初級翻訳・ちるちる・みちる 第4話

ちるちる・みちる

――「都会と田園」より――

雑魚(ざこ)の祈り

長いこと日照りが続いたので、沼の水が涸れそうになってきました。
雑魚たちは心配して、山の神様に「雨が降るまで何も食べない」と誓って、一生懸命祈りました。
神様はその祈りを聞き入れたのか、雨が降りました。
沼が干上がってしまう前に雨は降りましたが、その雨が降るまでのあいだに、雑魚たちはみんな飢え死にしてしまいました。

森の老木

お宮の森にはたくさんの老木がありました。その多くは松でした。
山の上の高い場所からあたりを見下ろして、いつも何やかやと口うるさく言っていました。
暑ければ「暑い」。寒ければ「寒い」と。
ずる賢いカラスはそれをよく知っていました。
だから、その松の木の頭や肩の上で、ちょっと翼を休めたり、一晩の宿を頼もうとするときには、まずこう言います。
「なんて天気でしょう。こう毎日毎日、照り続きじゃ、なんぼなんでもたまったもんじゃありませんやねえ」
また、ちょうど雨でも降っていれば、
「困った雨じゃありませんか。これじゃ腸(はらわた)の中まで、すっかりびしょ濡れで腐ってしまいそうです」
老木はそれを聞くと、
「そうだとも、そうだとも。こりゃ一つ何とかせねばなるまい」
と言います。そのくせ、何一つしたことはないのです。ただ喋るばかりです。したくてもできないのでしょう。もう根が深く張りすぎていて、身動きもとれないようになっているのですから。
カラスは、心の中では赤い舌をペロリと出して思いました。
「こいつら、人間のある者によく似てやがる。それも良いことならいいが、ろくでもないところまで似てるから、かなわねえ」

カラスと田螺(たにし)

うららかな春の長い昼下がり、穴から這い出した田螺が田んぼで昼寝をしていました。
そこへカラスが見つけてやってきました。
海岸でトンビと喧嘩をして負けた悔しさのあまり、カラスは何も言わずに飛び降りてくると、いきなり強く「こつん!」と一つ突っつきました。
「あ痛っ!」
こつん、こつん、こつんと続く残酷さ。
「いたいよう。ごめんなさいよう」と上げる田螺の悲鳴。
それを藪にいたシジュウカラが聞きつけて言いました。
「まあ兄さん、何をするんです。そんな酷い目にあわせるなんて、自分も他人も生き物だっていうこともあるじゃありませんか」
するとカラスが言いました。
「なんだと、えっ、やかましいわい。このおしゃべり小僧め!」
「でもね、自分も他人も生き物だっていうことが……」
「ええ、うるせえ!」
そう言うより早く飛びかかりました。けれど、シジュウカラはもうどこにも見当たりません。
ちえっ。そればかりか、せっかくのごちそうを見れば、その間に田螺はまんまと穴へ逃げ込んでしまっているのです。
そして田螺は穴の口から頭を出して言いました。
「おい、ここだよ」

仲善し

馬方と馬方が喧嘩をはじめました。
砂ぼこりの舞う大道の地面で、上になったり下になったり、まるであんこの中の団子のようです。
そして双方とも泥だらけになり、やがて血までがだらだらと流れ出しました。
一人の方の馬が言いました。
「また始まりましたね」
他の馬が答えました。
「ええ。いい見物ですよ」
「あれで、これでも『万物の霊長』だなんて威張るんですよ、時々」
「私達のことを、ほんとに、畜生とも思っちゃいない」
「わたしは気がつかなかったけれど、一体、今日のは何から始まったんです?」
「聞こえないのかい。飲んだ酒の勘定からですよ」「去年の盆に一度お前にご馳走したことがあるから、今日のは払えと、あの飲んだくれの俺の相棒が言うんです」
「すると、あんたの方も方ですねえ」
「うむ、それなら貴様がこないだ途中で、南京米を盗んだのを巡査に告げ口するぞ、と言い返すんです」
「へええ。なんて図々しいんでしょうね」
そうして半ば独り言のように、「自分でこそ、毎日のようにやっているくせに」とつぶやきました。
「人間って、みんなこんなものなんでしょうか」
「さあね」
「それはそうと、なかなか長いね」
「どうでしょう、あの態度……」
喧嘩はすぐには止みませんでした。
馬と馬は仲良く、鼻を並べて道端の草を噛みながら、二人の飼い主が半死半生でそれぞれの荷馬車に這い上がり、なおも毒舌を吐き合って、西と東へ分かれるまで、こんな話をしていたのです。
「さようなら」
「では、ごきげんよう」
それを眺めていた大空のトンビが、「これが本当に人間以上、馬以下って言うんだな。ピーヒョロロ」と、長くて大きなあくびをしました。

動物園
動物園にはたくさんの動物がいました。
カムチャッカ産の白熊が、ある夏の日のこと、水から上がって、それでも汗をだらだら流しながら、「どうです、象さん。暑くありませんか」と声をかけました。
象が言いました。
「えっ、何ですって? わしはこれでも寒いぐらいなんだよ、熊さん。今でこそ少し慣れましたがね、ここへ初めて南洋から来たときは、まだ残暑の頃だったが、それでも毎日毎日、ぶるぶる震えていましただよ」
「へええ」
季節は巡り、やがて冬となって、雪さえちらちら降りはじめました。
ある朝、今度は象が言いました。
「熊さん、どうです、今日あたりは。雪の歌でも歌っておくれ。わしは氷の塊にでもならなきゃいいがと、心配でたまらないよ」
「わざわざ、お大事になさいよ。俺らはこれでやっと生き返ったようなものさ。まるで火あぶりにでもなっているようだったからね」
「ふむむ」
「象さんよ」
「え」
「何の因果だろうね、お互いに」
「何がさ」
「何がって、こんなところに何か悪いことをでもした人間のようで、誰を見ても、こうして鉄の格子か、そうでなければ金網や木柵、石室、板囲いなんかに閉じ込められてさ。その上、あんたなんかは御丁寧に、年中足首に重い鉄鎖まで嵌められてるんだ」
「熊さん」
「なんだい」
「本当に情けないよ。わしには国に親兄弟もいるんだが、父親はもう年老いていたから、死んだかもしれない」
「わしもさ、昼間は見物人にまぎれて忘れているが、夜はしみじみと考えるよ。女房や子供たちのことを……どうしているかと思ってね」
仲良しの象と熊とは、折にふれてこんな悲しい話をしては、お互いの身の不幸を嘆きました。
他の動物も、みんな同じように泣いてばかりいました。
実に、動物園は動物の監獄でありました。
ただ、ずる賢い猿だけは、こうして毎日何の仕事もなく、ごろごろと怠けていてもお腹も空かさずにいられるので、のんきな顔をして、人間の子どもたちの遊び道具になり、いつもキャッキャッと騒いでいました。

頬白鳥
ものぐさな百姓がある朝、珍しく早起きして、畑で種まきをしていました。
それを頬白鳥が見つけて「おじさん、今日は」と言いました。
百姓は眠たそうな目を上げてみました。
「おお、誰かと思ったらお前かえ。お前さんも早いね」
「えっ、おじさん、これが早いんですって? わたしはもう百遍も歌いましたよ」
少し腹を立てた百姓が「それがどうしたというんだ」と言いました。
「何でもありませんよ。

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