初級翻訳・ちいさこべ 第13話

ちいさこべ

「あの人だって、棟梁が好きなのよ」
「おい、よく聞け」と茂次はまた言いました。「俺はおゆうさんが好きだ。けれども、女房にするということと、好きだということは別だ。それとも……ああ、面倒くせえ」彼はじれったそうに立ち上がると、布団の上へ行って仰向けに寝転がりました。「もういいから行って寝ちまえ」
おりつは黙って、うなだれたまま座っていました。
そして、かなり時間が経ってから、低くやわらかな声で囁きました。
「あたしねえ、仮名ならもうすっかり読めるし、書くこともできるのよ」
茂次は何も言いませんでした。
おりつはなおしばらく座っていましたが、やがてそっと立ち上がると、仮の仏壇の前へ行き、合掌して頭を垂れました。
茂次が薄目を開けて見ていると、おりつは仏壇に向かっておじぎをし、口の中で何か囁きかけていました。
茂次には、「お願いします」という言葉だけが聞こえました。
そうして、おりつは忍び足で部屋を出ていきました。

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