初級翻訳・まちねずジョニーのはなし 第1話

まちねずジョニーのはなし

まちねずみのジョニーが生まれたのは、おうちの戸棚(とだな)の中でした。

そして、かごいりチミーが生まれた場所は、みどり豊かなお庭でした。

チミーは田舎(いなか)に暮らす小さな子ねずみでしたが、あるとき、ちょっとした手違いから編みかごの中に入り込んでしまい、そのまま遠い街まで運ばれていくことになったのです。

お庭の持ち主のおじさんは、週に一回、街へ野菜を届けてもらっていました。そのために、いつも大きな編みかごへ野菜をいっぱいに詰め込んでいたのです。

おじさんがお庭の入り口のわきにかごを置いておくと、配達の運び屋さんが通りがかりにそれを引き取って持っていく、という仕組みになっていました。

そこへ、チミーが、かごにぽっかり空いていた穴から中へともぐり込みました。そして、とりあえずそこにあったおいしそうなお豆をぱくぱくと食べると……チミーはそのまま、ぐっすりと眠り込んでしまったのです。

ビクッとして目を覚ましたときには、なんと、かごがちょうど運び屋さんの荷車(にぐるま)に積み込まれるところでした!

その直後、いきなりガタッと大きく揺れて、パカパカ、パカパカと馬のひづめの音が響き渡りました。

かごのまわりには、ほかにも荷物がどんどん投げ入れられてきます。

長い、長い道のりを、ガタン、ゴトン、ガタゴトッ!と揺られながら、チミーはぎゅうぎゅうに詰め込まれた野菜の中で、ブルブルと震えていました。

やがて荷車は一軒のお家の前で止まり、ここでかごが下ろされ、家の中へと運び込まれて、床の上に置かれました。

そのお家の台所係の人が、運び屋さんにピカピカ光る白銅のコインを一枚手渡しました。

裏口のドアがバタンと閉められると、荷車はゴトゴトと音を立てて去っていきます。

だからといって、静かになったわけではありません。それどころか、まるで何百台もの荷車がいっせいに通りを走り抜けているかのような大騒ぎです。

犬はキャンキャンと吠え、男の子たちは通りに集まって口笛を吹き鳴らし、台所係の人も大声で笑い、住み込みのお手伝いさんまで階段をバタバタと駆け上がったり駆け下りたりしています。おまけに、カゴの中のカナリアまで、まるで湯気をふき出すかのようにピーピーと大はしゃぎで歌っているのです。

チミーはこれまで、静かな田舎のお庭でしか暮らしたことがなかったので、もう死ぬほど怖くてたまりません。

すると突然、台所係の人がかごを開けて、中の野菜を取り出し始めました。

その瞬間、怖がりなチミーは、かごからぴょーんと外へ飛び出しました!

びっくりして飛び上がった台所係の人は、イスにしりもちをつきながら、耳をつんざくような悲鳴をあげました。

「ネズミ! ネズミが出たわ! 早く猫を呼んで! 火かき棒を持ってきて、セアラ!」

でも、チミーが、火かき棒を手にしたセアラがやってくるのをじっと待っているわけがありません。

壁のすその板に沿って、とにかく一生懸命に走り、走りに走りまくりました。そして、小さな穴があるのを見つけると、そこへぴゅっと滑り込んだのです。

すると、ほんの少し(15センチくらい)下にすとんと落っこちました。なんと、そこはネズミたちのディナーパーティーの真っ最中! チミーはそのままテーブルの真ん中に突っ込んでしまい、グラスを3つもガシャーンと割ってしまいました。

「いったい君は、何者かね?」

と問い詰めてきたのは、街ネズミのジョニーでした。

とはいえ、ジョニーが驚いて声を荒らげたのは最初だけで、すぐにまた、すました態度に戻りました。

そして、とてもていねいな様子で、チミーをこのパーティーの仲間に招き入れてくれたのです。

そこにいたネズミは全部で10匹。みんなしっぽが長くて、おめかしをして白いネクタイをきゅっと締めていました。

それに比べて、チミーのしっぽときたら、とてもちっぽけなものでした。

ジョニーをはじめ、街ネズミの仲間たちもすぐにそのことに気づきましたが、みんな育ちが良いので、わざわざ口に出してとやかく言うようなことはしませんでした。

でも、たった一匹だけ、チミーにこんなことを聞いてしまったネズミがいました。

「ねえ、もしかして、ネズミ捕りの罠(わな)にでもかかったの?」と。

出されたディナーは全部で8品もありました。お皿にてんこ盛りというわけではありませんでしたが、どれも本当に上品でおしゃれな料理ばかりです。

どのお皿も、チミーが見たこともないものばかりで、口にするのも少しためらってしまうほどでしたが、お腹がペコペコでしたし、とにかくみんなのマネをしてお行儀よく食べようとがんばりました。

だけど、頭の上でたえずドタバタと音が響いているので、すっかり気が散ってしまい、うっかりお皿を床に落としてしまいました。

「気にするな。どうせこのお皿は、我々のものではないのだからね」と、ジョニーは優しく言いました。

「それにしても、若い者たちはどうしてデザートを持って戻ってこないのだ?」

ジョニーがそう言ったのは、実は2匹の若いネズミがみんなの給仕係をしていて、料理の合間に、上の階の台所へ食べ物を探しにいっていたからでした。

そのうち、2匹は何度も転びそうになりながら、キャッキャ、アハハと笑い声を上げて戻ってきました。

でも、チミーはハッと気づいて、急に怖くなりました。

なぜなら、その2匹は、なんと猫に追いかけられながら必死で逃げて戻ってきたところだったのですから!お腹が空いていたことなんて、すっかりどこかへ吹き飛んでしまい、頭がくらくらとしてきました。

そこへ、街ねずみのジョニーが「ゼリーはいかがですか?」と勧めてくれました。

「いらないかい? それなら、そろそろベッドに入って眠りたいのかな? それじゃあ案内しよう。とっても寝心地の良い、特等席のソファ枕があるんだよ」

そのソファ枕には、中にすっぽり入れるような穴が空いていました。

ジョニーは「ここが一番のベッドだよ!」と心からおすすめしてくれました。そこはお客さま専用の、とっておきの場所だったのです。

ところが、そのソファからは、なんと猫のにおいがぷんぷんとしてくるではありませんか!

かご入りチミーは、こんなところで寝るくらいなら、暖炉(だんろ)の下で寂しく夜を過ごしたほうが、よっぽどマシだと思いました。

次の日になっても、やっぱり状況は同じでした。

とても豪華な朝ごはんが出されました。というのも、街ねずみたちはいつも、ごちそうのベーコンを食べていたからです。

それに対して、かご入りチミーは、これまでお庭の根菜(にんじんやカブなど)やサラダを食べて育ってきたのです。

ジョニーと仲間たちは、昼間は床の下で大騒ぎをして、夜になると、なんと部屋に飛び出して家の中をめちゃくちゃにはしゃぎ回るのでした。

特に、ガシャーン!と大きな音が響き渡ったときは、お茶のお盆を持ったセアラが階段からすっ転んだ合図です。猫さえ気にしなければ、床に散らばったお菓子のくずや、お砂糖、ジャムのあとを拾って食べ放題になるチャンスなのでした。

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