チミーは、お日さまがぽかぽかと当たる、静かで落ち着いたあのお庭の我が家へ帰りたくてたまらなくなっていました。
食べ物は口に合いませんし、まわりはうるさくて、ちっとも眠れないのですから。
何日か経つと、チミーはすっかりげっそりと痩せてしまいました。さすがのジョニーもその様子に気づいて、「いったいどうしたんだい?」と尋ねました。
チミーからわけを聞いたジョニーは、チミーが暮らしていたお庭について、もっと詳しく聞いてみることにしました。
「君の話を聞く限りでは、なんだかつまらなそうな場所だね。雨が降ったら、いったいどうするんだい?」
「雨が降ったらね、砂地の小さな隠れ穴の中でじっとして、秋のうちに集めておいた麦や木の実の殻をむいたりして過ごすんだ」とチミーは答えました。
「外の原っぱにいるツグミやクロウタドリをこっそり眺めたり、お友達のコマドリくんとおしゃべりしたりするんだよ」
「それに、空が晴れたら、僕たちのお庭や、一面に咲き誇るお花が見られるんだ。ノバラに、ナデシコ、それにパンジー……。本当に静かなんだよ。聞こえるのは、鳥やハチの羽音、それに草地で暮らすヒツジたちの鳴き声くらいなんだから」
「またあの猫が来たぞ!」と、ジョニーが突然大声を張り上げました。
みんなで大慌てで地下室へと逃げ込んでから、またお話の続きが始まりました。
「正直なところ、ちょっとがっかりしてしまったよ。これでも君を精一杯おもてなししようと頑張ったつもりだったのだけれどね、かご入りチミーどの」
「いいえ、とんでもないです! これまで本当に親切にしてくださいました。ただ、僕の体に合わなくて具合が悪くなってしまっただけなんです」とチミーは言いました。
「きっと僕たちの食事が口に合わなくて、うまく消化できなかったんだね。それなら、もしかすると、君はあの編みかごに乗ってお庭へ帰ったほうがいいのかもしれないな」
「えっ? 本当に!?」と、チミーは思わず大声をあげました。
「そうとも。実はね、君を先週のうちに帰そうと思えば、いつでも帰せたのだよ」と、ジョニーは少し得意げに言いました。
「知らなかったのかい? あの野菜かごはね、土曜日になると空っぽのままお庭へ戻っていく仕組みになっているのさ」
というわけで、チミーは友達になったばかりの街ねずみたちにお別れを告げました。そして、お土産にもらったケーキの一切れと、少ししなびたキャベツの葉っぱを1枚持って、かごの中にそっと隠れました。
それから、また長い道のりをガタゴトと激しく揺られながら運ばれ、チミーは無事、懐かしい元のお庭へと下ろされたのでした。
土曜日になると、チミーはときどきお庭の入り口のわきに置いてあるかごを見に行きましたが、もう仕組みが分かっているので、二度と中に入ったりはしませんでした。
それに、かごの中から誰かが出てくることもありませんでした。
街ねずみのジョニーは「いつかお庭へ遊びに行くよ」なんて言っていたのですけれど。
やがて寒い冬が過ぎて、ぽかぽかとしたお日さまが戻ってくると、チミーは隠れ穴のそばに腰かけました。そして、自分の短くてふわふわの毛並みを温めながら、スミレや春の草木のいい香りを胸いっぱいに吸い込んでいました。
街へ行ったことなんてすっかり忘れかけていたそのとき、なんと、砂の小道の向こうから、おしゃれに身なりを整え、茶色い革のカバンを手に持って歩いてくる者がいました。……そう、街ねずみのジョニーです!
チミーは両手を大きく広げて、大喜びで大歓迎しました。
「一番いい季節に来てくれたね! さあ、ハーブのプディングを食べて、一緒にひなたぼっこをしようよ!」「うーん! なんだか、ちょっとじめじめしているねえ」
なんて言いながら、街ねずみのジョニーは、しっぽをわきにぎゅっとはさんで、泥(どろ)をよけながら歩いてきました。
「それにしても、あのものすごい音はいったい何なんだい?」と、街ねずみのジョニーはひどくびっくりして尋ねました。
「えっ、あれのこと?」と、かご入りチミーが言いました。
「あれはね、ただの牛(うし)だよ。ちょっとミルクを分けてもらおうと思っているんだ。全然あぶなくないよ。運悪く、あの大きな体の下敷きにさえならなければね! ところで、街のみんなは元気にしているかい?」
ジョニーの返事は「まあ、ぼちぼちといったところさ」というものでした。そしてジョニーは、この春先にわざわざお庭までやって来たわけを話し始めました。
なんでも、お屋敷の人たちがみんなお祭りで海辺(うみべ)に出かけているので、水道の係の人がお金をもらって、春の大そうじをしているのだそうです。そのついでに、ねずみ退治(たいじ)も特別に頼まれているらしくて、しかも子猫が4匹も生まれたうえに、お母さん猫がカナリアを襲ってしまったというのです。
「人間たちは、それを僕たちねずみのしわざだと言って疑うのだけれど、この僕がそんなおバカなことをするわけがないじゃないか!」と、街ねずみのジョニーは言いました。
「それにしても、いったい何事だい? あのものすごい騒がしい音は!」
「ふふっ、あれはただの芝刈(しばか)り機(き)だよ。刈り取られた草のきれはしを少し取ってくるから、すぐに君のためのふかふかなベッドを作ってあげるね。ジョニーさん、きっとこの田舎(いなか)でゆっくり休んでいったほうがいいよ」
「うーむ……そうだね、次の火曜日までここで様子を見ることにしよう。あの野菜かごも、しばらくは動かないみたいだしね。お屋敷の人たちが海辺に行っている間はさ」
「きっと君も、もう街になんて住みたくなくなっちゃうよ!」とかご入りチミーは言いました。
ところが、そうはなりませんでした。ジョニーは、その次に来た野菜かごに乗って、さっさと街へ帰って行ってしまったのです。なんでも、田舎はジョニーにとって「静かすぎて退屈(たいくつ)だった」のだとか。
人によって、それぞれ暮らしやすいお気に入りの場所は違うものですね。私としては、かご入りチミーのように、のんびりした田舎に住むほうが好きですけれどね。
(おしまい)
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