初級翻訳・とけない問題 第2話

とけない問題

昔なじみの二人は、宿屋やその他の場所を訪れるたびに、そこでかなり異様なものに出くわすこともたびたびだった。
しかし、これほど早い段階から異様な兆候が姿を見せたことはめったになかった。
なぜなら、車がその細高い建物の濃い緑色のよろい戸によく似合う、これまた濃い緑色のドアからまだ数百ヤードも離れていないうちに、そのドアが猛烈な勢いでサッと開き、モジャモジャの赤毛の女が、まるで猛スピードの自動車に向かって食事を差し出そうとするかのような格好で、二人にめがけて突進してきたからだった。
フランボウは車をピタリと止めたが、まだろくに止めきらないうちに、女は血の気のない悲壮な顔を窓から突き入れて、こう怒鳴りつけた――
「あなたがブラウン神父ですか?」そしてほとんど息もつかずに――「この人はだれですか?」
「この人はフランボウといいます」ブラウン神父は落ち着いた態度で言った。
「私に何かご用でしょうか?」
「中に入ってください」女は、こういう状況であることを差し引いても、並外れて荒っぽい口調で言った。
「殺人事件があったんです」
二人は無言のまま車から降り、女のあとを追って濃い緑色のドアへと向かった。
ドアの内部には、ブドウやツタのからんだ杭と木の柱で囲まれた濃い緑色の細道があり、ブドウやツタは黒や赤やいろんな地味な色の角張った葉をのぞかせていた。
この細道からもう一度中のドアを通り抜けると、大きな休憩室のような場所に出た……騎士の武器のさびついた戦利品が壁にかき集められるように掛けられていたが、室内の家具は古びていて、その上まるで物置部屋のように、あらゆるものが乱雑に散らかっているらしかった。
二人はその瞬間、すっかりドキンとさせられた……まるで一本の大きな材木が突然立ち上がり、自分たちのほうへ動き出すかのように感じたからだった。
それまで永久に不動の状態ででもいるかのような態度だった男が、その時になって急に動き出し、しかも驚くほどほこりだらけで、みすぼらしく、ぶかっこうだったからだ。
妙なことに、その男はいざ動き出すと、敏活ではあるものの、なんとなく上品な感じがした……もっともそれは、上品な脚立や、よく手入れされた柔らかなタオルかけのつぎ目が動くさまを連想させるような動きだったが。
フランボウにとってもブラウン神父にとっても、いままで見かけたどの人間よりも、これほど正体の見当がつかない男はいなかった。
いわゆる典型的な紳士というわけではなかった……そのくせ、なんとなく身なりにかまわない学者特有の洗練されたところが感じられた。
また、なんとなくかすかにいやらしい、つまり落ちぶれた男のような雰囲気もありながら……その印象は、気ままな旅を好むボヘミアンというよりは、むしろ部屋に引きこもる本の虫といった趣だった。
痩せた男で、青白い顔をしていた……とりわけ、とがった鼻と、とがった黒い顎ひげがひときわ目についた。
額はすっかり禿げあがっていたが、うしろの髪は長くて真っ直ぐで、まるで糸のようだった。
目の表情は、青い眼鏡でほとんどすっかり隠されていた。
ブラウン神父は、ずっと前にどこかでこういう男に会ったことがあるような気がした……だが、いまはそれが誰なのかはっきりと思い出せずにいた。
男が腰かけている周囲のガラクタは、大部分が文学的なものだった……特になん冊もの十七世紀の小冊子の束が散らばっていた。
「つまり、あなたはここで殺人事件が起きたとおっしゃるのですか?」と、フランボウが厳粛な声で尋ねた。婦人は赤いクシャクシャの頭を、とてももどかしそうに縦に振った。
この燃えるような妖精の髪の毛のようなもつれを除けば、先ほどまでの正気を失ったような様子はいくらか落ち着いていた。
彼女の黒っぽい服は実にさっぱりとした上品なものであった。
顔立ちはしっかりとしていて美しかった。
そして、どこか心身ともにたくましいと感じさせる雰囲気を持っていた……それは、特にこの青眼鏡の男のような連中と比べると、女性をより力強く際立たせるものであった。
しかし、どこか奇妙で派手な言葉遣いを混ぜ合わせながらも、唯一筋の通った答えをしたのは、その男のほうだった。
「実はこの不運な兄嫁は、ついさっきひどくゾッとするようなショックを受けたばかりなんです……我々としては、彼女にそんな思いはさせたくなかったんですがねえ。
私が自分で発見して、この恐ろしい知らせを伝えるという、さらにつらい役目を一人で我慢すればよかったと思っていますよ。
運悪くこのフラッド夫人が、長い間病気でホテルの部屋に寝たきりだった老祖父が、なんと庭で死んでいるのを見つけてしまったのです……周囲の状況は、明らかに暴力的な襲撃があったことを物語っています。
妙な状況……いや、実に大変な妙な状況と言うべきでしょうかね」そう言って男は、まるでそんな惨めな状況ですまないとでもいうように、かすかにせきをした。
フランボウは婦人に軽く会釈をして、心からの同情を示した。
それから、その男に向かって言った――「たしかあなたは、フラッド夫人の義弟だと言われたようですな」
「私は医学博士のオスカー・フラッドです。
この夫人の夫にあたる私の兄はただいま大陸に出張中でして、夫人がこのホテルを切り盛りしています。
夫人の祖父は半身不随で、大変な高齢でした。
自分の寝室から外に出たことなど一度もありませんでした。
ですから、本当にこのようなとんでもない状況が……」
「あなたは医者や警察をお呼びになりましたか?」とフランボウが尋ねた。
「ええ」とフラッド博士は答えた。
「この恐ろしい発見をしてすぐに電話をかけましたが、ここへ来るまでには二、三時間はかかるでしょう。
この宿は大変へぴな所にあります。
カンタベリーか、あるいはさらにその先まで行く旅人が時折泊まるだけの場所ですからね。
ですので、私たちはひとまずあなた方の貴重なご協力を願えないかと思いまして……」
「もしわしらが何か力になれるのであれば、すぐに様子を見に行ったほうがいいでしょうな」ブラウン神父は、無作法なほどぼんやりとした態度で割り込んで言った。
ブラウン神父はほとんど機械的にドアの方へと歩き出した。
すると、ちょうど肩で押し退けるようにして入ってきた男とぶつかりそうになった……それは大柄でどっしりとした若者で、黒髪はボサボサでブラシもかけられていなかった……それにしてもこの男は、片目にちょっとした故障さえなければかなりの美男だっただろうが、その目のせいでどこか非常に不気味な印象を与えていた。
「一体あなた方は何をしているんですか?」男は出し抜けに口を挟んだ。
「どこの馬の骨とも知れない連中にペラペラと話したりして――せめて警察が来るまで待たなきゃいけないでしょうに」
「警察の件には私が責任を持つ」フランボウがきっぱりと堂々たる口調で言い放ち、急にその場の指揮を執るような態度に出た。

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