それで一族は、ちりぢりばらばらになってしまったのだ。宗家のお頭は第一等の船の親柱に任命されたが、その船はいつでも世界中を漕ぎ回れるという立派な船だ。ほかの枝も、それぞれの職場に落ち着いている。ところで、私たちはといえば、いやしい人間どものために明かりを灯してやるという仕事を引き受けた。そういうわけで、こんな台所へ、身分のある我々が来たのも、まあ、掃きだめに鶴が降りたというものさ」
「私の歌う歌は、少し調子が違っているぞ」と、マッチのそばにいた鉄なべが言いました。「私が世の中に出てきたときから、どれほど私のなかで煮たり沸かしたりされ、そのあとたわしでこすられたことか。私は徳用で長持ちすることを心がけているので、この家では一番の古参と立てられている。私のなによりの楽しみは、食事のあとで自分の居場所におさまって、きれいに磨かれて、仲間たちとお互いの身の上話をすることだ。バケツだけはときどき裏まで連れていかれるが、そのほかの仲間は、いつでも家のなかで暮らしている。私たちの仲間のなかで情報の提供者は、市場へ行くバスケットだ。ところが、あの男は政府や人民のことで、随分とおだやかでない話をする。それでこないだも、古瓶のじいさんがびっくりして棚から転げ落ち、こなごなに壊れてしまったくらいだ。あいつは筋金入りの自由主義者だよ、まったく」
「さあ、きみはあんまり喋りすぎるぞ」と、ほくち箱が口をはさみました。そして火打石に鉄をぶつけたので、ぱっと火花が散りました。「どうだ、お互いに面白く、ひと晩過ごそうじゃないか」』「いいかい、この中でだれがいちばん身分高く生まれてきたか、言いっこしようよ」と、マッチがいいました。
「いいえ、わたくし、自分のことをとやかく申したくはございません」と、スープ入れが答えました。
「まあ、それよりか、楽しい夕べの集まりということにいたしてはどうでございましょう。さっそく、わたくしから始めますよ。わたくしは、実際にあったお話をいたしましょう。まあ、どなたも経験なさるようなことですね。そうすると、だれにも容易にその場が想像されて、おもしろかろうと思うのでございます。さて、東海はデンマーク領のぶな林で――」
「言い出しがすてきだわ。この話、きっとみんなおもしろがるわ」とお皿たちが一斉にさけびました。
「さよう、そこにある落ち着いた家庭で、わたくしは若い時代を送ったものでしたよ。そのうちは、道具などがよく磨かれておりましてね。床は掃除が行き届いておりますし、カーテンも二週間ごとに掛け替えるというふうでございました」
「あなたは、どうもなかなか話上手だ」と、毛ぼうきがいいました。「いかにも話し手が婦人だということがすぐわかるようで、聞いていて、なんとなく上品で、きれいな感じがする」
「そうだ。そんな感じがするよ」とバケツがいって、うれしまぎれに少し飛び上がりました。
それで、床の上に水がはねました。で、スープ入れは話を続けましたが、最後までなかなかおもしろくやってのけました。お皿仲間はみんなうれしがって、ちゃらちゃらいいました。ほうきは、砂穴から緑色をしたオランダぜりを見つけてきて、それをスープ入れの上に、花環のようにかけてやりました。それをほかの者がみてやっかむのはわかっていましたが、「きょう、あの子に花を持たしておけば、明日はこっちにしてくれるだろうよ」と、そうほうきは思っていました。
「さあ、それでは踊るわ」と火かきがいって、踊り出しました。ふしぎですね、あの火かきがうまく片足で踊るじゃありませんか。すみっこの古椅子の切れがそれを見て、おなかを抱えて笑いました。
「どう、わたしも花環がもらえて」と、火かきがねだりました。そうして、そのとおりしてもらいました。
「どうも、どいつもこいつも、くだらない奴らだ」と、マッチはひとりで考えていました。
さて、こんどはお茶沸かしが歌をうたう番でした。ところが風邪をひいているといって断りました。そうしていずれ、おなかでお茶が煮えだしたら、歌えるようになるといいました。けれどこれはわざと気取って言うので、本当は、お茶のテーブルの上に乗って、立派なお客さまの前で歌いたかったのです。
窓のところに、一本、古い鵞(が)ペンがのっていました。これはしじゅう女中たちの使っているものでした。このペンに別段、これという取り柄はないのですが、ただインキの底にどっぷりつかっているというだけで、それをまた大した自慢の種にしていました。
「お茶沸かしさんが歌わないというなら、勝手にさせたらいいでしょう。おもての鳥かごには小夜鳴鳥(さよなきどり)がいて、よく歌います。これといって教育はないでしょうが、今晩は一切そういうことは問わないことにしましょう」
すると、湯沸かしが、「どうして、そんなことは大反対だ」といい出しました。これは台所きっての歌うたいで、お茶沸かしとは腹がわりの兄さんでした。
「外国鳥の歌を聞くなんて、とんでもない。そういうことは愛国的だといえようか。市場通いのバスケット君に判断してお申し申しましょう」
ところで、バスケットは怒った声で、「ぼくは不愉快でたまらん」といいました。「心のなかでどのくらい不愉快に感じているか、きみたちには想像もつかんだろう。ぜんたい、これは晩を過ごす適当な方法でありましょうか。家の中をきれいに片づけておくほうが、よっぽど気がきいているのではないですか。諸君はそれぞれ自分たちの場所へ帰ったらいいでしょう。その上で、ぼくが改めて司会をしよう。少しは変わったものになるだろう」
「よし、みんなで騒ごうよ」と一同がいいました。
そのとき、ふと戸が開きました。このうちの女中が入ってきたのです。それでみんなは急におとなしくなって、がたりともさせなくなりました。でも、お鍋の仲間には、ひとりだって面白い遊びを知らないものはいませんでしたし、自分たちがどんなに何かができて、どんなに偉いか、と思わないものはいませんでした。「もちろん、ぼくがその気になれば、もっともっと面白い夜にしてあげられるのにねえ」
と、みんなそれぞれ思っていました。
女中さんがマッチを手に取り、火をつけました。
――しゅっと音がしたかと思うと、ぱっと気持ちよく燃え上がったではありませんか。
「どうだ、みんな見てくれよ。やっぱりぼくがいちばんえらいんだ。なんてよく光るんだろう。なんてまぶしいんだ!」
マッチがそう思っているうちに、あっという間に燃え尽きてしまいました。
「まあ、なんて面白いお話だったことでしょう」
そのとき、お妃さまが言いました。
「なんだか、台所のマッチのところに魂が運ばれていくような気持ちになりましたわ。それでは、あなたに娘をさしあげることにします」
「うん、それがいい」
王さまも言いました。
「それでは、月曜日に娘との結婚式を挙げるといい」
こうして二人は、もう家族同然のように、その若者を「おまえ」と呼ぶようになりました。これで、いよいよ結婚式が決まりました。その前夜、町じゅうがお祝いのイルミネーションで光り輝きました。ビスケットやケーキがみんなにたくさん配られ、町の少年たちは通りに集まっては万歳をさけんだり、指をくちびるに当てて口笛を吹いたりしました。
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