初級翻訳・みにくいアヒルの子 第4話

みにくいアヒルの子

そこで、アヒルの子は家を出ていきました。そして、楽しそうに水の上を泳いだり、水の中にもぐったりしました。けれども、姿がみにくいために、どの動物からも相手にされませんでした。

やがて、秋がやってきました。森の木の葉は黄色や茶色に色づきました。強い風が吹いてくると、木の葉はくるくると舞い上がりました。高い空は寒々としていて、雲はあられや雪をふくんで、どんよりと垂れ下がっていました。生垣の上にはカラスがとまって、いかにも寒そうに、カー、カーと鳴いていました。考えてみただけでもぶるぶるっと震えてしまうような寒さです。

こんなとき、あのアヒルの子はどうしていたでしょうか。かわいそうに、すっかり弱り果てていました。ある夕暮れ時、太陽がキラキラと美しく輝きながら沈んでいきました。
そのとき、アヒルの子がこれまで一度も見たことのないような、美しく大きな鳥の群れが、茂みの中から飛び立ちました。
みんな、体じゅうが輝くように真っ白で、長くしなやかな首をしています。
それは、ハクチョウたちだったのです。
ハクチョウの群れは不思議な声を上げながら、美しい大きな翼を広げて、寒い場所から暖かい国へと向かうために、広い広い海を目指して飛んでいくところでした。
ハクチョウたちは、高く高く昇っていきました。
それを見上げているうちに、みにくいアヒルの子は、なんとも言えない不思議な気持ちになりました。
そして水の中で、車の輪のようにぐるぐると回ると、首をハクチョウたちのほうへ高く伸ばして、自分でもびっくりするほどの、大きく不思議な声を上げて叫びました。
ああ、なんという美しい鳥でしょう! あの美しい鳥、幸福な鳥のことを、アヒルの子は決して忘れることができませんでした。
ハクチョウたちの姿が見えなくなると、みにくいアヒルの子は水の底まで深く潜っていきました。
けれども、もう一度浮かび上がったときには、まるで夢中になっていました。
アヒルの子は、あの美しい鳥の名前を知りません。
そして、どこへ飛んでいったのかも知りません。
けれども、これまで見たどんなものよりも、一番なつかしく思われるのです。
なんだか、好きで好きでたまらなくなりました。
でも、うらやましいなどとは、少しも思いませんでした。
アヒルの子にしてみれば、あんな美しい姿になろうなんて、どうして願うことができましょう。
ただ、ほかのアヒルたちが自分を仲間に入れてくれさえすれば、それだけでどんなに嬉しいか分かりませんでした。

――ああ、なんてかわいそうな、みにくいアヒルの子でしょう!

いよいよ、冬がやってきました。
ひどい、ひどい寒さです。
アヒルの子は、水面がすっかり凍ってしまわないように、ひっきりなしに泳ぎ回っていなければなりませんでした。
けれども、一晩、また一晩と過ぎるうちに、泳ぎ回れる場所はだんだん狭く、小さくなっていきました。
あたりはまもなく、ミシミシと音を立てるほど凍りついてきました。
アヒルの子は、氷のために泳ぐ場所をすべてふさがれてしまわないように、休む間もなく足を動かしていなければなりませんでした。
でも、とうとう最後にはくたびれ果てて動くこともできなくなり、氷の中にとじ込められてしまいました。
次の朝早く、一人のお百姓さんが通りかかって、あわれなアヒルの子を見つけました。
お百姓さんはすぐさまそばへやってきて、木靴で氷を砕き、アヒルの子を家のおかみさんのところへ持ち帰りました。
こうして、アヒルの子は息を吹き返しました。
お百姓さんの子どもたちは大喜びで、アヒルの子と遊ぼうとしました。
ところが、アヒルの子のほうは、またいじめられるにちがいないと思って、怖くて怖くてたまりません。
あまりにびくびくしていたものですから、ミルクのつぼの中へとび込んでしまいました。
おかげで、ミルクが部屋じゅうに飛び散りました。
おかみさんは大声でわめきたてて、両手を高く上げて打ち合わせました。
それでアヒルの子はまたびっくりしてしまい、今度はバターの入っている樽の中へとび込みました。
それから麦粉の桶の中へとび込んで、そのあげく、やっとのことで飛び出してきました。
いやはや、大変な騒ぎです! おかみさんはキンキンした声で叫びながら、火箸でアヒルの子を叩こうとしました。
いっぽう、子どもたちは子どもたちで、アヒルの子を捕まえようとしてぶつかり合っては、笑ったりわめいたり。
いやもう、大変なことになりました! ――

ところが、ありがたいことに戸が開け放しになっていました。
それを見るが早いか、アヒルの子は、いま降ったばかりの雪の中の茂みへと飛び込みました。
――そして、まるで冬眠でもしているように、そこにじっとしていました。

さて、このあわれなアヒルの子が、厳しい冬のあいだに耐え忍ばなければならなかった苦しみや悲しみをすべてお話ししていると、あまりにも悲しくなってしまいます。

―― ――やがて、いつの間にか、お日さまが暖かく輝きはじめました。
そのころ、アヒルの子はまだやっぱり、沼のアシのあいだにじっとしていました。
もう、ヒバリが歌をうたいはじめました。
――いよいよ、すてきな春になったのです。
そのとき、アヒルの子は急に翼を羽ばたかせました。
すると、翼は前よりも強く空気を打って、体がすうっと持ち上がり、らくらくと飛ぶことができました。そして、なにがなんだかわからないうちに、アヒルの子はとある大きな庭の中にたどり着いていました。
庭ではリンゴの木が美しい花を咲かせ、ニワトコの花がよい香りを漂わせながら、長い緑の枝を静かに流れる掘り割りのほうへとしなやかに伸ばしていました。
ああ、ここはなんて美しいのでしょう! なんて春の新しい香りに満ちあふれているのでしょう!
そのとき、目の前の茂みの中から、三羽の美しい真っ白なハクチョウが出てきました。
ハクチョウたちは羽を羽ばたかせながら、水の上を軽やかに、まるで滑るように泳いできました。
アヒルの子は、この美しいハクチョウたちを知っていました。
そして、今その姿を見ると、なんとも言えない不思議で、切ない気持ちになりました。
「ぼくは、あの美しく立派なハクチョウたちのところへ飛んでいこう。
けれど、ぼくはこんなにみにくいから、近づいていったらきっと殺されてしまうだろう。
でも、いいや。
どうせぼくなんて、ほかのアヒルからは仲間外れにされ、ニワトリからはつつかれ、エサをくれる娘さんからは蹴飛ばされるんだもの。
それに、冬になれば、いろんな悲しいことや苦しいことをずっと我慢しなければならなかった。
そう思うと、ハクチョウたちに殺されるほうが、どんなにいいかしれない」
そう決心して、アヒルの子は水面へと飛び降り、美しいハクチョウたちの方へ向かって泳いでいきました。
それに気づいたハクチョウたちは、美しく羽を広げながら近づいてきました。
「さあ、ぼくを殺してください」
かわいそうなアヒルの子はそう言いながら、頭を水の上に垂れて、殺されるのをじっと待ちました。
――ところが、澄み切った水面には、一体何が映っていたでしょうか?
そこには、自分自身の姿が映っていました。

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