初級翻訳・ぼたもち 第7話

ぼたもち

俺みたいなクソ婆さんがあれこれ言ったってどうなるって言うんだい? もっと賢い人たちに、うまくやってほしいもんだね。
だけど、兵隊はもう、こしらえちゃいけないんだ。
……こないだの戦争で、俺は息子を四人兵隊に出して、二人とられちまった。
……後悔はしちゃいないよ、俺は。
当たり前だからね、それくらいは。
……だけど、息子を二人とられてみな、楽じゃないさ。
……その俺が言うんだ。
言っちゃいけないかい?……兵隊はもう、どんな兵隊であっても、こしらえちゃいけないんだよ。
次郎 ……だけどさ――
りき だけどもうへちまもないもんだ。
理屈をつけようと思えば、どんなことにだってみんな理屈はつくさ。
軍備したほうがいいっていう考えにも、しないほうがいいっていう考えにも、それぞれ言い分はあるだろうよ。
両方に良いところもあれば悪いところもある。
それを天秤にかけて比べていたんじゃ、きりがないね。
大事なことは、「これが一番だ」と思ったら――これが一番本当の真実だと見きわめがついたら、ほかのぐちゃぐちゃした細かいことなんて一切合切、スパッとかなぐり捨てて、それをやり通すことさ。
そのために起きてくる困ったことなんてのは、またなんとかならばどうにでもしやりようがあるもんだ。
去年ね、板橋のお兼(かね)ばあさんが、お腹をひどく悪くしてさ、どんなに養生しても町のお医者さんに三人や四人とかかっても、薬を飲み切れないほど飲んでも治らなかったんだ。
しまいに拝み屋さんにまで頼ってもまだダメで、「がんだ、がんだ」って言って泣いていたっけね。
俺が見舞いに行って、よおくようく様子を見ていたらね、お兼ばあさんは小豆(あ豆)が大好物でさ、何かにつけてはあんにしたりお焼きに入れたり、お粥に混ぜて朝晩ずっと食べてたんだよ。
小豆っていうのはお腹の通りをよくするもんでね、ばあさんはそれを知っているくせに、好きだからっていろんな理屈をつけては、毎日欠かさず食べていたのさ。
それで俺が、いきなり小豆を取り上げてやったんだ。
つらいって言って、はじめはばあさんもわめき散らしたもんだよ。
そうやって半月経ったら、お腹の悪かったのが、なでたようにすっかり治きちまったんだよ。
はは。
……肝心の自分の命が大事なら、いけないものは、きれいにさっぱりやめることだねえ。
次郎 ……ってことはさ、ばさまは、ほかの国の軍隊が攻め込んできても戦わないのかい?
りき 戦うって、なんだいそれは?
次郎 刃向かわないのかって聞いてるんだよ。
りき さあねえ。
そりゃあ人間だからどうなるか分からないさ、その時になってみねえとな。自分の目の前で同じ日本人がどんどん殺されたりなんかしたら、きっと、これで、包丁を持ってだって刃向かわずにはいられなくなるかもしれないねえ。
次郎 だったらさ、もうそうなったら手遅れじゃないか! 殺されるだけじゃないか。
りき 手遅れでも、仕方がないさね。
まだしも人を殺すよりは、人から殺されるほうがいいんだよ。
殺されるほうが手遅れっていうなら、殺すほうはもっと手遅れじゃないか? 地獄に落ちっぱなしになるだけだぜ、そんな奴らは。一番大事なことはね、人を殺すのは悪いことだっていうことさ。
何が「バカなことを言うな」だって? 悪いことはしちゃいけない! 悪いことはしちゃいけない! 悪いことは、絶対にやっちゃいけないんだ!
サダ:まあまあ、なんて大きな声でしょう。耳がガンガン響くわ!
りき:ははは! 俺にわかるのはそれだけさ。バカだから、それ以外の難しいことは何もわからないよ。頭のいい人たちが、ほかのことはうまくやっておくれ。
悪いことはしちゃいけないんだ!(わらじを履き終えた両足で、ドンドンと土間を踏みしめて履き心地を確かめながら)喜十、さあ、出発するよ!
喜十:はいっ!
サダ:あはは、あはは!
せん:ふふふ!

(みんなが楽しそうに笑いながら、出かけていく人たちが立ち上がって歩き始める気配がします。どこか遠くで、モズの鋭い鳴き声が響き渡りました)

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