ヨハンネスの目には、ひとりでに喜びの涙が浮かんできました。
そして、思わず知らず、こんなふうにつぶやきました。
「ああ、お情け深い神さま。
ぼくは、あなたにお礼のキスを捧げます。
あなたはぼくたちみんなに、こんなに親切にしてくれて、この世の中のありとあらゆる美しいものをくださったんですもの」
旅の仲間も、手をあわせてじっと立っていました。
そして、暖かなお日さまの光をあびながら、森や町をうっとりと眺めわたしていました。
そのとき、頭の上で、びっくりするほど美しい声が聞こえました。
見上げると、大きな白いハクチョウが一羽、空を飛んでいます。
姿が美しいばかりでなく、その歌う声は、いままでどんな鳥からも聞いたことがないくらい素晴らしいものでした。
ところが、その歌声がだんだん弱くなっていきました。
「どうしたんだろう?」と思っているうちに、ハクチョウはふっと頭をたれて、ゆっくりと、ふたりの足もとに落ちてきました。
そして、それきり、この美しい鳥は動かなくなってしまいました。
「この鳥のつばさは、こんなに真っ白で大きくて、それにすごくきれいだから、二枚そろっていればきっと高く売れるぞ。
これを持っていこう。
ほら、あのときサーベルをもらっておいたのが、こんなところで役に立つだろう」
旅の仲間はそう言いながら、死んだハクチョウのつばさを二枚、さっと切り落として持って行きました。
ふたりはそれからも山をこえて、何マイルも何マイルも旅をつづけました。
そしてついに、向こうのほうに大きな町が見えてきました。
何百というたくさんの塔が、お日さまの光をあびて、銀色にキラキラかがやいています。
町のまん中には、赤い金の屋根をいただいた、りっぱな大理石の御殿(ごてん)がありました。
そこに、この国の王さまが住んでいたのです。
ヨハンネスと旅の仲間は、すぐに町の中へは入っていかず、町はずれのとある宿屋に寄ることにしました。
町中を歩くときに、きちんとしたカッコウでいられるように、ここで身なりをととのえておこうと思ったのです。
宿屋の主人は、ふたりにむかってこんな話を始めました。
「この国の王さまは、たいへんおやさしい、よい方で、どんな人をも苦しめるようなことは決してなさらないのですが……」それなのに、お嬢さまといったら、ほんとになさけない話ですが、それはそれはひどいお姫さまなんですよ。
おきれいなことは、たしかに、おきれいです。
お姫さまくらいお美しくて、人の心をまよわすような方は、どこにもいませんでしょう。
でも、そんなことが、なんになりましょう。
と申しますのも、お姫さまは、ほんとうは、たちのわるい魔女なんですからね。
りっぱな王子さまがたが、大ぜい命をなくされたのも、みんな、この方のためなんです。
お姫さまには、どんな人が結婚を申しこんでも、さしつかえないことになっています。
その人が、王子さまであっても、たとえ、こじきであっても、そんなことはかまいません。
だれでもよろしいのです。
ただ、その人は、お姫さまのお出しになる三つのなぞを、うまくとかなければなりません。
もし、うまくとければ、お姫さまをお嫁さんにして、お姫さまのおとうさまが、おなくなりになったあとは、この国の王さまになれるというわけです。
しかし、なぞがうまくとけない場合は、たいへんでして、その人は、その場で首をくくられるか、切られるかしてしまうのです。
お姫さまは、お美しいのに、こんなにもひどい方なんですよ。
お年よりの王さまは、このことを、たいそう悲しんでいらっしゃいます。
けれども、そんなひどいことをしてはいけないと、お姫さまにおっしゃれないわけがあるんです。
じつは、王さまは、以前に、
『おまえのところへ結婚を申しこんでくるものについては、なにも口を出さんことにする。
おまえの好きなようにしなさい』と、お姫さまにおっしゃったことがあるものですからね。
王子さまが、方々からおいでになって、お姫さまをもらおうと思ってなぞをとこうとなさいます。
けれども、そのたびに、いつもうまくいかないで、首をくくられるか、切られるかしてしまうんです。
むろん、そんなときには、町の人たちは、前もって王子さまがたに、結婚の申しこみをするのはおよしなさいと、とめはするんですがね。
お年よりの王さまは、たびたび、こういう悲しい出来事がおきるのを、心からなげいていらっしゃいます。
年に一度は、かならず、兵隊たちといっしょに、一日じゅう、神さまのまえにひざまずいて、
『姫が、どうか、よい人間になってくれますように』と、お祈りをなさいます。
しかし、そうなさっても、やっぱりお姫さまは、もとのままで、少しもおかわりになりません。
町のおばあさんたちは、ブランデーを飲むときには、まず、まっ黒にしてから飲みます。
そのくらい、みんなは、悲しんでいるんですよ。
しかし、それ以上は、どうすることもできないのです。
「ひどいお姫さまだなあ!」と、ヨハンネスは言いました。
「そんなお姫さまこそ、ほんとうに、むちで打ってやるといい。
そうすれば、すこしはよくなるかもしれない。
もしぼくが、お年よりの王さまだったら、うんと、ひどいめにあわせてやるんだがなあ!」
そのとき、おもてで、人々が、ばんざい、ばんざい、とさけぶ声が、きこえてきました。
見れば、お姫さまのお通りです。
なるほど、お姫さまは、たいそう美しい方です。
そのため、だれもかれもが、お姫さまがひどい方であることも忘れて、ばんざい、ばんざい、とさけんでいるのでした。
白い絹の着物を着た、十二人の美しい少女たちが、手に金のチューリップを持ち、まっ黒なウマに乗って、おそばにしたがっていました。
お姫さまはと見れば、ダイヤモンドとルビーで、キラキラとかざりたてた、雪のようにまっ白なウマに乗っていました。
お姫さまの乗馬服は、金の糸で織ってありました。
手に持っているむちは、お日さまの光のようにさえ思われました。
頭にいただいている金のかんむりは、まるで、夜空にきらめく星のようでした。
がいとうは、何千もの、きれいなチョウの羽を集めて、ぬいあわせたものでした。
それでも、お姫さまのほうが、こんな着物よりも、まだまだずっと美しかったのです。
ヨハンネスは、お姫さまを一目見たとたん、まるで顔から血がしたたっているように、まっかになりました。
ひとことも、口をきくことができません。
このお姫さまこそ、おとうさんが死んだ晩に見た、夢の中の、あの金のかんむりをかぶった、美しい少女にそっくりです。
お姫さまがあんまり美しいので、ヨハンネスは、たちまち、大好きになりました。
みんなの話だと、このお姫さまは、なぞをうまくとくことのできない人たちの、首をくくらせたり、切らせたりする、わるい魔女だということです。
でも、そんなことは、うそにちがいない、と、ヨハンネスは心に思いました。
「そうだ。
だれでも、お姫さまに結婚の申しこみをすることができるという話だ。
たとえ、どんなに貧しいこじきでも。
よし、ぼくも、これから御殿へ出かけよう。「だって、もう、じっとしてはいられないもの」と、ヨハンネスは言いました。
「そんなことは、およしなさい。
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