初級翻訳・びっこのお馬 第2話

びっこのお馬

しかし背が低いため、二郎には屋根の上をのぞき見ることができませんでした。
「お姉ちゃん、僕のお馬さんの足はどうなった? 抱っこして見せてよ」
二郎はお姉さんに頼みました。
お姉さんが窓のところへきて外をのぞいてみると、青いお馬は雨に打たれ、紙の青いインクはすっかり流れ落ちてしまい、今ではすっかりふやけて見る影もなくなっていました。
お姉さんは、こんなかわいそうな姿を二郎に見せたくありませんでした。だから、
「二郎ちゃん、お馬さんはいま雨にぬれて、すやすや眠っているのよ。足も、いま伸びかけているところなの」
と言いました。
「どれ、僕にも見せてよ……!」
二郎は地団駄を踏んでせがみました。
「ううん、いまは誰も見ないほうがいいの。お馬さんは、見られるのがいやだっているんだもの」
とお姉さんは言いました。
二郎はがまんして、もう少しの間、見るのを我慢することにしました。
その日の午後から雨が上がり、すっきりと青空が広がりました。
風がさやさやと、新緑の葉の間を吹き抜けていきます。
とても心地の良い景色でした。
「お姉ちゃん、僕のお馬さんを見せてよ」
二郎はまたお姉さんに頼みました。
お姉さんは二階へと上がってきました。その後から二郎もぴたりとついてきました。
しかし、お姉さんが窓からそっと外をのぞいてみると、紙のお馬はいつの間にかすっかり乾き、風に吹かれてどこかへ飛ばされて、向こう側の屋根のといにひっかかっていました。
「お姉ちゃん、どうなったの?」と尋ねる弟に対して、お姉さんはありのままを知らせる気にはなれませんでした。
「二郎ちゃん、お馬さんは足がすっかり治ったから、元気よくどこかへ駆け出していっちゃったよ」
とお姉さんは答えました。
二郎は、いつか見た、みんなの後れをとって汗を流しながら歩いていた、あの足の悪い馬のことを思い出しました。
そして同時に、足早に力強く通り過ぎていった健康な馬の姿も思い出しました。
足の悪い馬の足が治り、元気よくどこかへ駆けていった――それが本当なら、二郎にとってどれほど嬉しかったことでしょう。
雨のおかげで足が伸びて、馬がどこかへ出かけていったのだと、二郎はそれを本当のことだと信じ込みました。
(この哀れな少年は、いつか大人になったとき、すべての真実を知るでしょう。)
その夜は、とても美しい月夜でした。
二郎が田んぼの中で真っ白に花を咲かせたアンズの木の下に立っていると、向こうの往来を、あの青いお馬さんが月の光に照らされながら楽しそうに歩いていくのを、ありありと見ました。
そのことをお姉さんに話すと、お姉さんはそのときは笑わず、ただ静かに泣いていました。

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