大きな音に驚いて、きりぎりすさんが出てきました。
そして言いました。
「この靴が必要ですか?」
あひるさんは、しかたなく言いました。
「そうです。これをください」
「本当に、ぴったりあなたのおみ足に合いそうですね」ときりぎりすは言いました。
あひるさんは顔をまっ赤にしました。
きりぎりすさんは、三年間ずっと売れずにゴロゴロしていた靴が売れたのですから、どんなにうれしかったことでしょう。
けれども、その靴を最初に注文したのが、ほならぬこのあひるさんだったと気がついたのは、それから一週間あとのことでした。
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