初級翻訳・とけない問題 第3話

とけない問題

彼が戸口へと進み出ると、なにしろ大柄な若者よりもずっと背が高く、その口ひげがまるでスペインの闘牛の角のようにすさまじいものだったものだから、若者は思わず後ずさりし、柄にもなく放り出されて置き去りにされたような格好になった……その隙に、一行は悠々と庭へ出て、石畳の小道をマルベリーの植え込みの方へと進んでいった。
ただフランボウは、小柄な神父が医者に話しかける声を耳にした――「あの男は、どうもわしらのことが気に入らないようですな? ところで、あれはいったい何者ですか?」
「ダンのことですね」医者はいくぶん遠慮がちに言った。
「あいつは戦争で片目を失ったものですから、義姉が庭仕事を手伝わせてやっているのです」
マルベリーの茂みを通り抜けると、庭の眺めは、地面のほうが実際の空よりも明るいときに見られるような、豊かでありながらもどこか不気味な光景を呈していた。
背後から差し込む途切れがちの日差しの中で、目の前の木々の梢が、しだいに荒れ模様となっていく真っ黒な空を背景にして、まるで薄緑色の炎のようにそびえ立っていた。
同じ光が、細長い芝生や花壇を照らし出していた。
何であれ、その光に照らし出されたものは、かえって一層神秘的に黒ずみ、人目を避けるかのように沈んで見えるのだった。花壇には黒ずんだ血のしずくのように見えるチューリップが点々と咲いていて、中にはほんとうに真っ黒だと言い切れそうなものもあった。チューリップの列の突きあたりには、いかにもそれにふさわしくチューリップの木(木蓮科の高木)があった。ブラウン神父は、多少混乱した記憶からではあるが、その木を一般にユダの木(ユダが首をくくったと伝えられる、アメリカハナスオウの木)と言われているものと同じだと思いたくなった。

そういった連想を助けたのは、大枝の一つから、ひからびた木の実のようにひからびた、痩せた老人の死体がぶらさがっていて、長い顎ひげがグロテスクに風に揺れている事実であった。それには何か暗黒の恐怖以上のもの――陽光の恐怖がまつわりついていた。というのは、気まぐれな太陽がその木と人を舞台の小道具のようにはなやかな色で描き出していたからだった。木は花盛りだったし、死体は色あせた孔雀緑色の部屋着でつりさげられている上に、揺れている頭に真紅の喫煙帽子をかぶっていた。それからまた真っ赤な寝室用のスリッパを履いていたが、その片っぽが脱げ落ちて、芝生の上に血のしみのようにころがっていた。

しかしフランボウもブラウン神父も、さしあたりまだこういう物を見ていなかった。二人とも死人のしなびた体の真ん中から突き出しているらしい異様な物に目をみはっていた。それはだんだん見ているうちに、十七世紀の剣のかなりさびた鉄の柄だということがわかってきた。その剣が体を完全に突き通しているのであった。

二人ともそれを眺めながらほとんど動かずにいた。おしまいにはそわそわしていたフラッド博士が、二人の鈍感さにすっかりいらいらしてきたらしかった。
「わたしが一番不思議だと思うのは、死体のこのようすです」博士は神経質に指を鳴らしながら言った。「しかしわたしはこれから、すでに思いついたことがあります」

フランボウは木のそばへ歩みよって、剣の柄を虫眼鏡で眺めていた。しかし何か妙な理由があつてか、まさにそのとたんに、坊さんがまったくつむじ曲りにクルリとこまのようにまわって、死体に背中を向けたまま、まるきり反対の方角をジッと見た。

ちょうどうまく間に合って見えたのは、庭のはるかに遠い向こうの端にいるフラッド夫人の赤い頭が――遠すぎてはっきり見わけられないが――そのときオートバイに乗ろうとしていそうな、色の浅黒い青年のほうに向いているところであつた。青年が姿を消すと、あとに残ったのはしだいにうすれてゆくオートバイのけたたましい音だけであった。

それから女はふり向いて、庭を横切りながら一同のほうへ歩きはじめた。ちょうどそのときブラウン神父もふり向いて、剣の柄とぶらさがっている死体を注意深く検査しはじめていた。
「あなた方がこれを見つけたのはつい半時間ほど前のことでしたな」とフランボウは言った。「だれかその直前にここらへんにいた者がありましたか? つまりこの人の寝室か、屋内のその附近か、あるいは庭のこのあたりにいた誰かです――まず一時間前までのあいだにですよ?」
「いや」と医者はきっぱり言った。「これは大変悲劇的な事件です。義姉は食料品室にいました……この反対側の離れのような部屋です。あのダンは、これもそつちの方角にある台所の庭にいました。それからわたし自身は、あなた方がおいでになつたときはいっていた部屋のまうしろの部屋で、本をかきまわしていました。女中が二人いますが、一人は郵便を出しに行っていましたし、もう一人は屋根裏に行っていました」
「それでその人たちの中には誰か――誰かですよ――このお気の毒な老人と多少とも折合いの悪い人がいましたか?」フランボウはごく静かにきいた。
「老人はほとんど家中の愛情のまとでした」とお医者さんは厳かに返事した。「もし何か誤解があったとしても、それはおだやかなもので、現代ではありふれたことでした。老人は古風な宗教の習慣に夢中でした。それにはおそらく娘夫妻はもっとかなり広い考え方をしていたでしょう。そんなことはこういう怪奇で不気味な殺し方とは何の関係もあるはずがありません」
「それは現代の考え方がどんなに広いか、それともどんなにせまいか、それしだいですわい」とブラウン神父は言った。

ちょうどこの時、フラッド夫人が近づきながら庭の向こうから大きな声で呼びかけて、なんだかもどかしそうに義弟に呼びかけた。医者はそのほうに急いで、まもなく声のきこえない所へ行ってしまった。

しかし彼は行くときに言いわけするように手を振ってから、長い指で地面を指さした。
「その足跡には大変目を惹かれますよ」医者は、まるで葬式を見世物にしているように、あいかわらず不思議な態度で言った。
二人のアマチュア探偵はおたがいに顔を見合わせた。「ほかにもいくつか興味をそそる物がありますよ」とフランボウが言った。
「ああ、さよう」坊さんは、なんだかばかみたいに芝生を見つめながら、言った。
「私は不思議に思っていたんです」とフランボウが言った……「なぜ人間の首をくくって死ぬまでぶらさげておいてから、それからまたわざわざ剣で刺すような面倒なことをしたのかしら」
「そしてわしは不思議に思っていた」とブラウン神父……「なぜ剣で心臓を突き刺して殺しておきながら、それからまたわざわざ首をくくってぶらさげるような面倒なことをしたのかな」
「ああ、あなたは単に反対を言ってるだけですよ」とフランボウは文句を言った。
「私には一目でわかりますが、これは生きているとき刺したのではありません。
それならもっと死体から血が出たでしょうし、傷口がこんなにふさがらなかったでしょうからね」
「ところがわしは一目でわかりました」ブラウン神父は、背の低い体を伸ばしてぎごちなく見上げながら、短い溜息をついて、言った……「こりゃ生きているときにぶらさげたのではありません。

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