初級翻訳・いたずら小僧日記 第14話

いたずら小僧日記

もう四六時中、泣いてばかりいるんだ。こんな厄介者の子守をさせられて、首尾よく勤まったら遠眼鏡を買ってくれるなんて言われても、できる相談じゃない。
「泣く子と地頭には勝てない」っていうじゃないか。
菊ちゃんは人形を持っていた。
大きなお人形腹の辺りを押すと泣く。
持ち主の真似をして泣いているんだろう。
どういう仕掛けで泣くのかと思って、ぼくはお腹を裂いてみた。
人形はそれきり泣かなくなったけれど、菊ちゃんが泣いてしょうがない。
「縛ってしまうぞ」となだめても泣く。
「川の中へ放り込んじゃうぞ」と脅かしても泣く。
とうとうお母さんが聞きつけてやってきて、菊ちゃんに謝った。
そしてぼくの貯金で新しい人形を買ってやることにしたんだ。
ぼくは七面鳥を撃つつもりで、そのお金で空気銃を買う気でいたのに。
菊ちゃんはおままごとをしようと言い出した。
けれどぼくはもう愛想が尽きたから、「いやだ」と言って断った。
断っても言うことを聞かないから仕方がない。
ぼくが旦那様になって、菊ちゃんが奥さんになった。
この子は子どものくせに生意気なんだ。
「旦那様、お召し替えをなさいませんか」なんて、ぼくの古い服を持ってきたり、「今晩は何時にお帰りですか」なんて、どこへ行くとも言わないのに聞いてくる。
あまり煩いから、ぼくはおままごとをやめて、外へ遊びに行こうと言い出した。
すると感心に承知したから、ぼくは菊ちゃんと門の前で遊んだ。
そのうちに忠公がやってきて、
「女と遊んで嬉しがっていやがる」
と冷やかした。
ぼくは決して嬉しがっているもんか、弱りきっているんだ。
その証拠には、この子をどんな目に遭わせてもいいと言った。
忠公も仲間になって、しばらく遊んでいたが、しまいにはあいつがとんでもないことを思いつきやがった。
菊ちゃんに洗礼を授けてやろう、君が牧師になれと言うのだ。
ぼくも賛成だけど、また泣かれると困るから一応本人の意向を探ってみると、洗礼を希望している。
それで忠公と二人で川へ連れて行った。
ぼくはハンカチに水を湿して、「父と子と聖霊の名において」三度頭から水をかけてやった。
すると忠公はどこまで悪い奴だか知れない。
頭だけじゃ救われない、「浸礼教会」みたいに水の中へ潜らせると言い出した。
それもそうだと思う。
せっかく洗礼を授けてやっても、救われなくちゃ何の意味もない。
菊ちゃんは泣き出したけれど、忠公と二人がかりで、帯で縛って三度川の中へ沈めてやった。
あんな良い着物を着ているからいけないんだ。
それに言うことを聞かないで暴れたものだから、よけいにのどまで水を飲んだようだ。
風邪なんか引いてくれと頼みもしないのに、本当に困った子だ。
ぼくはその晩、お父さんに鞭で散々に打たれた。
菊ちゃんのおかげで空気銃は買えなくなる。
遠眼鏡の約束も破談になる。
背中はまだヒリヒリする。
本当にひどい目に遭った。
それなのに忠公は少しも叱られやしない。
どこまで運のいい野郎だ。
もうあいつとは遊ばないようにしよう。
もしあいつの家に女の子がお客に来たら、今度はぼくがギャフンと言わせてやるからいい。
この二、三週間ばかりは日記もつけなかった。
ぼくだって忙しいときには大いに役に立つんだ。
お花さんと清水さんのご婚礼はいよいよ明日になった。
今日なんか方々へお使いに行くので目が回りそうだった。
清水さんのところへばかりも三度行ったので、足が棒のようになった。
それに明日は早く起きなきゃならないからたまらない。
今からすぐ寝るんだからいいけれど、実際クタクタに疲れてしまった。
できることなら足だけでも取り外して休ませたいくらいだ。
今朝は早く起きた。
家の人はみんな忙しいものだから、ぼくが起きたことなんて知らん顔している。
あんなにお使いでもあれば、すぐに「おや太郎さん」なんて言うくせに。
現金なやつらだ。
お島さえ「ここにパンとバターを置きますから、お一人で朝ご飯を済ませてください。忙しくてしょうがありません」と言って、どこかへ行ってしまった。
姉さんが結婚するのに、弟がパンとバターだけで朝ご飯を食べるなんて法があるまい。
ぼくは長テーブルの据えてある部屋に行って、いろいろごちそうを食べてやった。
シェリーの瓶をひっくり返してテーブルクロスを台無しにしたけれど、幸い誰も見ていなかった。
結婚式は十一時に教会でやるんだ。
家中がすっかり片付いてしまって、ぼくはどこにいていいんだか分からない。
するとお島がまた出てきて、服を着替えさせてくれた。
ぼくは胸のボタン穴に花を挿して、新しいハンカチをポケットに突っ込み、右の手に白い手袋を持って、漆のように光った靴を踏み鳴らしながら、別室に入っていった。
清水さんはもう来ていた。
安楽椅子に腰を下ろして泰然としている。
けれどもあれは泰然の出来損ないだ。
形は落ち着いていても、心が天井を這い回っているから、いくら澄ましてみても、「ちょちちょち旦那様」あやされているような態度になってしまう。
ぼくが傍へ行って、お島に教わった通りに挨拶したら、平素になく丁寧に礼を返してきた。
いよいよこいつがぼくの兄さんになるんだな。
支度ができてお花さんが下りてきたときには、本当にきれいだと思った。目の覚めるような白繻子の服を着て、白いヴェールの中に薔薇色の頬が透き通るように見えた。
お春さんも美しかった。
今日はお花さんのお手伝いをする役なんだ。
清水さんは帽子を被っていながら帽子を探したり、お花さんの裾を踏んで謝ったり、右の手に左の手袋がはまらなかったりした。
随分そそっかしい人だ。
ぼくはそれが余り面白かったので、つい自分の帽子を忘れて来てしまった。
牧師はやっぱり例の長氏であった。
ぼくは清水さんの後に座って、背中にハンカチを安全ピンで留めてやったが、清水さんは一向に知らないでいる。
相変わらず「ちょちちょち旦那様」気取りですまし込んでいる。
式が始まってもやっぱりハンカチを背負っている。
ぼくは誰かさんの背中は重たかろうと思って気の毒でならなかったが、そのうちに森川さんが気がついて取ってくれた。
お父さんはぼくの顔を睨みつけた。
家へ帰ってから一同は食堂に入った。
ぼくは頻りにお菓子を食べていたが、皆は葡萄酒ばかり飲んでいる。
先刻シェリーをこぼしたところはどうなったかと思って見たらナプキンが置いてあった。
「太郎さん、姉さんの健康を祝しなさい」
とどこの人だかぼくにお酒を注いでくれた。
ぼくはコップを高く掲げて、
「お花姉さんの幸福を祈ります。
そしてもし子供ができたなら、その子が僕のように耳を打たれたり頭の毛を引っ張られたりしないように祈ります」
と言って飲んでやった。
喉が熱くて咳が出た。
それからぼくは大分飲んだ。
何でも五六杯は飲んだと覚えている。
お母さんが起こしてくれた時、ぼくはテーブルの下に寝ていた。
周囲は静まり返っていた。
もうお客は皆帰ったんだろう。
「お母さん、大変すごい地震があったでしょう」
と言ったら、お母さんは、
「いいえ」
と答えた。
何だか身体がやたらと揺れて、テーブルも壁もぐるぐる回ったようだった。
「姉さんはどうしました。

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