それは、本当に美しいものでした。
「ほら、とってもうまくできているだろう」と、カイは言いました。
「本物の花なんかより、ずっとおもしろいじゃないか。みんなきちんとしていて、悪いところなんて少しもないんだからね。……だけど、溶けなきゃいいんだけどなあ!」
それから少し経つと、カイは大きな手袋をはめ、そりを肩にかついで出てきました。そして、ゲルダの耳元でこう言いました。
「ぼくはね、みんなの遊んでいる広場でそりに乗ってもいいって、言われたんだよ」
こう言うと、カイはさっさと行ってしまいました。
広場では、元気いっぱいの子供たちが、ときどき自分たちのそりを通りかかったお百姓さんの車に結びつけては、ずいぶん遠くまでいっしょに走っていました。そうすると、そりはすばらしく速く走るのです。
こうして、みんながとても楽しそうに遊んでいると、大きなそりが一台やってきました。そのそりは、まっ白に塗られていました。中には、荒い白い毛皮にくるまって、白い帽子をかぶった人が座っていました。
このそりは、広場を二回ぐるぐると回りました。カイは、自分の小さなそりをすばやくその大きなそりにしっかりと結びつけました。すると、カイのそりもいっしょに走り出しました。
そりはだんだん速くなりました。またたく間に、となりの通りへ入りました。そのとき、そりを走らせていた人が振り返って、カイに親しそうにうなずいてみせました。なんだか、ふたりはもう前から知っているような気がしました。カイが自分の小さなそりをほどこうとするたびに、その人はうなずいてみせるのです。それで、カイはついそのまま、また座ってしまうのでした。
まもなく、ふたりは町の門を通り抜けました。雪はますます激しく降ってきました。目の前に手を伸ばしても、もう見えないくらいになりました。けれども、そりはどんどん走り続けます。
そのとき、カイは急いで綱をゆるめて、大きなそりから離れようとしました。しかし、そうしてみたところでどうにもなりません。カイの小さなそりは、大きなそりにしっかりと結びつけられているのです。しかも、二つのそりは風のように速く走っていきます。
カイは大きな声で叫びました。でも、誰の耳にも聞こえません。雪は降りしきり、そりは矢のように飛んでいきます。ときどきそりは跳ね上がりましたが、それはまるで堀や生垣を飛び越しているかのようでした。
カイは怖くてたまらなくなり、「主の祈り」を唱えようとしました。ところが、どうしても大きな九九の表しか思い出すことができないのです。
雪の結晶はだんだん大きくなって、とうとう大きな白いニワトリのようになりました。そして、それらが両側に飛びのくと同時に、大きなそりが止まりました。
すると、そりを走らせていた人が立ち上がりました。見れば、毛皮も帽子も雪でできています。その人は、すらりとした背の高い女の人でした。輝くように白い女の人でした。この人こそ、雪の女王だったのです。
「ずいぶん遠くまで来たわね」と、雪の女王は言いました。
「おやおや、震えているのね。わたしのシロクマの毛皮の中にお入りなさい!」
女王はこう言うと、カイを大きなそりに乗せて、自分のそばに座らせました。そして毛皮をかけてやりましたが、カイはまるで雪の吹きだまりの中に飛び込んだような気がしました。
「まだ震えているの?」と、雪の女王は尋ねました。そして、カイのひたいにキスをしました。
ああ、しかし、なんという冷たさでしょう! 氷よりもずっと冷たいのです。そしてその冷たさは、もう氷のかたまりになりかけていたカイの心臓の中にしみこみました。
カイは、いまにも死んでしまうのではないかと思いました!――けれども、それはほんの一瞬のことでした。すぐに気持ちがよくなり、もう自分の身の回りの冷たさを感じなくなりました。
「ぼくのそり! ぼくのそりを忘れないでね!」
カイは、そりのことを何よりも先に思い出したのです。そこで、そりは白いニワトリの一羽に結びつけられました。ニワトリはそりを背中に乗せて、あとから飛んできました。
雪の女王は、カイにもう一度キスをしました。すると、カイは、小さなゲルダのことも、おばあさんのことも、家のことも、みんな、すっかり忘れてしまいました。
「もう、キスはしてあげないよ」と、雪の女王は言いました。
「今度わたしがキスをすると、おまえは死ぬことになるからね」
カイは、雪の女王を見つめました。
なんという美しさでしょう! これよりも賢そうで、上品な顔は、どんなに想像しようとしても、とても思い浮かべることはできません。
この姿を見れば、いつか、窓の外から自分のほうへ手招きした時のように、氷でできているなんて、とても信じられません。
カイの目には、女王は、どこにも欠点のない、美しい人に見えたのです。
いまでは、少しも怖くはありません。
そこでカイは、女王に、自分は暗算ができること、それも分数の暗算ができることを話したり、国の面積のことや、「人口はどのくらい?」といったことなどを、得意げに話したりしました。
女王は、いつもにこにこと聞いていました。
けれども、カイは、自分の知っていることは、まだまだ十分ではないような気がしました。
ふと、広い広い大空を見上げました。
すると、女王はカイを連れて、空高く黒い雲の上まで飛んでいきました。
あらしが、ものすごい音を立てて、吹きまくっています。
まるで、むかしの歌でも歌っているようでした。
ふたりは、森を越え、湖を越え、海を越え、陸を越えて、飛んでいきました。
はるか下のほうでは、冷たい風が、ピューピュー吹いていました。
オオカミが遠吠えをしていました。
雪がキラキラと光っていました。
その上を、黒いカラスが、カーカー鳴きながら飛んでいきました。上のほうには、お月さまが、大きく、明るく輝いていました。
長い長い冬の夜じゅう、カイはそのお月さまをずっと見つめていました。
そして、昼のあいだは、雪の女王の足もとで眠りました。
三番めのお話
魔法を使うおばあさんの花園
お話は変わって、カイがいなくなってから、小さなゲルダはどうしたでしょうか? それにしても、カイはどこへ行ってしまったのでしょう?――知っている人は、ひとりもいませんでした。
教えてくれる人も、ありませんでした。
子供たちの話によれば、カイが自分の小さなそりを、大きな立派なそりに結びつけて、通りを走りぬけ、町の門から出ていくのを見たというだけです。
だれひとりとして、カイがどこにいるのか知りませんでした。
みんなは、涙を流して悲しみました。
ことに、小さなゲルダは、いつまでもいつまでも泣いていました。
――こうして、カイは、町のすぐそばを流れている川に落ちて、死んだのだろう、ということになりました。
そのため、本当に長くて暗い、冬の日がつづきました。
やがて、暖かいお日さまの輝く、春がやってきました。
「カイちゃんは死んで、どこかへ行ってしまったのよ」と、小さなゲルダは言いました。
「わたしは、そうは思わないよ」と、お日さまは言いました。
「カイちゃんは死んで、どこかへ行ってしまったのよ」と、ゲルダはツバメに言いました。
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